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欲張りな蝶

 

 こんにちは。
あなたは将来何になりたいですか?
 欲張りですね。そんなにたくさん。
 それでは、今日の話はこれにしましょう。

 むかし、むかし、白い時計搭のはるか東にある歴史ある国に、バーバチカ
と呼ばれる蝶の仙人がおりました。
 バーバチカが道端にけなげに咲く黄色い花の上に止まって羽を休めている
と、ものすごい勢いで走ってくる若者が降りました。
 若者は小脇に小荷物を抱えており、後ろから槍を持った兵士が鬼のような剣
幕で若者を追っているのです。
「まてー、どろぼー」
「誰が待つかい。このクーカルカ様に追いつけるもんなら・・・わ、あー」
 スッテンコロリン、ドンゴロドンゴコ。
 クーカルカはバーバチカが止まる小さな花を踏み潰しそうになり、よけようとし
たのですが、足を踏み外し手転んでしまったのです。
クーカルカのおかげで黄色く小さな花は、道端でけなげに咲いています。 クー
カルカは立ち上がるより先に、黄色い小さな花を踏んでいなかったことをしり、
ほっとしました。
 そのかわり、クーカルカは、自分を追ってきた兵士につかまってしまいました。
 バーバチカは蝶の姿のままで楽しそうにその周りを周っています。
「ほっほっほ、面白そうな若者じゃの」

 クーカルカは兵士に連れられて牢屋に入れられました。
 クーカルカは腕組をしてふてくされていると、蝶が踊るように牢屋に入ってきま
す。
「お、さっきの花に止まっていた蝶じゃないか。無事で何より」
 クーカルカは満足そうに微笑みます。
「ほっほっほ、自分のことよりわしのことを案ずるか。よい心がけじゃ。褒美に面
白い仙術をかけてしんぜよう」
「本当か? だったら、俺は威張りたいから、領主になって、贅沢をしたいから富
豪になって、尊敬されたいから騎士になりたい」
「ほっほっほ、欲張りめ。順番にかなえてやろうかの。ほれ」
 バーバチカが仙術をかけると、クーカルカは蝶に変化しました。
「なんだ、蝶になっちまったじゃねぇか」
「この術は、魂の蝶といっての。その姿で、おぬしのなりたい人間に乗れば、その
人間になれるぞ」
「なに、本当か。だったら、領主様になってやる」
 クーカルカは領主の館に飛び込んで、領主の頭に止まりました。すると、クーカルカは領主になってしまいます。
「領主様。開墾の話ですか、いかがいたしましょう。
あの、グースィニツァの森を開墾すれば、この土地も豊かになるでしょう」
太った富豪が言いました。
「なんと、おぬしはグースィニツァの恐ろしさを知らんからそういえるんだ!」
 豪華な鎧に身を包んだ騎士が言いました。
「「領主様。ご決断を」」
富豪と騎士は領主に言います。クーカルカが乗り移る前の領主でしたら、お茶を濁すところでしたが、クーカルカは違います。
「その、グースィニツァが問題ならば。グースィニツァを退治せよ。騎士よ」
「そんな殺生な」騎士はなんとも情けない顔をします「なにぶん武器が足りません」
「えーい、ならば、富豪よ、鍛冶屋に武器を作らせよ」
「いえいえ、領主様。鍛冶屋はすっかりやる気をなくして武器を作ろうとはしないのです」
 クーカルカは鍛冶屋が富豪のくせにケチで払うお金が安いので働かないことを知っていました。それならとばかりに、クーカルカは、領主の頭を離れて富豪の頭に止まりました。
 そして、富豪になったクーカルカは、鍛冶屋が集まる仕事場に行きました。
「鍛冶屋達よ。明日までに武器を作れば、いつもの10倍の金額で買い取ろう」
 富豪はそれだけ言って、その場を去ると、鍛冶屋達は耳を疑いつつも、一斉に武器を作り始めました。
 次に、クーカルカは騎士の頭に止まりました。クーカルカは騎士のさっきの態度で、グースィニツァを恐れていたことを察したのです。
 騎士になったクーカルカは、騎士や兵士たちを集めました。
 クーカルカが乗り移る前の騎士はよほど指導力が無いのでしょう。兵士はだらだら集まってきました。全員は集まっていませんが、来ないものは一向に来る様子が無いので、騎士は痺れを切らして代に立ちました。
「いいか、おまえたち。明日、武器が届く。好きな武器を持ってグースィツァを退治に行く。グースィツァを捕まえたものには、階級を3つ上げてやるぞ。
それと、この場にいないものは全員打ち首だ!」
騎士になったクーカルカは、集まらなかった騎士や兵士を全員打ち首にしました。それによって、他の兵士たちは、騎士が本気だと思い知りました。
 そして、クーカルカは自分を釈放させたのです。でも、クーカルカは何を思ったのか、蝶のままでグースィニツァの住家へ行き、こともあろうにグースィニツァに乗り移ったのです。
「ふむふむ。なるほど。この森から魔力を得られるのはあの水晶のせいか」
 クーカルカはそのまま水晶を割ろうとしましたが、グースィニツァがとんでもない魔力でクーカルカを追い出してしまいます。
「貴様どこの誰だ!」
 クーカルカはこれはかなわんと一目散に逃げて自分の体に戻りました。
「よわったなぁ。あの水晶があると騎士や兵士がどんなにがんばっても負けるだろうなぁ」
 クーカルカはいてもたってもいられなくなり、夜にこっそりグースィニツァの住処に忍びこみました。グースィニツァに乗り移ったときに、グースィニツァは夜にぐっすり眠らないといけないことを知っていたからです。そうして、水晶と拾った石とを摩り替えたのです。
 次の日。領主も富豪も騎士も目を丸くしていました。自分が知らないうちに、目の上のたんこぶのグースィニツァがつかまっていたからです。
 クーカルカはそれを見てたいそう愉快そうに笑いました。
「なんだ、領主も富豪も騎士もたいしたこと無いな。
やっぱ、今のままの俺が一番だ」

どうでしたか?
あなたがなりたいものがたくさんあっても、なれるのは一つ。でも、あなたが選んだものが一番あなたにむいているんじゃないでしょうか?

呟き尾形 2001/7/29作

 

 

 

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