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花の童話

黄水仙

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
 むかし、むかしあるところに白い時計搭の
ある村がありました。
 リムネーは、おてんばで歌好きでお喋りな
娘です。
 いつも、村の真中にある白い時計搭でいろ
んなお話をしています。

「今日は、ちょっぴり、悲しくて、切ない物語なの。
 舞台は、昔々の森の奥の美しい泉なの・・・」

 森の泉にはミームスという水の精霊がすんで
いて、人や動物が泉を覗き込むと、そっくりに物
まねをして、相手の姿を水面に映し出す仕事を
していました。
 ある日、ウェヌスタという大変美しい美青年が、
のどの渇きを癒すために、泉に口をつけようとし
ます。
 ミームスはあわてて、美少年のものまねをしま
す。
 ミームスは、まじかで、美少年の美しさにふれ
て、思わず一目ぼれしてしまいます。
 一方、ウェヌスタも魅力的な水の精霊の姿を
見て水の精霊に恋をします。
 ウェヌスタは思わず、水の妖精を抱きしめよ
うとすると、水の妖精は、恥ずかしくて、その
場から逃げてしまったようです。
 ミームスは、泉に訪れた人とは余計なおしゃ
べりをしてはいけないと、ミームスを作り出し
た神様に命令されていたからです。
 もし、その命令に背けば、ミームスは泉の泡
となって消えてしまいます。
 それでは、もう、美少年と会うどころか、恋
しいと想うこともできません。
 ミームスは、自分の役割を果たすことで、美
少年への恋を貫きます。
 一方、そんなこととは知らないウェヌスタは、
水の精霊が愛おしくてなりません。
 ウェヌスタは、再び、水面を覗き込むと、水
の妖精もウェヌスタを覗き込みます。
 ミームスは、再び美少年と出会えてとてもう
れしくおもいました。
 ウェヌスタは水の精霊に微笑みかけます。
 ミーヌスも美少年に微笑みかけます。
 ウェヌスタは、水の精霊にスキだと話しかけ
ますが、水の精霊は何も応えません。
 いえ、ミームスは美青年の声に応えたいけれ
ど、応えられないのです。応えたとたんに、ま
さに、すべてが水の泡になるからです。
 ウェヌスタは、なぜか、理不尽に感じ、水の
精霊に対して、怒りに顔を真っ赤にします。
 ミームスも、自分の立場と役割のもどかしさ
に怒りに顔を真っ赤にします。
 ウェヌスタは、この切なさに思わず涙がこぼ
れます。
 ミームスも、同じ気持ちで涙し、二人の涙は
同時に水面にこぼれて、恋の波紋を作ります。
 それだけが二人の接点でした。
 そして、美青年と水の精霊は、お互いを愛お
しく想い、お互いを見つめあいます。

 でも、ウェヌスタが水の精霊に話しかけよう
と、ミームスは応えることができません。
 ウェヌスタから見れば、水の精霊は黙ってい
るだけ。抱きしめようとしても、いなくなって
しまいます。

 ウェヌスタは、そんなことを何度も何度も繰
り返し、報われぬ恋に悩み、そのまま、川辺で
横たわって、二度と起きない眠りにつきました。
 水の妖精と思い込んでいたのは、自分であっ
たことに気がつかぬまま。

 ミーヌスは美青年の眠りを嘆きます。
 それを一部始終見ていた神様は、ミーヌスと
ウェヌスタを哀れに思い、ウェヌスタの眠りに
着いた場所から、美青年を思い出させる清楚で
黄色い水仙が花を咲かせます。
 ミーヌスは、ずっと黄色い水仙の姿を眺めて、
哀しみをいやしました。
 もう、いとしい美青年から話しかけられるこ
とも、それに応えられない苦痛から逃れられま
した。

 黄色い水仙の花言葉は、愛に応えて、自己愛、
うぬぼれ、我欲。

 もし、ウェヌスタが水の精霊ではなく、ミー
ヌスを見出したなら、ミーヌスが美青年ではな
く、ウェヌスタを見出したなら、きっと、二人
は結ばれたでしょう。

 恋は自分を想う気持ちではなく、相手を思い
やる気持ちなのですから。


呟き尾形 2004/7/3 掲載

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