ホーム > 目次 > エッセイ > 呟き尾形的孫子の兵法 

呟き尾形的孫子の兵法
 第10回 笑裏蔵刀

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孫子の兵法 10 笑裏蔵刀

第十計 笑裏蔵刀「笑裏に刀を蔵す(しょうりに、かたなをかくす)」

 時代は秦の始皇帝が統治していた時代です。
 秦の始皇帝は、用心深く、自分の周りに誰一人として近づけさせなかった始皇帝ですが、始皇帝暗殺未遂事件があったとされています。
 上述したとおり、秦の始皇帝は、用心深く、自分の周りに誰一人として近づけさせませんでした。
 しかし、暗殺未遂事件をおこした、荊軻は始皇帝に謁見を許されるや、隠し持った匕首で始皇帝に切りつけたそうです。
 もちろん、暗殺未遂事件ですから、始皇帝は、身をかわし、九死に一生をえたわけですが、ここで注目すべきは、なぜその距離まで荊軻を近づける気になったのだろうか。
 ということです。
 ここにこそ、笑裏蔵刀が成功したゆえんがあります。
 荊軻は燕の太子丹の蜜命を受け、始皇帝の喜びそうな土産を二つ持参したそうです。 一つは、始皇帝を裏切り燕に亡命してきた将軍樊於期の首。
 もう一つは燕の国でもっとも肥沃な土地の献上です。
 この二つの土産を持参し秦の都に着いたのち彼は、始皇帝の寵臣に千金という賄賂を払いとりなしを頼みました。
 荊軻の行動はあきらかに、燕の国が下手にでていることをしめします。
 そこで、献物の使者をよこしたことに始皇帝は気をよくしました。
 そうしたことから、始皇帝は、荊軻に対するすっかり警戒を解いてしまったのです。
 結局暗殺は未遂に終わってしまいはしましたが、用心深く、自分の周りに誰一人として近づけさせなかった始皇帝の警戒心を解きほぐし、始皇帝に謁見するところまでこぎつけた燕の「笑裏蔵刀」の策は成功と言えます。

 他にも成功した例があります。

 三国志を知っている人なら、誰でも知っている名将、関羽がこの計略に敗れてたといわれています。
 蜀の関羽は荊州という、魏、呉、蜀の3国が隣接する重要拠点の最高責任者として、江陵に駐屯していました。
 関羽は、軍を率いて、魏の国の将、曹仁の守る樊城攻めを行ないましたが、なにぶん、3国が隣接しているだけに、呉の動向が無視できません。
 とくに、呉の領地、陸口に駐屯していたのが呂蒙という将です。
 関羽は、呂蒙には心を許しているはずもなく、江陵に兵力を残して警戒していました。
 せっかくのチャンスでしたので、呂蒙は病と称して呉の都に引き上げました。
 そして、陸口の責任者に無名の陸遜を任命したそうです。
 この陸遜、三国志ではなかなか有能な人材として描かれていましたが、この当時、陸遜はまだ若く、名前もあまり知られていませんでした。
 そのことに、この人事に大いに喜んだのは関羽です。
 さらに、陸遜は、敵ながら、関羽の武勇をほめたたえ、自分の無能ぶりを卑下して見せたのです。
 陸遜におだてられて、陸遜という人物も、さほど有能ではないと判断した関羽は、すっかり警戒心を解きました。
 そこで、江陵にとどめていた兵力を全て引き上げ、樊城に投入したそうです。
 この時を待っていた呂蒙は、ひそかに軍を率いて江陵に向かい戦わずして江陵を落とすことに成功したそうです。
 そして、それが関羽の最後でもありました。

 敵対する関係において、理由もわからずに急に友好的になり、和平を言い出すときには、他に狙いがあるものです。
 笑裏蔵刀とは、友好的な態度で接近し、相手が警戒を解いたところで一挙に襲いかかる策略であるといえます。

 なにごとにも、タテマエとホンネというものがあります。
 にこやかな態度で接するのは、相手の警戒心を和らげるには最適です。
 たとえば、詐欺師は、笑顔で近づいてきます。
 詐欺師に騙されないためには、詐欺師の笑みの中の魂胆をすばやく看破するか、これが重要です。
 しかしながら、疑心暗鬼にむやみやたらに疑っても、逆に墓穴をほるものです。

 さて、この、笑裏蔵刀。
 平和的な使い方というのがありまして、ズバリ、苦手な人、嫌いな人との付き合い方に応用できます。
 人というのは、どうしても、苦手な人や嫌いな人が出てきます。
 笑裏蔵刀において、人は、相手から笑顔でへりくだられると、気をよくするのは、わかっていただけたかと思いますし、そもそも説明の必要もないでしょう。
 すると、相手が心を許す方法というのは、笑顔で相手にへりくだることであるということがいえます。
 苦手な人や、嫌いな人に笑顔でへりくだるということはかなり難しいことですが、実は、心の裏で何かをたくらんでみると、案外出来るものです。
 もちろん、そのたくらみは、相手が油断したところを刀で切るのではありません。
 わざわざ、苦手な人や、嫌いな人に近づくということは、なにか利益があるからこそです。そうでなければ、無視をすればいいだけの話です。
 となれば、苦手な人や、嫌いな人の顔を見て笑うのではなく、そこで苦手な人や、嫌いな人と付き合うことで得られる利益を見て笑顔を見せる。
 という応用も可能だということです。

質問、感想などは、呟き尾形的孫子の兵法掲示板などに書き込みしていただければ、モチベーションもあがります(笑)


 

タイトルへ戻る