村の広場へ戻ろう いや、ホームかな?

白い時計搭のある村の物語発表会

永遠の裸身(とわのらしん) 前編

 

 

 

 

 

 

 

 


★★★
 登場人物紹介
『呟き尾形』:メールマガジン発行者
クニークルス:奇妙な物言うウサギ。司会者のはず・・・。
「ムーシコス」:音楽の好きな少年。司会者だと思います。
※各台詞は、名前を囲んでいる括弧の人物の台詞です。


 ブォン ジョルノ こんにちわ。
 今回は横井直高さんより投稿小説がありました。
 ちょっと長めなので、前編 後編の2回
に分けてお届けします。
「ということで、今回は”永遠の裸身”です」
 とわのらしん? えいえんのらしんって読んじゃうね。
「ジャンルは純文学というからどんな内容なのかな?」
 純文学は純文学です。
 じゃぁ、早速はじめようか、永遠の裸身 前編!
 イニーツィオ!!!

★★★
  永遠の裸身(とわのらしん) 前編
 ごめんなさい。やはりあなたを道連れにはできません。わたしひとり、永
遠の旅にたちます。

 あなたには奥様がいらっしゃいます。かわいいお子様もいます。ご家族を不
幸せにするなんてわたしには考えられません。雪深いこの町まであなたと旅行
にきたのも、いっしょに死ぬ気ではなかったのです。ただ、わたしの最期のひ
とときをあなたとふたりきり、見知らぬ土地で誰にも気がねなく過ごしたかっ
ただけなのです。

 今、あなたのとても安らいだ寝顔を見ながらこの手紙をしたためています。

 あなたはまだご自分も死ぬとお思いになっていらっしゃるだろうに、お顔に
は不安も恐れも見えません。心をお決めになった人だけがみせるとてもおだや
かなお顔に接していると、ペンもとまり、ずっと見つめていたくなります。あ
なただけを見つめて、あなただけを考えて、あなた以外、何もない自分になっ
て死んでいけるわたしはなんて幸せものでしょう。

 宿の中庭につもる雪が外灯の光を照りかえして部屋の障子を異様なぐらいに
真っ白くさせています。あなたを起こさないようにと部屋の明りを消したのに、
ふとんからのぞくあなたのお顔がやんわりと浮かんで見えます。今、あなたは
小さな寝返りをうって天井を向いていたお顔をほんの少し、わたしのほうへと
向けました。わたしからは形のいいほっそりとしたおはなが、ちょうどいいぐ
あいに見えます。

 額にかかる前髪が乱れかかっています。ごいっしょしたお風呂のあと、まだ
寝る前なのに、今夜の髪型は君に決めてほしいと言い出したあなたの求めに応
えて、三十分もかけて整えた髪なのに。おそばに寄ってもう一度、あなたの髪
をなでつけたい。あなたがいつも自慢していた高いおはなにも触れてみたい。
おはなが寝息のせいで動くのを見ているうちに、あなたの息を吸いこんでみた
くなりました。唇をそっと寄せてあなたの息を受けると、口のなかにあなたそ
のもののようなぬくもりが広がっていきます。

 そのおはなにあなたらしさを感じると、なぜだか涙があふれて手紙が進まな
くなっています。

 この町に来てから三日間、最期の思い出をこんなにも美しく飾れたのは、あ
なたのおかげです。

 ふわふわと舞い散る雪にこどものようにはしゃいであなたにせがんだ散歩。
宿からでると、あなたはわたしの手をとって、すべりやすい道をゆっくりと歩
いてくださいました。その優しさにわたしの小さな手が小鳥のようにくるまれ
ます。手袋の上からでもあなたの肌が感じられます。なんて優しく柔らかな手
なんでしょう。はしゃいだりしたら、あなたに包まれた手がすり抜けてしまい
そう。でもそんなことをしたら、もうあなたの手にくるまれなくなってしまう。
あなたの手が感じられなくなってしまう。もしかしたら死へと旅立つのはわた
しではなく、あなたかもしれない。そんなふうに考えてしまうと、本当にあな
たを道連れにしてしまいかねません。

思わず、わたしは立ち止まってあなたのお顔を真正面から見つめていました。
すぐに察して下さったあなたは、わたしの手がどこにもいかないように強く握
ってくれます。わたしを映す透きとおった瞳に吸いこまれていきそうです。わ
たしの体があなたへと近づいていきます。あなたの腕が背中に回って、もうわ
たしはあなたのもの。あなたを見つめる瞳をそっと閉じて、くちづけを受ける
唇が雪のように濡れてとけていきます。気が遠くなるようで、あなたにわたし
を預けて抱きしめられました。

 人の往来も気にしないで抱きしめあい、見つめあうわたしたちを、粉雪がベ
ールをかけたように包んで、傘をさす人たちを隔ててくれます。わたしは雪を
受けて白くなりながら、いよいよ永遠の旅にたつのだと実感しました。

 あなたと愛しあった日々が、涙のひとつぶ、ひとつぶに宿って頬をこぼれて
いきます。涙をぬぐってくれたあなたの指をにぎりながら、わたしは何度もあ
りがとうと言いました。あなたにしていただいたすべてに感謝の気持ちでいっ
ぱいだったのです。

 人目を気にするばかりの逢瀬に悲しみ、あなたとの許されない愛に疲れはて
て、いっしょに死んでとおすがりしたとき、あなたはためらいもしないで、う
んとうなずいてくれました。どんなにかうれしかったでしょう。どんなにかと
きめいたでしょう。これで思い残さず死んでいける。

 あなたを想いつづけて死ぬことだけが、わたしの生きる望みになったのです。
あなたが死を憧れに変えてくれたのです。

 そのとき、旅立つ場所が決まりました。きのう、あなたに連れて行っていた
だいたあの洞窟です。奥は真夏に来たときでさえ氷点下で、永遠に溶けない氷
が、切り立つ岩をおおいつくしています。

 あそこにわたしの裸身を置くつもりです。あなたに愛していただいたこのう
なじ、この胸、この足をうつろう時にさらしたくないのです。氷に閉じこめて、
あなたが愛してくださったままの姿を、いつでも見られるようにしておきたい
のです。
★★★
「わ〜! 主人公の女の人、自殺するつもりだよ! ど、どうなるのかなぁ」
 それは次回のお楽しみ。
「でも、なんで、自殺なんか・・・」
 命に代えがたい男女の想いっていうのはあるものさ。ムーシコス君。まぁ、
大人になれば分かることだよ。
「そういえば、僕、大人になれるのかなぁ・・・」
 それは、シニョール呟き尾形次第ってことで、次回をお楽しみに。




 

 

 

 

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