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昇鶴の舞

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 こんにちわ。
 どうしました? 元気が無いようですね。可愛がっていた犬が家出をした。
ですって?
 そうですか。では、今日はこの話をしましょう。

 むかし、むかし。白い時計搭のある村の遥か東にある国の東の国境にジゥラ
ーヴリという街がありました。
 ジゥラーヴリの領主は若くして父を亡くし、「鶴は恩人だから大事にせよ。そし
て、民と忠臣に敬意を払え」と遺言を残しました。
 ジゥラーヴリの若い領主は、父を尊敬はしていましたが、”鶴が恩人だか
ら大事にせよ”という遺言には納得できませんでした。
 すると、父の旧友であり、皇帝の相談役をしていたチリパーハという老人が
ジゥラーヴリをたずねてきました。
 若い領主は、父の古い友人であるチリパーハなら何かを知っているかもし
れないと思い、父はなぜ、鶴を大切にするのかとたずねました。
「おお、昇鶴の舞ですな。そんな話もありましたなぁ」
「チリパーハ殿はご存知なのですか?」
「知っていると言えば知っておりますし、知らないと言えば知りませぬ」
 若い領主はチリパーハの謎賭けのような口調にイライラしました。
「いや、そんなに焦らずとも、お話しますとも。ただ、私も貴方様の父上から
聴いた話で、見たわけではないのです。
 貴方の父上が、貴方ぐらいの年のころのお話です。
 信じられないかもしれませんが、父上は、若い頃、ジゥラーヴリで一番の大
うつけ者と陰口を叩かれていました。
 それもそのはず。
 父上は、ろくに街を治めるどころか、鶴を大切にして、外国から芸人を呼び
寄せては、まつりごとをまともに行わずに、宴ばかり開いていたのですから。
東の隣国の間者がそれを見て、人心もはなれ、攻める好機と本国に知らせま
した。東の隣国はただでさえ狭い領地、領土を広げるために、すぐさま攻め
ることにしたのです。
 父上はそれを耳にして、忠臣と領民にこういいました。
”東の隣国が攻めてきた。兵も人民も一心に戦ってくれ”
 すると、忠臣と領民はこう応えたのです。
”貴方の大切にしていた鶴や芸人に命じればいいだろう。我々は捨てられた”
 そして、忠臣と領民は、ジゥラーヴリの城門を壊して逃げだしたのです。
 父上は肩を落として、自らの愚かさを知ると、芸人には、すぐに逃げるよ
うにいい、大切にしていた鶴を放しました。
その後、見知らぬ陶磁器のような白い肌の美女がやってきたそうです。
 美女曰く、”あなたは今までの犯した罪を後悔し、償いますか?”
 父上は、頷きました。
 すると、 美女は芸人たちに金品を渡し、城門は怪物によって壊されたと噂を
流すようにいい、うまく行ったらもっと金品のある場所を教えてやると言って、
敵陣へもぐりこませました。
 父上はわけもわからず呆然とその様子を見ていたそうです。
これは、父上は後で知ったそうですが、朝早く、敵軍はそのうわさで持ち切
りとなりました。なにせ、戦争前に、噂どおりに城門が見事に壊されているの
です。まさか、自分の領民が城門を自ら壊したなどと思いつくはずもありませ
ん。敵軍は、怪物が城門を壊したのだろうと噂が持ちきりになりました。
恐れおののいた敵軍はとりあえず、様子を見て陣をしいて一晩すごすことに
しました。
 次の日の朝早く、バタバタバタと大きな音がした後にラッパが鳴り響いて、
敵軍は奇襲されたと勘違いして一目散に逃げていったそうです。
 壊れた城門から見ていた父上には、それが何者によってもたされたか見えて
いました」
 ここで、チリパーハは一息つきます。
「ま、まさか・・・チリパーハ殿」若い領主は驚きの表情を隠せません。
「そのまさかです」チリパーハは静に頷き、言葉を続けます「当然、父上はそ
の光景に腰を抜かしました。
 1000羽はいるであろうか、鶴が一斉に舞うように飛び立ち、ラッパのよ
うな鳴き声を上げたのです。
 そして、父上はその鶴の群れから、自分が可愛がっていた鶴を見つけ出し、
あの美女は鶴だったことを悟ったそうです。
 それから、逃げ出した忠臣、領民達は自分のしたことに後悔してかえってき
ました。父上は、それを喜び、罰することなく、受け入れました。
 ・・・その顔は信じられないといいたげですね。
 最初に言いました通り、私は貴方の父上から聞いた話です。見たわけではあ
りません」
「いえ、チリパーハ殿、父が貴方にその話をし、そして、今、貴方がおろかな
私に話したことが何よりの証拠です」
 若い領主が深く頭を下げると、チリパーハは頷き、そのままジゥラーヴリを
去っていきました。

 いかがでしたか?
 犬が家出をした理由を考えて、帰ってきたら暖かく迎えてあげませんか?
 過ちは、許すためにあるのですから。


 

呟き尾形 2001/12/9 掲載

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