ホーム > 目次 > 小説 > トレーニング 

タイトル:たんぽぽ

 土砂降りの雨の中。歩行者天国の商店街はパステルカラーの傘の川の中で、
ぽっかり穴をあけるように傘もささずに歩く男の姿があった。
 男の名前は立花伊織。新人カメラマンである。肩にかけた大きなボックスの
中には彼の仕事道具であるいくつかの撮影の機材が入っている。
 通りかかる人達は、道の真ん中に立ち止まる伊織を、川の真ん中にある石を
避ける水のように、伊織を避けて進む。
「バァーカ」
 伊織は小声でそっと呟くと、悪いのは誰でもなく、自分であることを知って
いるだけに、自分の独り言に少しばかりの罪悪感を感じた。
「コラ! 伊織! 一度や二度の失敗で何落ち込んでいるんだ!」
 伊織を追って来た10歳年下の生意気そうな少女はそう言った。少女は黄色
いレインコートを着て、たんぽぽ色の傘をさしていた。
「美幸・・・・そうだな、お前を一番綺麗に撮ってやるって、そう約束したんだっ
たな」
 伊織と少女は顔を見合わせると、春に花咲くたんぽぽのように微笑んだ。

 

 

 

呟き尾形の野望
 とにかく、たんぽぽの黄色。これをイメージしてもらえるような描写に心がけました。
 ウマくできたかなぁ。と思いつつ、精進いたします。
 

 呟き尾形 2004年2月29日 アップ

タイトルへ戻る