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疑念坊主と誠実夫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
「おや? なにか探し物ですか?
 え? お友達が盗んだかもしれない?
 それはいけませんね。今日はこの話をしましょうか」

 昔々、白い時計塔のある村のはるか東の歴史のある国のある村のお話しです。
 その村にはスピーチカというまじめですが、忘れっぽい薪取りがおりました。
 忘れっぽいスピーチカですが、毎日、湖の神様を祭る寺院へのお参りは欠か
しませんでした。湖の神様は、オーズィラといい、昔々のさらに昔、雲の上か
ら舞い降りて、正直なお坊様に金の斧を渡したという伝説があります。
 それ以来、この金の斧に祈りを捧げると、その日の無病息災が約束されると
いわれていました。
 しかし、時が積み重なり、正直なお坊さんから代々受け告げられた、金の斧
だけになり、正直さが受け継がれなくなって久しく、スピーチカがお参りする
ころには、お坊さんのサチーラはすっかり疑い深くなっていました。
 その為、サチーラは金の斧がいつ盗まれないか、お参りする人を見張る始末
です。そんなサチーラの下で修行しながら働くのは、スカースカという小坊主
でした。スカースカはずるかしこい小坊主でした。
 ある日、スカースカが金の斧を磨いていると、床に金の斧を落としてしまい
ました。その勢いで斧の柄は折れてしまいます。スカースカは真っ青になって
どうしようとおろおろしています。
「あはは、楽しませてもらったよ。おいらはミチターニ。楽しませてくれたお
礼なにか夢を見せてあげよう」
 スカースカは少し思案して、ミチターニに耳打ちをしました。
「そりゃ、もって面白い。さっそく、サチーラを寝坊をさせよう」
 とミチターニは、うれしそうに、ボンとけむりを上げて消えてしまいました。
 スカースカは、折れた金の斧を寺院の近くの滝まで持っていき、滝の裏側に
ある秘密の洞窟に持っていきました。スカースカは、金の斧を洞窟の奥に隠し、
そのまま寺院に戻り、サチーラを起こしに行きました。
 スカースカが寺を出てから、一部始終を眺めていた目があります。金の斧の
噂を聞いて、金の斧を盗もうとしていた盗人、クーカルカです。
「あらら、斧から勝手に出てきちゃったよ」
 クーカルカは金の斧を探しに、滝の裏側にある金の斧を取りに行きました。
「おお、こりゃすごい」
 そこには、神々しい光を放つ、黄金の折れた斧がありました。クーカルカは
にんまりしながら金の斧を持って洞窟から出ようとしましたが、ぬれた岩に躓
き転んでしまいます。その拍子に金の斧が滝滝に投げ出してしまい、折れた斧
の柄と刃は二つに分かれて滝壷に沈んでいきます。
「あ〜あ、やっちまったい。ま、黄金の斧を拝めただけでもよしとするか」

 そんなことも知らず、スカースカは、サチーラの元に走りよります。
「お、和尚様! た、たたた大変です」
 サチーラは溢れるように汗をかきながら、飛び起きます。
 サチーラはミチターニに、人を疑ってばかりいるから、斧はオーズィラが取
り返しに来るという夢を見せられたからです。
「ど、どうした。金の斧は無事か!」
「そ、それが、盗まれました!」
「ま、正夢だったのか!!!」
 サチーラは、スカースカが金の斧を折ったときよりも真っ青になりました。
「・・・さては、あの薪取りめが盗みおったな。毎日毎日来るのは、盗む隙を
狙っておったに違いない」
 そう呟いてサチーラは走り出し、金の斧があった、本堂へ駆けだすと、ちょ
うどスピーチカがお参りに来たところです。
 サチーラはスピーチカを問いただそうとしましたが、証拠も無く問い詰めて
も白を切られるに違いないと思い直し、スピーチカに微笑み口を開きます。
「おお、毎日毎日関心ですな。スピーチカ。ですが、実は金の斧が盗まれてし
まったのです。盗人はどこかに隠しているに違いないから、どうか、薪取りの
ついでに見つけたら、もって来てはくれないだろうか? 礼は弾むよ」
 サチーラは心にも無いことを言いました。
「いいですよ。でも、そんな簡単に見つからないと思いますよ」

 そして、スピーチカが薪取りをしていると、川に斧の柄が引っかかっていま
した。滝壷から流れてきた金の斧の柄です。
「あらまぁ、この木は、金の斧の柄みたいだな」
 スピーチカは、仕事を取りやめ正直にサチーラに斧の柄を渡します。
 サチーラはそれを受け取り、なんと悪知恵のはたらく薪取りかと思い、スピ
ーチカを睨みつけます。
 スカースカは目が飛び出るほど驚きます。
「和尚様! その薪取りは、誠の盗人です。
 金の斧は、今朝、私が落として折ってしまい、滝のある洞窟に私が隠したの
ですから。それを柄をもって来て、金の部分は独り占めにするつもりです!」
「スカースカそれは誠か!」
「あ・・・」スカースカは両手で自分の口をふさぎます。
「あはは、そうだよ。それで、僕が、サチーラ、おまえにお告げの夢を見させ
たのさ。あはは、疑心暗鬼とはよく言ったものだね。
 スピーチカ、お疲れ様。悪かったね。本当は、オーズィラに頼まれたんだ。
 まぁ、お礼にこの金の斧を上げるよ」夢魔は金の斧をスピーチカに渡します。
 スピーチカは金の斧を受け取り、それを祭壇におきます。
「薪取りに手斧は必要でも、こんな立派な斧はいらないし、それより、無病息
災の方がずっと役にたつよ」
 サチーラとスカースカは、ただただ、顔を真っ赤にするしかありませんでし
た。

「いかがでしたか?
 安易に、お友達は疑ってしまうのは良い方法ではなさそうですよ」
 

呟き尾形 2003/2/16 掲載

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