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夢の壺

 

 

 

 

 

 

 

こんにちわ。
今日は何の話をしましょうか?
え? 夢を見たんですか?
どんな夢でしたか?
・・・・・
それは楽しい夢でしたね。
でも夢だからあまり嬉しくないですって。
とんでもない!
夢も一つの本当のことなんですよ。
そうですね。今日は夢の詰まった壺の話をしましょうか。

 

 昔々、白い時計塔のある村のはるか東にある歴史のある国に、ジラーニィと
いう欲の深い大金持ちがいました。
 ジラーニィはたくさんの召使いを雇ってましたが、安いお金で召使い達を日が
昇ってから夜空が星で埋まるまで休む暇もなく働かせました。
 召使いの中で一番年をとっている召使いがいます。年よりの召使は、動かな
い手足を無理矢理使って畑仕事をしていたある日、1匹の野鼠を捕まえました。
 その野鼠はただの野鼠ではなく、人の言葉をしゃべるのでした。
「ああ、どうか、どうか命ばかりは助けて下さい」
 泣きながら助けを求める野鼠が何ともかわいそうに感じた召使いは、別に野
鼠ぐらい逃がしても、悪いことはないだろうと思い、野鼠を逃がしました。
「ありがとうございます! ありがとうございます!!」
 野鼠は召使いに何度もおじぎしました。
「何かお礼がしたいのですが、私めはなにも持っていません。何か私にできるこ
とはありませんか?」
 召使いは別に何も望みませんでしたが、もしできるなら疲れた体を休めたいと
言いました。
「それなら、あの蔵にある汚い壺を寝る前に割って寝ると体の疲れなんて吹き飛
んでしまうと聞いたことがあります!」 
 そう言って野鼠はもう一度おじぎをしてから、消えるようにどこかに行ってしまい
ました。
 召使いは、夢から覚めるような気分でしたし、野鼠の言葉など信じてはいません。
召使は、その日忙しさに野鼠の言葉など忘れてしまいました。
 何日かたってからのある日、召使いは蔵の門番をすることになりました。蔵の番
は畑仕事なんかよりずっと楽な仕事です。
 蔵の番をしていると、一匹の鼠が横切りました。鼠は蔵にある小さな穴から入っ
ていきました。その鼠を見たとき召使いは野鼠の言葉を思い出しました。召使いは
昨日の麦の残りがあるので、今日の給金は蔵の中の壺に代えてもらおうとしました。
召使いは蔵の中を見回るときに一番汚い壺を見つけて主人のジラーニィに、今日
の給金の代わりに一番汚い壺が欲しいと言いました。
 ジラーニィは、蔵にある物はすべて売れ残りの商品でしたし、捨てるのがもったい
ないので蔵にいれていただけですので、喜んで壺を召使いに渡しました。

 そしてしばらくして、違う召使いが蔵の中の壺が欲しいと言い出しましたので、ジラ
ーニィは、今日の給金の分が得をしたと思い喜んで壺を渡しました。
 そして同じくらい日をあけてまた違う召使いが、壺が欲しいと申し出てきたので、さ
すがのジラーニィも気になって召使いに問いただしました。
「何で、そんな汚い壺なんか欲しがる?」
「へぇ、なんでもこの汚い壺を寝る前に割って寝ると、いい夢が見れるそうです。」
「ゆめ? そんなものを見てなんになる。」
「へぇ、でも、そうやって夢を見た奴はみんな元気になっているんであっしも試してみ
ようかと思いやして・・・」
 ジラーニィは夢ごときに1日分の給金を無駄にするなんてばかばかしいと思いまし
たが、自分は得をするのでいっこうに構わないと思い、汚い壺を渡しました。
 そうやって、同じくらいの日をあけて、召使い達が壺を欲しがり、その度に汚い壺
を渡しました。不思議なことに壺を欲しがる召使いはすべて別の召使いで、壺をも
らった召使いは2度と汚い壺を欲しがることはありませんでした。
 そして、蔵の中に汚い壺が無くなると、召使いは売り物に成りそうな綺麗な壺が欲
しいと言いました。
「それは、今日のおまえの給金より高く売れそうだからダメだ。」
「そうでげすか・・・とても残念でげす。」
 そう言って召使いは壺をあきらめました。ジラーニィは、こいつは商売になりそうだ
と思って、綺麗な壺を召使い達に売りつけようとしましたが、その日を生きていくの
がやっとの召使いに、そんな余分なお金があるわけもなく、壺は全く売れませんでし
た。
 ジラーニィは仕方がないので、壺を欲しがる召使いに2日分のはたらきで綺麗な
壺を渡すことにしました。そして、1人の召使いが、2日間ただ働きをして綺麗な壺
を手に入れましたが、その召使いは夢なんて見ませんでした。
 綺麗な壺は普通の壺だったのです。
 その噂が召使いの間であっと言う間に広まり、もう壺を欲しがる召使いは出てきま
せんでした。
「まぁ少しは得をしたからいいか」
 とジラーニィは呟きましたが、何となく悔しいので、蔵の中を探し回ると、1つだけ
汚い壺が見つかりました。
「おお、これだ、これだ。だが一つだけでは商売にも成らない。一つわしが試してみ
ようか。」
 ジラーニィはそう呟いてから寝る前に壺を割って眠りました。

   ジラーニィは野鼠になっていました。
「な、何だ!これが良い夢か!」
 すると、1人の年をとった召使いがジラーニィを見つけました。召使いはジラーニィ
を捕まえました。
  「ああ、どうか、どうか命ばかりは助けて下さい。」
  ジラーニィは泣きながら助けを求めました。召使いはジラーニィを逃がしました。
「ありがとうございます! ありがとうございます!!」
 ジラーニィは召使いに何度もおじぎしました。
「何かお礼がしたいのですが、私めはなにも持っていません。何か私にできることは
ありませんか?」
 召使いは別に何も望みませんでしたが、もしできるなら疲れた体を休めたいと言い
ました。ジラーニィは自分を助けた召使いは1番始めに汚い壺を欲しがった召使い
だと言うことを思い出しました。
「それなら、あの蔵にある汚い壺を寝る前に割って寝ると体の疲れなんて吹き飛
んでしまうと聞いたことがあります!」 
 そう言ってジラーニィはもう一度おじぎをすると、目が覚めました。

「ああ、夢がこんなに恐ろしいものだなんて・・・」
  ジラーニィはそう呟きました。

  いかがでしたか?
  え? 意味が良く分からない?
  そうですね。このお話は何を伝えたいのでしょう?
  夢を馬鹿にしてはいけないと言うことでしょうか?
 それとも、悪いことをするといつか自分にしっぺ返しが来ると言うことでしょうか?
 それとも、夢も現実も区別が付かないのではないかという事でしょうか?
 それとも、もっと別のことを伝えようとしているのかも知れません。
  それはあなたがじっくり考えてください。

2000/05/21作 呟き尾形

 

 

 

 


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