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守護者の探索 一蓮托生



 

  

雲外蒼天

 僕の名前はカーズ・セレジア・エリアス。
 僕たちは、混沌の守護者を倒すための旅をしている。
 みんなは、僕のことを子ども扱いして、馬に乗せたがるけれども、僕だって一人前だ。
 みんなに認めてもらうために、馬から下りると、ギベルが旅路が遅くなると僕に注意する。
 でも、僕だってずっと自分の足で旅をしたんだと言い張ると、ギベルはため息をついて僕が歩くことを認めてくれた。
 だから、僕は、僕の足であるいている。
 だけど、伎雄は、そんな僕を見るたびに「無理しないでくださいな」と、からかう。
 たしかに、僕は伎雄たちと比べれば足が遅い。
 だけど、それは僕が子供なんだから仕方が無いじゃないか!
 そんな風に僕が考えていたら、トライガンが僕の隣に来た。
 トライガンは、いつも、右目をつむっている。
 その目のことについては、僕も何度か質問したけれど、トライガンは、いつも優しく笑ってごまかす。
 やっぱり、僕が子供だからなのかな。
 僕が足手まといなのかな。
「カーズ君。
 自分の力量を正しく知る事も必要ですよ」トライガンが僕に話しかける。
「それって、僕がみんなの足手まといだってこと?」
「ちがいますよ。
 知恵や力をかしてくれる他人の存在を知るべきだということですよ。
 シャルク神は言いました。
 自らの力量を知らざるものは愚者、されど自らの力量を自覚することは賢者への道でもあると」
 トライガンはシャルクの神官だから、シャルク神の教えをよく口にする。
 だけど、シャルク神は、ここ、ケオティッカ帝国の国教のミオン神と仲が悪くて、シャルクの神官がいるというだけで、宿屋に泊めてもらえないことがあるくらいだ。
 僕が不満そうな顔をしていると、トライガンは言葉を続けた。
「まぁ、だれしも、独力で行うことは良い経験とされていますから、人を頼ることはあまり喜ばしいとは思われていません。
 さらに言えば、他人の知恵や力を借りるということは、良い経験と認識されることも少ないでしょう」
 トライガンの言葉を聞けば、やっぱり、何でも自分で出来るのがいいんじゃないか。
 僕が心の中でそう呟くと、トライガンは人差し指を横に振った。
「でも、自分の力の足りなさを自覚しないと、いくら独力でことをなせる人でも思わぬ落とし穴にはまってしまうものです。
 むしろ、自分の力の足りなさを自覚しようとすれが、他の人の助けをえることは、他人の知恵や力を吸収できるということと同じです。
 そうすることによって、それまでの自分の力を補う活力になるんですよ。
 そうやって、人は成長するものです」
 僕にはトライガンの言いたい事が良くわからなかった。
 すると、僕の額に何か冷たいものが当たる。
「おや、これはひと雨きますねぇ」
 伎雄が、掌を天に向けて、空を見上げた。
 僕も、伎雄につられ空を見上げると、いつの間にか真っ黒な雲が空一面にびっしり絨毯みたいに敷き詰められていた。
「カーズもいることですし、一旦、一休みしませんか?」
 リージャが優しくいうけれど、僕はちょっと嫌だった。
 うまくいえないけれど、リージャは、子供の僕がなにもできないとおもっていっているんじゃないかと思えるから。
 もちろん、リージャは優しいし、優しいところは好きだ。
 でも、その優しいところが、かえって僕を嫌な気持ちにさせた。
 時間がたつにつれて、雨と風が急に強くなって、そのいやな気持ちは吹き飛ばされた。もう、それどころじゃない。
「あそこに、雨宿りさせましょう」と伎雄。
「でも、狭いよ〜」菖蒲が言う。
「菖蒲さん、じゃぁ、違う場所を探してくださいな」と伎雄。
「やぶへびだったのだ〜。
 でも、雨宿りしてまっているよりましだね。
 いってくるよ」
 菖蒲が行くんだったら僕もいける!
 僕はそう思い込んで菖蒲と一緒に走り出した。
「カーズ! 待ちなさい!」
 追ってくるのはトライガンだった。
 僕は捕まるまいと全力で走り出したとき、足を滑らせたかと思うと天地がぐるぐる回り始めた。
 そして、ドンビシャ! と音がしたかと思うと僕は、崖から転がり落ちたことに気がついた。
 イタイ!
 体中がズキズキ痛むけど、特に手が動かない。
 僕は、自分がなんて馬鹿な見栄をはったのだろうと悔やんだ。
 風と雨は、それに追い討ちをかけるように、僕にぶつかってくる。
 体が冷える。
 とにかく、僕は、雨と風をしのげる場所を探すことにした。
 真っ暗の森の中、強い風は見えもしない木を押しのけて、雨粒と一緒に僕にぶつかってくる。
(なんて、僕はばかなことをしたんだろう)
 僕は、自分の出来る事と出来ない事の区別がつかないことを悔やんだ。
『自分の力の足りなさを自覚しないと、いくら独力でことをなせる人でも思わぬ落とし穴にはまってしまうものです』
 僕の頭の中にトライガンの言葉が何度も何度も繰り返された。
(とにかく、雨の当たらないところにいかなくちゃ・・・)
 僕は、痛みをこらえて手探りで前に進む事にした。
 もう、どれくらい歩いたのかわからない。
 思うように体が動かないし、頭がぼんやりしている。
 もしかしたら、ほんのちょっとしか歩いていないのかもしれないけれど、体がとにかく思うように動かない。
 僕はもう動かなくなった体を寝転ばせた。
「あ・・・」
 僕は、仰向けになって空を見上げると、空が夕日色にそまっていた。
 僕は、正直、あの黒い雲の上にこんな綺麗な空があるなんて信じられなかった。
 そういえば、乱暴だった風も優しくなっている。
 僕はやっと、嵐がやんだという実感がわいた。
 それにしても、思ったよりも時間はたっていなかったは、意外だった。
 僕がほっと一安心したとき、僕は何かに囲まれていることに気がついた。
 僕はハッとして、周りを見渡したとき、僕は狼に囲まれていたことにきがついた。
 狼はうなりながら、囲みをじわりじわりと小さくしてくる。
 狼が僕に飛び掛ってきた。
 もうだめだ。僕は目をつぶり、あきらめかけたそのとき、思い浮かんだ言葉は「ごめんなさい」の一言だった。
 僕は、見栄を張って自分の出来る事をしらなかったばっかりに・・・。
 僕の体に狼の牙が食い込んでいるはずだ。
 でも、体の感覚が無いせいか、痛みは無い。
 案外、いたくないかもとおもえた。
「俺から離れるなよ、小僧」
 トライガン・・・とよく似ているけれど違う。
 トライガンと同じ服装なのに、トライガンじゃない。
 いつも優しいトライガンだけど、雰囲気が怖い。
 なにより、トライガンは、いつも片目を閉じているけれど、いま、僕に声をかけた人は、両目を開き、楽しそうに狼に拳を叩きつけている。
 怖い人だ。
 見た目はトライガンに良く似ているけれど、まったく違う別人だ。
 トライガンによく似たその人は、狼を次々と倒して、狼が逃げていった。
「ふん、狼のくせせに、てごたえがねぇな。
 よう、小僧、礼はいらねぇぜ、久々に暴れることができたからな。
 まぁ、トライガンには黙っておいてくれや。
 細かい事は、伎雄がしっているから、知りたい事は、トライガンがいないところで、伎雄に聞け」
 トライガンに良く似たその人は、トライガンがいつも持っている尺上を拾うと、片目をつぶると、放心状態になる。
 そして、しばらくするとその人の、僕を見た。
 暖かいまなざし、僕の知っているトライガンだ。
「カーズ! 無事でしたか!」
 と、トライガンに良く似た人は、トライガンになって、僕を抱きしめた。
「ごめんなさい。トライガン」
「いいんですよ。
 過ちというものは、行動しているからこそです。
 なにより、過ちは、自分の力の足りなさを自覚させます。
 そして、自分の力の足りないことを知ってはじめて、人は、他人の知恵や力を吸収できるのですから」
「それって、シャルクの言葉?」
「いいえ、今のあなたを見ておもったことですよ」
 トライガンの言葉は、雨上がりの夕日と同じくらいまぶしかった。
 

 

 

 呟き尾形 2007年7月22日 アップ
呟き尾形 2015年5月17日 修正
 

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