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二人の薪取り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  こんにちは、どうしました?
 正直者は馬鹿を見る。ですって?
 そんなことはありませんよ。
 それでは、今日は、二人の薪取り。というお話しをしましょうか。

  昔々、白い時計塔のある村のはるか東の歴史のある国のある村のお話し
です。
  その村には、スピーチカというまじめですが、忘れっぽい薪取りと、アリエー
ニという不真面目ですが、物覚えの良い薪取りがおりました。
 スピーチカは、毎日、毎日、夜明けとともに、山に出て、薪を拾って、お天道
様が登る頃まで、町の人に薪を売りに山を降たのです。
 ある日、スピーチカは、鹿を狩る夢を見ました。
 その事を嫁に言うと、「そんな夢の事よりも、さっさと薪を取ってきておくれ」と、
言われるばかりでした。
  スピーチカは、鹿を狩ってよい気持ちになっていたのですが、嫁の一言で結
局、夢でしかなかったんだ。と思うようになりました。
 それから何日かたったある日。
 スピーチカはまた鹿を狩る夢を見ました。
 今度は、そのことを嫁に話さず、いつもどおり薪拾いに出たのです。
  また、お天道様が登ったので、山を降りようとしたとき、角の生えた子供が
スピーチカの目の前に現われました。
「お、鬼!」
  スピーチカは腰を抜かしました。角の生えた子供はスピーチカの様子を見
てケタケタ腹を抱えて笑い始めました。
 「楽しませてもらったよ。おいらはミチターニっていう夢魔だよ。楽しませてくれ
たお礼になにか夢を見せてあげるよ。とびっきりのね」
  スピーチカはきっと夢を見ているのだろうと思いました。
 すると、目の前の夢魔は恐ろしくもなんともありません。
 「では、夢魔様、私が鹿を取る夢を見せさせてください。毎日です」
 「毎日かい? そんなのお安い御用だよ。なんたっておいらは夢魔だからね」
  夢魔がそういうと消えてしまいました。 「ああ、やっぱり夢だったんだ」
  スピーチカは起きながら見る夢もあるんだなぁなどとぶつぶつ言いながら山
を降りて行きます。
 降りる坂道の途中、茂みの奥からガツン、ガツンと音がします。
 夢魔に会う前のスピーチカなら、そのまま逃げ出すように坂を下ったのでしょ
う。でも、スピーチカはその音が何か知りたくなって茂みを掻き分け覗いてみま
した。
 するとどうでしょう。茂みの奥で、大きな枝分かれをした2本の立派な角をもつ、
2頭の鹿が、角を突きつけて、ぶつかり合っていました。
 鹿たちは、縄張り争いをしていたのです。
 (ああ、さっきの音は、この音だったんだ)
  スピーチカはそのことに満足した時に、鹿は両方とも倒れてしまいました。ス
ピーチカは2頭の鹿を狩る事が出来たのです。
「ああ、夢のようだ。いや、これは夢なんだよな。でも、もし夢じゃなかったら、
大変なことだ。そうだ、一応、この鹿を隠して明日また取りに来て見よう。そ
れで、まだここに鹿があれば、夢ではないし、無ければ夢だったんだ」
 スピーチカはそういって、草むらに2頭の鹿を隠したのでした。そして、目印
に1本の薪を刺して、目印にしました。
 「道端に一本薪が指してある場所に、2頭の鹿がいる」
  スピーチカは、それを忘れないために、自分に言い聞かせるように山を降り
ていきました。たまに人とすれ違うのですが、スピーチカはそんなことお構いな
しです。そのすれ違った人の中にアリエーニもいましたが、スピーチカはきづき
もしませんでした。
  鹿を隠しているうちに、町についたのは、いつもより遅く、日が暮れてしまい
ました。
 ですから、薪は一本も売れません。
  スピーチカが家に帰ると、嫁が薪を背負ったスピーチカを見て顔を真っ赤に
しました。
 「いったい、何処で油を売っていたんだい!」
 「いや、売っていたのは油じゃなくて、薪だよ」
「そんなことを言ってんじゃないよ!」
  嫁はますます顔を赤くして怒りました。
 「いやいや、俺は今日は2頭も鹿を狩ったのでそれで、町に行く時間がおくれ
たんだよ。道端に一本薪が指してある場所に、2頭の鹿を隠したんだ」
 「なに! 昼寝していたのかおまえさん。今日は何を食べるつもりでいるんだ
い、夢の鹿なんか食えるわけが無いだろう!」
 そんないい合いを一晩中続けてまた、次の日の朝になりました。
 「もし本当に鹿を狩ったのなら、その鹿を持ってきな」
  嫁はスピーチカをほおりだしました。
 スピーチカが「道端に一本薪が指してある場所に、2頭の鹿がいる」
 そう呟きながら道端の一本の薪が指してある場所に行きましたが鹿なんかい
ませんでした。
 「ああ、やっぱり夢だったんだ」
  スピーチカは、情けなくて、情けなくて、悲しくなってワンワン泣き始めました。
  その頃、隣に住んでいた、同じ薪売りのアリエーニは2頭の鹿を拾ってきて
鹿鍋を食べていました。
 「いやー、スピーチカがぶつぶつ言っていたとおりに探してみたら、本当だっ
たワイ」
 それからというもの、スピーチカは、これに懲りて益々まじめに仕事を行い、ア
リエーニは、仕事もせずに茂みの中に鹿がいないか探しつづけているそうです。

 いかがでしたか?  え?
  結局、正直者は損をする。ですって?
  そうでしょうか?
  スピーチカはこれに懲りて、もっとまじめに暮らしましたが、アリエーニはどう
でしょう?
 お話の後のことを考えてみるのも楽しいですよ。

呟き尾形2001年 6月17日作

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