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黒い牝牛、白い子牛を産む

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 こんにちわ。今日は何の話をしましょうか?
おや、それは子犬ですね。とても綺麗な白い毛並みですね。
え? 黒犬から生まれたんですか?
それで両親から不吉だから捨ててこいと言われたんですね。
・・・・奇遇ですね。今日のお話は、黒い母親から、白い子供が産まれたことがきっかけで始まるお話なんですよ。

 昔々、白い時計塔のある村のはるか東にある絹の国の山奥に白い仙人、黒い仙人、灰色の仙人の3人の仙人がおりました。
 ある日、白い仙人のところに、白い牛を連れた親子がやってきました。父親の名前をブイーク、息子の名前をチリオーナクと言いました。
「仙人様。この白い子牛は黒い牝牛から生まれました。村の人達は吉凶が気になるとかで、だいぶ人の意見に左右されてしまいます。どうか助言して下さい」ブイークはおそるおそる白い仙人に尋ねました。
「それはめでたい。その牛を皇帝に献上なさい。そうすればあなたの家族は幸せになるでしょう」
 ブイークはにこにこしながら家に帰る帰り道に、物乞いのような薄汚い格好をした老人が声をかけてきました。
「おい、そこの親子、その白い子牛は黒い牝牛から生まれたのだな?」
 ブイークは、老人の言葉にびっくりして思わず頷いてしまいました。
「そうかそうか、それではその白い子牛は、黒から生まれた偽りの白だから、縁起が悪い。さっさと皇帝にでもその不吉なものを押しつけてしまえ」
 ブイークは、老人の言葉を聞いて怒ってそのままその場を去ってしまいました。
 このことをチリオーナクが友達に話すと、それは黒い仙人だと言うことが解りました。チリオーナクはびっくりして父親にそのことを伝えると、ブイークは仙人から違う助言を言われてしまい困り果ててしまいました。白の仙人はめでたいから皇帝に献上するように言い、黒の仙人は不幸を皇帝に押しつけろと言ったからです。
 子牛を献上するのと押しつけるのでは大違いだからです。
 しばらくすると、旅人がブイークの家を訪ねてきました。
「黒い牝牛から、白い子牛が生まれたそうだね。それはめでたいが不吉なことだ。でも、早く、その牛を皇帝に献上なさい。そうすればあなたの家族は得をするでしょう」
 と、旅人が言うとそのまま煙のようにいなくなってしまいました。
 ブイークは、あの旅人は灰色の仙人に違いないと考えて、白い仙人の助言と黒い仙人の助言をあわせた灰色の仙人の助言の通り、子牛を皇帝に献上したところ、ちょうど儀式用の白い牛が欲しかったという事で、大変喜ばれました。
 そして皇帝からたくさんのご褒美を貰い、家に帰りました。
 しばらくすると、ブイークは目の病にかかってしまいました。そしてブイークはそのまま目が見えなくなってしまうと、黒い牝牛がまた白い子牛を産みました。
 チリオーナクは白い子牛をどうしようか悩んでいると、父親のブイークが言いました。
「仙人様のところに行って相談しよう。確かにわしは目が見えなくなったが、白い子牛のせいにするつもりはない。むしろ皇帝に献上したことでわしらは少なからず得をした。白い子牛に感謝しておる。これで白い子牛のせいにするのは無責任というものだ」
 息子のチリオーナクは父親の言葉ももっともだと思い、仙人のところに訪問しました。そして父親と同じような言葉をはなしたところ、
「それはめでたい。その牛を寺院に献上なさい。そうすればあなたの家族は幸せになるでしょう」
 白い仙人は初めて来たときと同じような答えを返しました。
 チリオーナクは首を傾げながら帰り道を帰っていると、また物乞いのような黒い仙人が話しかけてきました。
「そうかそうか、それではその白い子牛は、黒から生まれた偽りの白だから、縁起が悪い。さっさと僧侶達にでもその不吉なものを押しつけてしまえ」
 チリオーナクは聞いたことのある言葉に更に首を傾げました。
 白い仙人も、黒い仙人も正反対のことを言いながら、同じ事をするように言います。訳の分からないまま家に帰ったチリオーナクは父にそのことを伝えると、父親は言いました。
「では、灰色の仙人を待つとしよう」
 チリオーナクは父親の言うことももっともだと思い、灰色の仙人を待ちました。
 父の言うとおり、灰色の仙人がやってきました。
「黒い牝牛から、白い子牛が生まれたそうだね。それはめでたいが不吉な。でも、早く、その牛を寺院に献上なさい。そうすればあなたの家族は得をするでしょう」
「でも、仙人様、父は盲目となりました」
「吉凶は事が終わらなければわからんよ」
 そう言うと、灰色の仙人はどこかへ言ってしまいました。
 チリオーナクは、仙人達の言うとおり、山奥にある寺院に献上すると、僧侶達は喜んで、何か困ったことがあれば、いつでも寺院に来れば泊めるから、また来なさいと言いました。
 そしてしばらくたつと、今度はチリオーナクが理由もないのに、父親と同じく盲目となってしまいました。
 親子は皇帝から貰った褒美もあるのでしばらくはたらなくても、暮らしは楽でしたが、盲目とはいえ、他に不自由のない親子でしたので、働きもしないで村で暮らすのは居心地が悪いので、山奥の寺院でしばらくお世話になることにしました。
 親子は押し掛けるのも悪いと思いましたので、皇帝からの残りの褒美を寺院にすべて寄付して、しばらくお世話になりました。
 そして、しばらく寺院で暮らすと、訳もないのに盲目の親子の目は治ってしまいました。
 親子は寺院の僧にお礼を言ってから山を下りると、村は戦のために焼けて、畑は荒らされており、荒れ地のようになっていました。多くの人が死んでしまったり、大怪我をして五体満足な人は殆どいませんでした。
 ブイークとチリオーナクが寺院で暮らしている間、大きな国同士で争いがあったようです。
 親子はそんな光景を見て、仙人達の言葉を思い出しながら、村に残った人達で助け合って、荒れた畑を耕し始めました。

 さて、お話はここで終わりです。
 結局、黒い牛が白い牛を産んだことは良いことだったのでしょうか?
 悪いことだったのでしょうか?
 この話をあなたの両親にしてみたらどうでしょうか?
 もしかすると、子犬を捨てなくても良くなるかも知れませんよ。

 

★★★
ムーシコスクニークルスの感想

「ふ〜ん、何がよいことで何が悪いことか、なんてわからないね」
 そう、人生万事塞翁が馬。
「なにそれ?」
 いや、ムーシコス君の言った意味の故事だよ。
 人生の幸、不幸は予測しがたいってことさ。

「でも、なんか当たり前すぎるような・・・」
 そうかな。僕らはジンクス、占い、前触れ、縁起とか根拠のないもので、案外、幸、不幸を計っていると思うけどね。
 そして、なにより、今、現在の状況が悪いからといって、未来も悪いって決め付けてないかな?

 

 

 

 

 

 

 

2000年6月4日 呟き尾形作

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