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番馬(つがいうま)

 

 



 こんにちわ・・・どうしました? 浮かない顔をして・・・。
 ははぁ〜ん。好きな子ができましたね。
 それでは、今日は男と女の恋の話をしましょうか。

 むかし、むかし。白い時計搭のある村の遥か東にある国の国境の砦に、ロー
シャチという、乗馬に優れ、砦で一番強い兵士がおりました。
 ローシャチはそろそろ、妻を娶る年頃ですが、なかなか結婚しようとはし
ません。実は、ローシャチ。好きな女性がいるのです。馬屋で馬小屋の番をし
ているカブイーラという器量の良い誰にでも愛想の良い女です。
 ローシャチはカブイーラを夜の食事に何度か誘いましたが、そのたびに、い
ろいろな理由をつけて断られていましたので、ローシャチはカブイーラに嫌わ
れていると思っていました。
 それでも、ローシャチはカブイーラのことをあきらめることができません。
 ある日、ローシャチはカブイーラのいる馬屋に馬を買いに行きました。
 しかし、あいにく、カブイーラはルスにしている上に、この砦に西の平原の蛮族が来
るという噂で、残っているのは縁起の悪い白い足毛の白馬だけでした。
 兵士の間では、白い足毛の白馬に乗って出陣すると、死神に目をつけられて
帰って来れないという噂が流れていたのです。主人の話では縁起さえ考えなけ
ればいい馬だということなので、ローシャチは馬を見るだけ見ることにしまし
た。馬小屋に案内されると、中には1頭の白い足毛の白馬おりました。
 白馬の足首にはふさふさした足毛があり、無駄な肉が無く、特に足の付け根の
部分が引き締まっていました。
 ローシャチは、白馬のことが気に入り、白馬を買うことにしました。
 数日後、ローシャチが白馬に乗っていると声が聞こえてきました。
『だんな、悪いが1ヶ月ぐらい自由にしてくれないか? 草原に残してきた雌
が気になる』
 ローシャチは白馬を止めて周りを見渡しましたが、誰もいません。
「おまえが言ったのか?」
 ローシャチが白馬に言うと、白馬は大きくいななきながら頷きます。
 ローシャチは首をかしげましたが、愛しい存在が気になるのに人も馬もあり
ません。ローシャチは馬の気持ちを察して、白馬から降りました。
 白馬はもう一度大きくいななくと、地平線の向こうへ走っていきました。
 砦で一番強いローシャチは、砦でも有名人です。ローシャチが馬を逃がした
噂は瞬く間に砦に広がりました。
 ローシャチを馬鹿にする者、縁起の悪い馬を恐れてわざと逃がしたと噂する
者、戦場に行きたくない理由作りだとののしる者もいました。
 ローシャチは自分の行動を後悔し掛けた頃、カブイーラが訪問してきました。
「ローシャチさん。白馬は恋人に逢いたいといったから逃がしたんでしょう?」
「何故それを知っているんだ?」
「あの白馬を世話をしていたとき、私にもしきりに言っていたもの。大丈夫。必
ず、あの白馬は帰ってくるわ」
 カブイーラにそう励まされたローシャチはうれしくて声も出ません。
「ごめんなさい。余計なことをいってしまったみたいで、気を悪くなさらないで
ください」
 ローシャチは感激のあまり黙り込んでいたのですが、カブイーラにはローシャ
チが気を悪くしたのように見えたのです。カブイーラはその場を走り去りました。
「いや、ちがうんだ・・・」
 ローシャチは必死に言葉を出そうとしますが、胸から上へは気持ちが外へ出て
行きません。ローシャチは2,3度壁を力いっぱい叩き憂さ晴らしをしました。
 そして、白馬を放ってから1ヵ月後、白馬は牝馬をつれてやってきました。
「おお、戻ってきたか」
 ローシャチは大喜びで白馬達を迎え入れました。
 次の日、砦は白馬がローシャチのところへ戻ってきたという話題で持ちきりで
した。今度は、掌を返したようにローシャチを褒めちぎります。
 ローシャチは、白馬が戻ってきたことをカブイーラに伝えようとして、馬屋へ
行くと、カブイーラは他の客と楽しそうに接客しています。
 ローシャチは、その光景を見るのに耐え切れず、そのまま家に帰ってしまいま
した。
 数日後、ローシャチは白馬に乗って、カブイーラのことを考えていました。
『湿気た面してんなよ。乗られているこっちの方まで気がめいる。あのカブイー
ラって雌が気に入ってるなら手伝ってやるよ』
 ローシャチにまたあの声が聞こえた時には、ローシャチは宙を待っていました。
白馬に投げ出されたのです。
 ローシャチは大怪我をしましたが、なんとか家に帰ることができました。
 次の日、やはり砦ではローシャチの怪我のことで噂が持ちきりになりました。
その噂のほとんどは、ローシャチをののしるものでした。
 幸か不幸か、ローシャチは怪我の養生をしていたので、噂を耳にすることはあ
りませんでした。
 やはり、足毛の白馬は縁起が悪いのだろうかと、ローシャチが考え始めたとき、
カブイーラがお見舞いにやってきました。
 ローシャチは胸がときめき、何を言ってよいのかわからなくなりました。
「ごめんなさい。怪我をしたと聞いたので、いてもたってもいられなくて・・・
ローシャチ様が私のことが嫌いなのは分かっています。でも、怪我をしている間
だけでも、世話をさせてください」
「カブイーラ、カブイーラ、嫌いだなんてとんでもない。むしろ、その逆だよ。
君さえ良ければ怪我が治ってもずっと俺のそばにいてくれないか」
「うれしい」
 カブイーラは涙を流しながらローシャチの胸に飛び込み、ローシャチはそれを
受け止めました。
 不意に、ローシャチが窓の外を見るとつがいの白馬がいました。白馬は真っ白
な歯を見せて笑うと、そのまま、地平線の向こうへ走っていきました。
 ローシャチは心の中で白馬に礼を言いました。

 いかがでしたか?
 恋をすると、砦で一番強いローシャチですら、自分の気持ちが素直に出ないも
のです。
 何が良い結果をもたらすかはわかりませんが、自分の気持ちに素直になること
が良い結果を招き入れるんじゃないでしょうかね?

呟き尾形 2001/8/9作

 

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