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じゆう

 モラル仮面。
 それは、世の中の反道徳的な屁理屈を倒すため、悪の屁理屈組織
エゴイダーの屁理屈を論破し、世の中のモラル回復を勤める正義の
使者のモラルの戦い(討論)の記録である。

 かくて、モラル仮面は、大切な人を守るため、わがまま博士に直
談判に成功した。
「くっくっく、よくぞここまで来たな、モラル仮面よ」
(それよりも、わがまま博士。おまえは人の生死を自由にできると
いったが、それは放縦だ!)
「なにをいう、モラル仮面よ。我輩はマッドな科学の力がある。誰
にも邪魔は出来ん。自由とはわがままのことだ。
 故に我輩は自分のやりたいようにわがままに、愚民に死をあたえ
ることができるのだ」
(はぁ? 自由はわがまま? この辞書読んでみな)
「なに、このマッドなサイエンティストのわがまま博士に辞書を読
めと?
 我輩の辞書に不可能という文字はないのだ! ぐわっはっはっは」
(じゃぁ、その辞書は落丁本だよ。不可能という単語がないんでしょ。
 それにマッドとはいえ、サイエンティストを名乗るんだったら、
客観的なものを直視するべきジャン)
「ぐむ。それも正論。よかろう、その辞書読んでやるぞい。
 なになに、他からの強制・拘束・支配など受けないで、自らの意
思や本能に従っていること・・・。
 自らを統御する自律性。内なる必然から行為する自発性がその内
容で、これに関しての主体の能力・権利・責任などが問題となる」
(それ、わがまま? 同じ辞書でしらべてごらん)
「ぐむむ、ならば特別しらべてやろうではないか
 ええっと、”わ・が・ま・ま”っと。
 な、なんと!
 他人のことを考えず、自分の都合だけを考えて行動すること、身勝
手ぇ。
 じ、自由とは違う。似ているようだが違うぞ
 わがままとは自分のやりたいことをするのが本質だが、自由は他
から拘束されることがない反面、自律性という自分を律するという
自分自身を能力、権利、責任において拘束する、つまり自分自身を
拘束するという意味だ」
(さすが、マッドとはいえ、サイエンティスト。客観的な視点をも
てるね)
「ええい、うるさい。自由とはわがままというのは、間違いだ。
 みとめよう。しかし、自由とは自らの意思や本能に従うことだ。
 ならば、我輩が愚民に死を与えたいという欲求を満たすことでは
ないか。我輩は、死を与える能力もある。我輩は天才だからその権
利もある。そして、マッドな事をするのは、マッドサイエンティス
トたる我輩の責任である!」
(どこをどう、自律しての! 自律、調べてみなさい)
「まったく、辞書辞書とうるさいやつめ」
(落丁本の辞書片手に何いってんの!)
「なになに、”じ・り・つ”っと
 他からの支配や助力を受けず、自分の行動を自分の立てた規律
に従って正しく規制すること。
 のー ぷろぶれむ!
 問題ないではないか!
 我輩は、まさしく、自分の行動を自分の立てた規律に従って正
しく規制しておる」
(まった! 欲望に従っているだけで、何を規制している!)
「・・・え? ・・・規制? ・・・して・・・ない・・・」
(そう、あんたは、自分の都合で自由を解釈しているにすぎない。
つまり放縦なだけ)
「うるさい! 我輩は我輩を見下した愚民どもに復讐するのだ!」
(そんなの、自業自得だよ。社会には社会のルールがあるし、そ
れを守る責任を果たさない人間、当然権利をえられない。軽蔑さ
れて当然さ)
「がーん、我輩が責任を果たしていない・・・」
(他のことははかわいそうだから指摘しないけど、
 今回の場合、人に死を与えたとき、どんな落とし前がつけられ
るんだよ)
「我輩はて、天才だから権利があるのだ」
(その権利はどんな義務をはたしたの? それに責任・・・)
「ええい、責任、責任とうるさい。
 そもそも、加害者に責任能力がないのに遂行されたどうするのだ!
 我輩のように、遂行するのを予告したときはどうなのだ!」
(遂行された場合は、その社会のルールに従うだろうし、自由で
やったのであれば、本人の自律した規律に従うべきだね。
 遂行されることを予告した場合はどのようなどのような規律を
立てて、どのように落とし前をつけるか考えるべきだ!)
「ええい、我輩は天才なのだ、愚民が我輩に責任を負わせる能力
などあるわけがない」
(おいおい、勘弁してくれよ。辞書の内容を思い出して。
 自由の大前提に自律性があるし、問題として能力、権利、責任
がついてくるんだよ。天才のくせに忘れたの?
 それとも、客観的な自由という言葉の意味を、自分の都合で捻
じ曲げるのがサイエンティストなの?)
「そんなものは、”紳士協定”にすぎない!」
(だったら、その紳士協定なるものに、従わないということは、
紳士協定に従うことによる恩恵、つまり、様々な利益を得られな
くても文句はいえないよ)
「ええい、ルール無用なのだ!」
(だったら、こっちも、ルール無用としゃれ込みましょう。
 警察のみなさーん)
「わー、おおぜいでずるいのだー」
(ルール無用でしょ。自分だけがルールに適用されないわがまま
は、自由じゃないの)


 かくして、悪の屁理屈組織エゴイダーの、自由を放縦に摩り替
えるわがまま博士の屁理屈を論破し、わがまま博士自ら掘った墓
穴にいれることができた。
 所詮、屁理屈。
 屁理屈を重ねれば矛盾が生じ、自らの論理の墓穴を掘るのが宿命
だ。
 エゴイダーの幹部の矛盾を暴き、墓穴を掘っていくのだ!
 モラル仮面。

 

2005年12月18日 アップ

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