テーマ「喜」
日曜日の昼下がり。
なんともすがすがしい目覚めである。
残業付けで、とどめに土曜日の休日出勤は、日曜日の始発で帰ると言う火事場
となったプロジェクトには必然的な結果であると同時に、それは寝坊を意味して
いた。
朝早くセットしていたはずの目覚まし時計は、あきれかえって、昼時を指して
いる。
約束の時間は11時。
はっきり言ってデートは遅刻。
それでも、化粧をせねばと思ってしまうのは女のサガというものか・・・。
「ごめーん。まった〜?」
我ながら白々しいとは思いつつ、真面目に私を待ってくれる彼がいる。
当然、不機嫌。禁煙していたはず。うわ〜、灰皿には吸殻の山が待ち時間が
逆算できる。
「いーや、ぜんぜん!」
私をにらみつけながら、皮肉を言う。
まぁ、当然といえば当然だ。帰らなかっただけ彼はエライ。
私だったらソッコーで帰っているだろうし。
「まぁ、いい。
すわれ。
今日は特別な日なんだ」
なにをエラソーに。
いっとくけど、稼ぎはあんたより上よ。
ん? 特別な日だったかな?
誕生日は来月だし、クリスマスにはまだ早いし。
そういえば、告白された日は3年前の成人の日だったかな。でもハッピーマン
デーで何日かわすれたな。 連休が増えたのはいいけど、覚えにくいよな。ハッ
ピーマンデーは。
じゃなかった、特別な日のことだ。ホワイトデー? いやいや、その前にバレ
ンタインデーだし・・・。
エイプリルフールにゃ、まだ早い。
ゴールデンウィークたって、特別なわけがない。第一、毎年ゴールデンウィー
クは仕事なの。
あとは6月は梅雨でイベントらしいものはないだろうし・・・。
あるとすれば、ジューンブライドってなにを早とちりしているんだ私は。
結婚意識しすぎ。
「あー、こんな日に遅刻するのは、忘れっぽいお前にはちょうどいいかもな」
なにをぅ! と思ったけど、言葉とは裏腹に、彼は照れくさそうに、純白の
小箱を差し出す。
って、これはまさか!
私は胸を高鳴らせ、小箱を受け取り、ふるえを抑えながらふたを開ける。
ビンゴ!
「あー、分かったな!」 照れ隠しに声を大きくして誤魔化す彼。
「えー、わかんなーい。特別な日にするんでしょ。じゃないと返事しなーい」
私の意地悪に、彼はあわてて、たどたどしく、用意していたであろうプロポー
ズの文句を口にする。
練習ご苦労さん。まったく、安い給料のくせにこんなものを。私はあなたの言
葉の方がずっと価値があるのにねぇ・・・うん。
え? どんな台詞だって?
ひ・み・つ。
二人だけの特別な魔法の言葉だから。
★★★
喜怒哀楽の喜びをテーマにしたトレーニングです。
まず、私は男です。男というものは、なかなか女性の心のうちがわかりませ
ん。
となると、やっぱり、女性の一人称というのが苦手になります。
そこで、女性の一人称に挑戦(トレーニング)してみました。
まぁ、「ビンゴ!」でやめれば、「喜怒哀楽」の「喜」になるのでしょうが、
しまりがわるくなるので、ついつい書いてしまいました。
呟き尾形 2005年1月30日 アップ