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守護者の探索 会者定離



 

  

会者定離

「おい、カーズ、最近元気がないじゃないか」
 そう僕に声をかけてきたのは、テオ・ナイジェル。
 テオは、男にしては華奢で、女のようなペンダントやイヤリングをしている。なにより、ときどき、女の人の優しい香りもする。
 テオは、自分が男だということにこだわっているみたいだけれど、ペンダントやイヤリングをしていれば、女に見える。
 このことをテオにいったら、ものすごく怒られた事がある。
 どうやら、ペンダントやイヤリングはアクセサリーというよりも、魔力を高める道具だと、こっそり伎雄から教えてもらった。
 でも、テオに言うつもりはないけれど、わざとらしい男っぽい口調をやめて、女の人の格好をさせてしまえばさぞかし女らしくなるんじゃないかと僕は思う。
 でも、そんなことを口にするものじゃないというのは、知っている。
 だって、伎雄がそのことで、テオをからかってから、伎雄は、テオの魔法で、3日ほど口も利けないくらいの歯痛に悩まされたんだから。
 なんでも、テオに向かって話しかけると、1時間歯が痛くなるというのろいをかけられたそうだ。
 ルタが、嬉しそうにこっそりおしえてくれたんだ。
「お、どうした、オレの顔になにかついているのか?」
 僕は、どうやら、がテオについていろいろ考えているうちに、テオのこと
をじっとみていたみたいだ。
「ううん、なんでもない」
 僕はあわてて首を横に振った。
 なんでもないというのは嘘だけど、でも、今僕が悩んでいる事を話したって、誰も信じてくれないだろうから。
 僕はここのところ、なんだかわからないけれど夢の中で怖いことばかり思い出す。
 だから、なんというか、うまくいえないけど不安な気持ちでいっぱいになるんだ。
 すると、テオが、僕の気持ちを察したのか、僕の顔をじっと見る。
 やっぱり、テオは女の人の香りがする。
「立ち止まって、後悔したってはじまらないさ。
 後悔している時間があるなら、まずは、行動しろ」
 テオは、僕の額を人差し指でかるくこづいた。痛さよりも優しさを感じる。
「お前が生きている間、何かに悩み続けるだろう。
 その悩みに解決なんてあるはずもないさ。
 ただ、悩んでいることに、むかっていくものだ。
 ただそれだけだ」
「でもどうすればいいの?」
 僕は、テオの言うことが難しくてよくわからなかった。
「んなもん、自分で考えろ。
 ただな、考えてばっかりじゃ、解決はしない。
 それよりも、まずは、悩んでばかりいるんじゃなくて、悩んでいることにむかっていけ。
 そうすりゃ、なんとかなるさ」
「でも、どうすればいいの?」
 やっぱり、僕は、テオの言うことが難しくてよくわからない。
「おまえなぁ・・・。
 まぁ、ガキンチョだからしょーがねぇな。
 悩んでいることに向かっていくのは、まず、それを自分の事だと認めて受け止めることだ。
 まぁ、いい、とりあえず、お前は寝ろ」
「あの・・・悩みってほどじゃないんだけど・・・。
 ただ、なんていうか、眠るのが怖いっていうか・・・
怖い夢をみるっていうか・・・」
 ああ、やっぱり上手くいえない。
 でも、テオは僕の気持ちが解ったみたいに優しく頭に掌を乗せた。
「オレが、夢の中でお前が何にうなされているか見てやる」
 テオがそういうと、カーズの額に象徴魔法の文字を書く。
 象徴魔法。
 理屈はわからないけれど、魔法の文字を道具や魔法文字の印を組むことで、魔力を得る魔法なんだそうだ。
 僕が不安そうな顔をしていると、テオが優しく微笑んだ。
「今からお前にかける魔法は夢の印といってな。
 思考や夢を読み取る魔法だ。
 魔法そのものは難しくは無いが、下手な奴が安易に使うと、相手や自分の精神を傷つけてしまう魔法だ」
 僕がテオを心配そうな目でみると、テオは優しく微笑んだ。
「安心しろ」
 同じ言葉を伎雄やルタから聞くと、疑問があるけど、テオがいうと安心できるから不思議だ。
 そして、テオが僕の額に象徴魔法の文字を書き終えると、僕はなんだか眠く
なっていた。
 僕がそのとき、最後に聞こえたのは、テオの「さて、ここからが本番だ」と
いう言葉だった。
 僕は、テオを信じる事にした。
 そして、僕が気がつくと、僕は洞窟の中にいた。
 1年ぐらい前、僕がゴブリンの洞窟で混沌の守護者の封印を解いたときの風景だ。
 魔法の力で、一斉にゴブリンたちが石に躓きころんだところで、
「今だ! 一気に奥まで走っていけ」
 と言う声を合図に、僕は、隣にいた女の子の手を引いて走り出していた。
 だけど、女の子は、急に僕が手を引っ張ったからか、躓いてしまった。
 女の子の持つ石が光り出し、その蓋は不自然にひらいた。
「カチューシャ!」
 僕は女の子の名を叫ぶしかできなかった。
 もちろん、叫んでもどうにもならない。
 ゴブリンが、襲いかかってくる。
 僕はとっさに横に飛んでゴブリンの攻撃をかわした。
 僕はカチューシャの手をとり立ち上げたとき、僕に向かってゴブリンの持つ、錆び付いたナイフの切っ先が目の前にきていた。
 僕は思わず目を閉じてしまった。
 もうだめだ。
 と確信できたから。
 でも・・・なにもおこらない。
 そのかわり、ゴブリンたちが奇声を上げて、徐々にその奇声が遠のいた。
 僕はおそるおそる目を開けると、そこには、3人の仮面をかぶったエルフ
が立っていた。
「カーズ・セレジア・エリアス、お逃げなさい。
 貴方は、ここで死ぬべき人間ではない」
 仮面をかぶった女性の声は、とてもきれいな声だった。
 他の二人の仮面のエルフは、ゴブリンめがけて無数の光の矢が飛び出し、
すべてのゴブリンに命中させた。
 殆どのゴブリンはその場に倒れたが、かろうじて生き残ったゴブリンは、
恐怖にわれを恐れて、洞窟の奥に逃げていった。
「あ、ありがとう」僕はただ、そうお礼を言うほかなかった。
「きにしないで、とにかく、ここにいてはだめ」
 仮面をかぶった女の人が言ったけれど、僕は思わず、口答えした。
「まって、あの棺のなかに・・・」
 そう、カチューシャが棺を指差した。
「だめよ、それは混沌の守護者の封印・・・」
 そう仮面をかぶった女の人がいうが早いか、棺から赤い光がほとばしり、カチューシャは、棺に吸い込まれた。
「カチューシャ!!!」
 僕が飛び出そうとしたけれど、仮面のエルフにつかまれ身動きが取れない。
「放せ!
 カチューシャ達がっ!!」
 僕の叫びは、仮面のエルフのマントでかき消されて目の前が真っ暗になった。

 そのとき、僕は、頭を殴られたような衝撃をうけて、一気に目が覚めた。
 そう、いつも夢だとここで始めて気がつく。
 何度も、何度もこれを繰り返しているのに、夢の中の僕は夢の中で、夢だと気がつけないみたいだ。
 そんな僕の額にそっと暖かい手を添えられた。
 テオの手だ。
 いつもは、そっけなくて、冷たいくらいなのに、今日のテオは優しい手だ。
「夢って言うよりは、昔の記憶だったみたいだな」
 僕はだまって頷いた。
「会者定離・・・」
「なにそれ?」
「会うものは必ず別れる運命にあるって意味さ」
「そんな・・・」
「ああ、だから別れ一つ一つに悩ませたって意味が無い。
 立ち止まって、頭をなやませたって、解決なんてこないのさ。
 それよりも、今、自分のできることをやれば、一度別れた相手とまた会える。
 運命というのは、自分で引き寄せるものだ。
 だから、おまえ自身が、夢の中で別れた女の子と再会できるように努力すれ
ばいい」
「どんなどりょくだよ」
「まずは、悩むのをやめることだな。
 夢の中でお前が後悔していることを繰り返さないことだ。
 あの時どうしていればいいのかを考えるんじゃなくて、これからどうするか
を実行するんだ。
 そうすれば、この夢は見なくなるだろうぜ」
 僕はテオの言葉が信じられなかったけれど、くやしいけれど正しかった。
 だって、その日以来、僕はその夢を見なくなったんだもの。

 

 

 

 呟き尾形 2009年7月19日 アップ
 呟き尾形 2015年5月31日 修正


 

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