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ムーシコスのバイオリン(第2回)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 さて、指揮者のアロペクスとケンカしてしまい、音楽隊をやめさせられたムーシ
コス。これからムーシコスはどうなるのでしょうか?
 
 ムーシコスの帰り道は月の光が明るかったので、石につまずかないで家につけま
した。ムーシコスは、家の前にある、木で作ったポストをのぞきこみました。何か
入っています。
「なんだろう?」
 ムーシコスはポストの中身を取ると、一通の手紙と、銀色のペンダントが入って
いました。
 ムーシコスは、首を傾げながら手紙を手に取ると、手紙は家の中で読むことにし
ました。
 ガチャガチャ、キュゥゥゥ。バタン。
 ムーシコスは、ゆっくりと焦茶色のドアを開けました。
「こんばんわ、ムーシコス君」
 黒い背広を着た、紳士の格好をした白い兎が話しかけてきました。
「き、君はだれだい? ど、どう見ても、兎のようにしか見えないけど・・・」
「う〜ん。僕は見ての通りの兎のクニー・・・
どうしたんだい? ムーシコス君そこに座り込んだりして? 前から思っていたけ
ど人間って、不思議な生き物だなぁ」
「う、兎がしゃべって・・・そのうえ名前があるなんて信じられない」
「う〜ん。それは君たちの勝手な思いこみだね。まぁ、満月だから何がおこっても
不思議じゃないのさ。特に、黒いお月様が満月の日はね」
「お月様が黒いわけないじゃないか!」
 ムーシコスは兎にからかわれていると思い、兎に怒鳴りました。それは兎の大き
な耳には大きすぎた声でした。兎は大きな耳を両手でふさいでいます。
「ご、ごめんよ。だいじょうぶかい?」
 ムーシコスは、耳をふさいだ兎が気の毒になりました。そんなムーシコスを見
て、兎はおそるおそる両手を耳から離しました。
「う〜ん。もう怒鳴らないかい? 僕は兎だから、大きな声にはからきし弱いん
だ」
「ごめんよ。うさぎ君」ムーシコスはばつが悪そうに言いました。
「う〜ん。あ、そうそう、僕はムーシコス君のバイオリンを聞きに来たんだ」
「え? そうなの? エヘヘ、しかたがないなぁ」
 ムーシコスは、さっそくバイオリンを弾き始めました。今日は特にアロペクスに
言われた悔しさを、バイオリンに語りかけました。
『今日は大変だったね』とムーシコスは無言でバイオリンに語りかけます。
『うん。でもどうして怒られっぱなしなんだい』バイオリンが応えてきます。
『しかたながないさ。あそこでは決まった曲通り弾かないとダメなんだ。だから君
と話をすると、アロペクスには耳障りな音に聞こえるのさ! その上、音楽隊を辞
めろってさ!』ムーシコスはためいきまじりに言いました。
『そうか。アロペクスはなんてヤな奴なんだ!』
『そうさ、アロペクスの馬鹿野郎!』
 こんな会話をしているときは、すでに音楽などではなく、雑音になってしまいま
す。さすがの兎も、ちょっと眉をしかめます。
『でもね。僕があんまり好き勝手に君と話をしていると、みんなに迷惑がかかるん
だ』ムーシコスは、練習の時の事を思い出しました。
『そうなのかい?』
『そうさ! 演奏はそこが難しいけど、うまくいくと、とっても気持ちがいいん
だ』
『うん。確かに!』
『でも、音楽隊はやめさせられたし・・・でも、でも、新しい二人だけの音楽隊が
明日、結成されるんだ! 僕とリムネー。君も素敵なことだと思うだろう?』
『うん。素敵なことだ』
 兎は大きな耳を澄ませて聞いていました。ムーシコスがバイオリンを弾き終わる
と、兎は力一杯拍手しました。
「う〜ん。プロディジョーソ! すばらしい」
「なんだか照れるなぁ。僕がこんな弾き方をすると耳をふさぐんだよ。ひどいとお
もわないかい?え〜と、クニー・・・なんだっけ?」
「クニークルス! 君もシニョールなら名乗った名前を一度で覚えたまえ」
「ごめんよ、クニークルス君」
 ムーシコスは、クニークルスがきちんと名乗ったのかちょっとだけ首を傾げまし
た。
「う〜ん。まぁいいや。それで今日は君のバイオリンをみんなに聞かせようと思っ
て宴に是非出てもらいたいんだ。どうだい?」
「いいのかい!」ムーシコスは今にも飛び上がりそうです。
「もちろんだとも! いいんだね! ムーシコス君。さっそくそのことを伝えな
くっちゃ! 迎えはたぶん狐が来るよ。じゃぁまた!」
「おい! クニークルス君! どこでだい? いつなんだい? 狐って誰だい?」
 兎の紳士はムーシコスの質問には何も答えず窓から飛んで出ていきました。その
少し後に隣の赤ん坊の夜泣きの声と、それをあやす母親の声が聞こえてきました。
ムーシコスはバイオリンをケースにしまうと灰色の毛布かけてある硬いベットに寝
ころびました。しばらく天上を見つめて、さっきあったことを思い返しました。
(いったい、何が起こったんだろう?)
 考えれば考えるほど訳が分からなくなります。だいたい兎が言葉を話すはずもな
いのです。
(そうか! 僕は夢を見ているんだ。そうに違いない)
 そんな風に考えていると、隣の赤ん坊は泣き止んだようでした。
 ドンドンドンドン。ドタンバタン。ガッコンガッコン。ギィィィ。
 焦茶色の扉が悲鳴をあげて開きました。そこからは鬼のように真っ赤な顔の隣の
おばさんが、ズンズン入ってきました。
「ムーシコスさん!」
「は、はい」ムーシコスはベットから飛び起きます。
「いったじゃないですか! 3回目の白い時計台の鐘が鳴ってからバイオリンの練
習なんかしないでくださいって! おかげでかわいい赤ちゃんがびっくりして泣い
てしまったじゃないですか! せっかく寝付いたのに。だいたいムーシコスさん。
どうせあなたはどんなに練習したって上手にならないんだからいっそバイオリンな
んかやめてしまえばいいじゃないですか。
 ああ、せめてあなたが子守歌の変わりに何かバイオリンで眠くなるような静かで
ロマンチックな曲でも弾ければいいんですけどね。まったくあなたのバイオリンは
役にたたないったらありゃしない。アロペクスさんの苦労も分かるような気がしま
すわ・・・」
 ムーシコスは耳をふさぎたい気分でしたができませんでした。
「ガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミガミ・・・
  とにかく! 周りに人がいることも忘れないで下さいね! ああ迷惑ったりゃ 
ありゃしない」
 長い間、亀のように縮こまっていると、ようやく隣のおばさんはムーシコスの部
屋から出ていきました。
 ドタンバタン。ガッコンガッコン。勢いよく扉が閉まります。
『痛い!』
 焦茶色の四角いドアから、悲鳴が聞こえてきました。
「だ、だれだい? クニークルス君かい? ドアの影にいるのは誰だい?」
『・・・・・・・・・・』
「ぉ〜ぃ。た、頼むよ。誰かいるなら、へ、返事をしてくれよぉ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 ヒューゥゥ、カサカサカサカサ・・・返事をしたのは、外の風だけでした。
「空耳かな?」
『入り口にあるドアだ』囁くような小声が聞こえてきます。
「え?」
『あのおばさんは乱暴だ。つかんだら投げ飛ばす。痛くてしょうがない』
「ま、まさかドアがしゃべってるの?」
『そうだ』
「驚いた」
『たまに独り言を言ってる。ここでバイオリンの音が聞こえる。合わせて風と 一
緒に踊っている。でも君は僕のことが「コワレタノカ?」なんて言って話し かけ
てきてくれてる。でも僕に鍵をかけて踊れなくしている。
 デブのおばさんに僕の扱いをどうにかしてくれないか?』
「・・・かわいそうに。隣のおばさんに言っておくよ。余り強く言えないけどね」
『たのむ。おやすみ』
「おやすみ」
 そう言ってムーシコスは焦茶色のドアに鍵をかけて、灰色の毛布がかけてある硬
いベッドの中に潜り込みました。ムーシコスは今日一日あったことを思い返して、
手紙のことを思い出しましたが、とても疲れていたので、明日の朝に読むことにし
ました。
 さて、音楽隊の練習が終わって、家に帰ったとたんに、兎と話して不思議なこと
ばかりで起こっているムーシコスですが、招待された宴とはいったい何のことなの
でしょうか。

★★★ムーシコスとクニークルスの座談会

「クニークルス君。やっぱり、君は僕にきちんと名乗って無かったよ」
 あれ? そうだったかなぁ・・・。
「そうなの!!! ねぇ、みなさん。そうですよね!」
 まぁ、まぁ、ムーシコス君。もみなさんも、細かい事は気にせずに。

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