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リクガメ仙人、ウミガメ仙人

 

 

 

 

 

 



 こんにちは。
 どうしました? ここまで歩くのが面倒ですか? いっそ、馬に乗って
くるですって? そんなことをして本当にいいのですか?
 そうですね、今日はリクガメ仙人とウミガメ仙人の話をしましょうか。

 むかし、むかし、白い時計搭のはるか東にある歴史ある国にリクガ
メ仙人とウミガメ仙人という、仙人がおりました。リクガメ仙人とウミガ
メ仙人は、世界ができる時と一緒に生まれ、知らない事はないと言わ
れるほど、たくさんのことを知っていました。
 東の国の皇帝は、チリパーハという役人に、どちらかの仙人を相談
役につけたい。と言いました。チリパーハは皇帝の命令を受けました。
 リクガメ仙人は大男が4人で運ぶくらいの岩ほどの大きさをしている
大きな亀の姿をしており、ウミガメ仙人に会うために、世界が出来た
時から崑崙山からずっと歩いていますが、その歩みは恐ろしく遅く、
その上、一歩も進まず考え事をする日もあり、世界が出来てからまだ
海に到達すら出来ていません。一方、ウミガメ仙人は東の国のあらゆ
る海を泳ぎ渡り、春の時期に南の浜辺に子供を産卵するのでした。
チリパーハは、まずは、歩みの遅いリクガメ仙人のところへ行きました。
リクガメ仙人は岩のような甲羅を背負ってノソリノソリとユックリジック
リ歩いています。
「あなたがリクガメ仙人ですか?」
「いかにも」
「私はチリパーハという役人です。皇帝があなたのお知恵を借りたいと
申しております。もしお望みなら、あなた様を一度南の浜辺までお運び
し、ウミガメ仙人と会ってからでもかまいません」
「チリパーハとやら、汝は鳥かごの鷹と空飛ぶ小鳥のどちらがより多く
のものを知っていると思う?」
「それは、小鳥と言えど、自らの羽で羽ばたき多くの見聞を広める事
のできる小鳥でしょう」
「では、書物に書いてあることを確かめるためにはどうすればよい?」
「それは、書物に書いてあることを実行する事です」
「では、実行した事と書物にあったことが合わなかったらどちらを信じ
る?」
「それは、実行した事です」
「ワシも同じじゃ。去れ、チリパーハとやら。ワシと同じ答えを導き出し
た汝なら、わかるな」
「はい、差し出がましい申し出、大変ご無礼いたしました。リクガメ仙人
様。あなた様の歩みは歴史を紡ぐと同じこと。あなた様をお連れする
事は、今がずっと過去にならねば出来そうもありません」
 チリパーハの言葉の後に、リクガメ仙人は心なしか微笑んでくれたよ
うに見えました。
しかし、皇帝の命とあれば、破るわけには行きません。チリパーハは
ウミガメ仙人を探すことにしました。
年が明けて2度目の春のころ、南の浜辺にウミガメ仙人が産卵すると
の噂を聞きつけ、チリパーハは三日三晩寝ずに浜辺を見張りました。
すると、海亀の姿をした海ガメ仙人がやってきて、白い砂浜に這い上
がってきて、砂浜に白くて丸い真珠のような卵を産み付けました。
チリパーハは産卵が終わるのを見計らって、ウミガメ仙人に話し掛け
ました。
「私はチリパーハという役人です。皇帝があなたのお知恵を借りたい
と申しております。もしお望みなら、帝都に広い塩辛い湖をつくり安全
に産卵できるよう計らいますがいかがでしょうか?」
「汝は世界の広さをしらんようだな。海は陸よりも広く、陸の中に海を
作ることなど到底できぬ。リクガメ仙人はその歩みを遅くすることで、
陸を広くしているのだ。明朝、我が子を見よ全てが分かるだろう」
 ウミガメ仙人はそうチリパーハに告げて海へ戻ってしまいました。
 チリパーハはその場にずっといると、ウミガメ仙人の子供達がたくさ
んの卵から孵りました。
 子供達は必死に海へ向かいます。しかし、その体の小ささからなか
なか海までたどり着けません。そうしている間に、子供の多くは海鳥
に食べられてしまいます。コツンコツンと海鳥のくちばしが子供をつい
ばむ姿は見ていられません。
 チリパーハは思わず亀の子供の一匹を運んであげようとした時、
リクガメ仙人の言葉を思い出しました。
 そうしてチリパーハは黙ってその様子を見ていました。
 無数にいた子ガメの一匹が海にたどり着きました。
 チリパーハは子ガメが海にたどり着くたびに大きな涙の粒を流しま
した。チリパーハは海に深々と頭を下げ、陸に向き返り同じく陸に
深々と頭を下げました。
 そして、チリパーハは帝都に戻り、皇帝に謁見されました。
「皇帝陛下に申し上げます。リクガメ仙人、ウミガメ仙人をつれてくる
事が出来ませんでした」
「何が不服と申した?」
「自らの足で歩む事を邪魔される事だそうです」
「そうか、では、チリパーハ、おまえは罰として余の足となり、見聞し
た事を伝えよ」
そうして、チリパーハは皇帝のよき相談役となり、長い平和な国を作
りました。

 いかがでしたか?
 楽をして早く着くより、自分の足で歩く事の方がたくさんのものが得
られると思いますが、あなたはどうでした?

 

呟き尾形 12月3日作

 

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