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五つの竜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5つの竜

 こんにちは…おや? 今日は一人ですか?
 え? ケンカをした。ですって。
 そうですね。今日は喧嘩した5つの竜の話をしましょうか。
 
 昔々、白い時計塔のある村ができるずっと前のお話です。
 太陽を年中背負って大地に太陽の恵みを与えるユースという神様がおりました。ユースは休まず毎日朝になると太陽を昼時までに空の天井まで運び、夕暮れまでに地平線まで届ける仕事をしていました。そんな、ユースの周りには5つの竜を従えていました。
 5つの竜は、それぞれうろこの色が違い、青、赤、黄、白、黒と5つの色でした。竜達はその色で互いを呼び合うことにしています。
竜達はとても仲がよく、お互い助け合っていました。木をつかさどる青竜は、つかさどる木を燃やす事で火を生み、火をつかさどる、赤竜は燃えたものを灰にする事で土を生み、土をつかさどる黄竜は土の中で金属を作り出し、金をつかさどる白竜は金属の周りに水滴を浮かばせ、水をつかさどる黒竜は水により木を育てたのです。
 ある日、ユースは仕事に疲れた時に、不意に呟きました。
「ああ、私の仕事は下に住んでいる人間達に感謝されているのだろうか?」
「下界にいる人間どもは、ユース様の御心までは、理解するに至らないのでしょう。そこは、察してくださいませ」仁愛を美徳とする青竜が言いました。
「理解に至る、至らないの問題ではない。人間がユース様を崇拝するのは当然だ」義を美徳とする白竜が言いました。
「確かに、ユース様を崇拝する事は当然だが、人間の崇拝の仕方がおろそかではないか」礼を美徳とする赤竜が言いました。
「だが、無形のものを信じるのは、難しいぞ。いっそ、ユース様の御姿を像にしてはいかがでしょうか?」智を美徳とする黒竜が言いました。
「それでは、偶像に対する信仰になってしまいかねない。無形のものを信仰する人間の心を信頼しようではないか」信を美徳とする黄竜が言いました。
「下賎な人間を信じるのではなく、ユース様の深い仁愛で解決すべきだ」青竜が言いました。
「ふむ、では、5つの竜達よ、ためしに、像を作るが良い」
「「「「「かしこまりました」」」」」
 5つの竜の頭が一緒に下がりました。
 さて、5つの竜は、これまでのように協力して一つの像を作るのではなく、それぞれ自分のつかさどるものを操り、ユースの像を作りました。青竜は決して腐らない桃泉郷の木を使い像を作りました。白竜は鉱山より、金を掘り、金で像を作りました。赤竜は大きな竈をつくり、炎たちユースの御姿をあらわす踊りを踊りつづけるよう命じました。黒竜は湖を作り、水面に浮かぶ太陽を映し出すようにしました。黄竜は大地の土を使い変哲のない像を作りました。
「黄竜よ、それでは雨風にさらされれば、形がなくなるではないか」
青竜が言いました。
「…」黄竜は黙ったままです。
「おいおい、青竜、黄竜の事は言えんぞ。もし、嵐が来て大水になったら、おまえはどこまでも流されてしまうではないか。金の像は簡単には流されんぞ」白竜が言いました。
 青竜は白竜の言葉に目を白黒させました。
「だが、白竜よ。人間とは欲深で、金の像となればそれを溶かしてどこかへ持ってゆくやも知れんぞ。その点、竈はどこかに持っていかれることはない」赤竜は言いました。今度は白竜が目を白黒させる番です。
「いやいや、赤竜、竈はいいが、大水で火が絶えたらどうする? その点、私の湖はそんなことはない」黒竜が言いました。赤竜は目を白黒させました。
「だが、白竜よ。日照りが続いたらなんとする? 大地に水を吸われ、湖がなくなってしまうぞ」黄竜はこっそり呟きました。黒竜は黄竜の呟きが耳に入り、目を白黒させてしまいます。
 5つの竜の会話を聞いていたユースは腕組をして考え込みました。
「ユース様。このように、像を作り、形あるものに信じる事を求めれば、それが形を変え、あるいは形を無くせば信じる心も変化し、無くなります。ならば、像に信仰を求めるのではなく、1つの流れに信仰を持たせてはいかがでしょうか」黄竜が言いました。
「どういうことか?」
「木々を絶やさず、人間に一部の木を薪として人間に与え、火の中に太陽の光を見せ、生活から生じた灰を大地に返し、白竜は人間に金物を与え大地を耕させ、黒竜は必要な分だけ雨風を人間に与える。
明るい時には森の幸を人間に与え、太陽が無い時は火の光で人間を照らし、大地の恵みを与え、昼間には金物において大地を耕させ、雨風にて、農作物を育ませる。この流れに太陽の光は必要不可欠であることを人間に伝えれば、人間はユース様を敬い、信仰するに違いありません」
「なるほど」
 ユースと他の4竜は頷きました。5つの竜はそれ以来、みな協力し合って過ごしたそうです。

 いかがですか?
 仲間と仲直りする気持ちになれましたか?

 

 

 

 

 

 

 

呟き尾形 10月29日作

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