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テーマ「色(赤)」


 太陽も沈みかけた夕暮れ時の薔薇園に、2人の男が決闘しようとしてい
る。
 2人の男の間には、1人の女性と1人の決闘見届け人がいた。決闘見届
け人は彫刻のように動かず、女性は対照的にが左右を交互に見つめ嘆願し
ている。
「私などのために決闘などやめてください」
 女性の右手には、たくましい体つきの髭を蓄えた騎士が体に似合わない
細身の剣、レイピアを構え、余裕の顔つきで、向き合っている若者を見据
えていた。
 女性の左手には、金髪で初々しい空気をかもし出す美形の男子が、騎士
と同じレイピアを弱々しく構えている。
 若者は、騎士とはあまりにも対照的に緊張しつつも、今にも火花が飛び
散りそうななまなざしで騎士を睨みつけていた。
 決闘。
 恨み、争いなどに、決着をつけるためにあらかじめ決めた方法で、命を
かけて闘うこと。
 今でこそ、決闘罪なる罪があり、決闘したり、その場を設けることを罪
とされ、社会から禁じられているが、当時はむしろ、決闘は制度化され、
決闘こそが男の名誉でもあった。
 男が1人の女性を奪い合うのに、なにも命を賭けることもなかろうに。
 人生を知ったかぶりをした者がいればそんな意見もあろう。
 しかし、二匹のオスが一匹のメスを奪い合うのは、自然の摂理からも正
しい事柄である。
 ましてや、これから子孫を残そうと決めた異性を奪い合うのだ、命を賭
けて奪い合うことに何の間違いがあろうか!
 夕日が空にしみ込む頃、騎士と若者は背中合わせになる。
「日没より三歩進み振り返り様に決闘を始める。よろしいか?」
「承知」と騎士。
「しょ、承知」と気圧され気味の若者。
「やめてー」
 女性は叫んでいた。叫んでいる中、女性は騎士の方が頼りになると思っ
ていた。あの腕に抱きしめられたときの安心感、ぬくもり、強さ、財産、
名誉。全て、若者と比べて騎士の方が上回っていた。
 しかし、なぜかは解らないが若者への想いが断ち切れずにいた。
 女性は、選ぶのであれば絶対騎士であることは間違いない。と確信して
いた。しかし、彼女は心の底から決闘をやめて欲しいと嘆願している。
 決闘の結果は目に見えている。

 若者の死。

 それだけだ。
 それだけは、どうしても、どうしても避けたかった。

 そして、女性はもう一度、言葉にならない叫びを上げる。
 嘆きの精霊、バンシーを思わせる絶叫。
 その絶叫が悲鳴に変わったのは、薔薇が鮮血に汚された時だった。
 騎士のレイピアは正確に若者の心臓を貫いている。
「勝負あり!」
 決闘見届け人の無機的な声。
 そのとき、女性は確信した。なぜ自分が決闘を止めたがっていたかを。
全て若者に勝っているはずの騎士を選べずにいたかを。
 女性は若者にだけ、心の底から愛されたいと願っていたのだ。
 騎士は白いハンカチで少量の返り血を拭き、それをゴミのように投げ
捨た。そして、女性の前に跪き、若者を奪ったレイピアの切先を自分の
喉元に突きたて、その柄を女性に差し出した。
「姫君。決闘の勝負はつきました。
 婚約の誓いを受け入れるときは、剣を取り、天にかざしなさい。受け
入れないときはその剣の刃をその者の喉へ突き刺しなさい」
 決闘見届け人は決まり文句を読み上げるように言う。
「はい」
 女性は騎士の剣を手に取り、天にかざす。
 月の蒼い光だけが女性を照らす。
 神秘的で神聖な光景とは裏腹に、女性は、血に塗られたレイピアに、
誓っていた。
 女性は、最愛の若者を奪ったこの騎士を、もっとも無残な形で復讐す
るという、復讐の炎に燃え上がっていたのだ。 

 


呟き尾形の野望

 これを読まれた方の中で、もしかすると、「どこが色?」と思われたかもし
れません。
 その場合は、失敗です(T.T ) ( T.T)
 まぁ、赤という言葉を使わず、印象的な赤を表現したかったわけです。
 つまり、赤のメタファー(暗喩)を使って、赤という色を連想してもらえる
かがトレーニングが成功したか失敗したかがかかっているわけでして(*^0^*)

 なので、成功したかどうかわかるのは自分ではできないという欠点が(笑)

 ま、トレーニングということで。

 

 

 

 呟き尾形 2004年9月5日 アップ

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