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テーマ「恋文」

「ふぅれー!
 ふぅれー!
 まぁーきぃーこ!
 ふれっ! ふれっ! まきこ!
 ふれっ! ふれっ! まきこ!」
 やめろってば恥ずかしい。
 心の中で叫べても、ぼくは顔が真っ赤になるだけだ。
 ここは東京駅の新幹線のホーム。
 次はおろか、次の次に出発する新幹線を待つ列までずらりと並んでいる
ホームだ。
 その無数にある視線はぼくと、にあわないバンカラな応援団のコスプレを
している聡に集まっていた。
 聡は汗臭いガクランにタスキと鉢巻きを不恰好に巻いている。
 本人を目の前にして言うのは悪いが似合わないし、カッコが悪い。こんな
カッコウであの山手線で来たのだと言うのだからあきれ果てる。
 ぼくの知っている聡は、もっと二枚目ハンサム、クールで、ロンゲで、ナ
ンパで、軽薄な男だ。
 だから、時代錯誤でバンカラなカッコウは似合わない。
 言い寄る女は多い上に、告白して来た女には、無節操にすべて「ウェルカ
ム」と受け入れる。付き合っても、軽薄だから、告白された女にフラれてし
まう。
 なんでも、聡は「告白されることはあっても、告白しないことがポリシー
だ」なんだと。わけのわからぬ、筋の通らないポリシーだ。
 最低の男だ。最低な男だけとぼくの幼なじみだから、ぼくに泣きつく。ぼ
くは、女がてらに応援団をやっていたから、その都度エールを送っていた。
 目の前の聡が着ているカッコウで・・・。そのガクランは、ぼくが、聡に
別れのしるしにとあげたガクランだ。
 目頭が熱くなる。うれしいのか、悲しいのか、寂しいのか、つらいのか、
せつないのか、幸せなのかよくわからない気持ちで破裂しそうだ。
「さとしのバカーッ!」
 それがぼくの精一杯の気持ちだった。聡にだけはこの涙はみせたくない。
 後は、全部の音が駅員のアナウンスにかき消された。
 ぼくはすこしだけ後悔しながら、指定席にすわる。

 新幹線の出発の合図のベルが鳴り響く。後悔の気持ちはさらに重くなる。

「フレ! フレ! マキコ フレ! フレ! マキコ」

 かすかに窓の外から聞こえる聡のエール。
 気のせいかと、窓の外を確認すると、あの聡がまだぼくにエールを続けて
いた。
 聡の右手に何かが握られていた。
 くしゃくしゃになった白い封筒。

 まさかあれは、ラブレター? いや、あいつは、告白されることはあって
も、告白することはしないのがポリシーだったはずだし、ぼくが唯一、あい
つのことを認めるところだった。
 いや、まてよ。告白することをポリシーにするのは、告白したい相手がい
たはずだ。
 ははぁ〜ん。聡。おまえ、ぼくの大嫌いな軽薄でナンパな奴だと思ってた
けど、なかなかぼく好みの筋の通った硬派な男だったんだ。
 後で返事をしてやろう。まだみていない、その恋文に。


呟き尾形の野望
 好きだ。という気持ちを、好きという言葉を使わずに表現できるか、挑戦してみました。

 

 

 

 呟き尾形 2004年7月11日 アップ

呟き尾形 2014年1月5日 修正

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