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鴎島

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
鴎島(かもめじま)

 こんにちわ。おや? いつもいっしょのお友達はどうしたのですか?
 そうですか。お友達にうそをついてしまったのですね。
 そうですね。今日は鴎島のお話をしましょうか。

 むかしむかし、白い時計搭のある村の遥か東にある国のある漁村に、鴎と話
のできる若者がいました。若者の名前は、チャーイカといい、腕の良い漁師で
もありました。
 チャーイカは初めから鴎と話せるようになった訳ではありません。
 それは、嵐の中に愚かにも密漁でた漁師たちを助けるためにチャーイカの兄
が海へ出て戻ってこなくなってからでした。
 チャーイカは、海で埋葬されること無く死んでいった漁師たちがそうである
ように、きっと兄も鴎になったから話せるようになったのだと思っていました。
 実際、鴎たちは自分に嵐が来ることを知らせてくれたり、魚のいる場所を教
えてくれるからです。
 それ以来、チャーイカは暇さえあれば鴎で白く染まってしまっている島、鴎
島で鴎と戯れていました。
 ある日、役人がやって来て、鴎島に灯台を建てることを漁村の人々に言いつ
けてきました。もちろん、チャーイカは反対しましたが、役人の言い付けを守
らないと、罰せられます。漁村の人々はしぶしぶ鴎たちを島から追い払おうと
しますが、その度に白い糞まみれになったり、鴎の鋭いくちばしで傷つけられ
てしまいます。
 漁村の人たちは、チャーイカに頼むことにしました。
 チャーイカは最初は断ったのですが、傷だらけの漁村の人たちを見ると断る
ことが出来なくなってしまいました。
 そこで、チャーイカは意を決して鴎島に行くと、鴎たちは一斉に飛び立ち蒼
いはずの空が白く塗りつぶされてしまいました。
 チャーイカと漁村の人々が呆然としていましたが、すぐに灯台を建てる作業
に入り始めました。
 その日以来、チャーイカの周りには鴎は1羽も近づいてきません。
 チャーイカはもしかしたら、鴎達を裏切ってしまったのではないかと思い始
めました。
 チャーイカ自身が、何をしたわけでもないのです。しかし、チャーイカが鴎
を追い払おうとしたのは本当のことでなのです。
 そして、漁村の人たちも灯台を作り始めてから何かが変わったことに気がつ
き始めました。
 魚の捕れる量が減ったからです。
「ああ、私はなんて事をしたのだろう。
 鴎達があの時去ったのは、私が鴎達を裏切ろうとしたことを知っていたから
だ。自分を裏切るものに近づくはずも無い」
 チャーイカはそう嘆いたとき、灯台は完成し、灯台の灯火がまぶしい光を放
ち、チャーイカを照らしました。するとどうでしょう。
 無数の鴎達が灯台のある鴎島に戻ってきたのです。
「!」
 チャーイカは鴎達が戻ってきた喜びをかみ締める暇も無く、鴎達の後ろの空
の様子に気がつきました。
「嵐だ! 嵐が来るぞ!」
 チャーイカが村中に触れ回ったその晩。
 一晩中、嵐が暴れまわっていました。
 ガツガツガツガツ、ゴーゴー、ヒューヒュー、ゴロゴロ、ギシギシ。
 ガツガツと激しい雨粒が物にあたります。
 ゴーゴーと唸りを上げています。
 ヒューヒューと甲高い雄たけびを上げています。
 ゴロゴロと雷が絶えません。
 そんな嵐の中、家はギシギシと悲鳴をあげています。
 一晩中暴れまわった嵐は夜明けとともに、嵐の家に帰ったのか、漁村にもと
の静けさが戻ってきました。 
 チャーイカが、扉を開けて、嵐の中、鴎がどうなったか恐る恐る鴎島のほう
を見ると、灯台の光は消え、したたかに鴎達の住処になっていました。

 いかがでしたか?
 友達におもわず嘘をついてしまうこともありますが、心から悔い改めれば
きっと友達も戻ってきますよ。

呟き尾形 2002/8/25 掲載

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