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ムーシコスのバイオリン第8回
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 さて、なんとかムーシコスに追いついたクニークルスですが、
銀色のペンダントのことはすっかり忘れているようです。そんな
ことは全く知らないムーシコスは、無事にレオーの城に入城しま
した。ムーシコスはコヨーテに食べられてしまったヒュースを救
うことができるのでしょうか?                    
 でっかい城門をくぐると、広場と間違えるくらいの広い大きな
道がまっすぐ、鋼色の城まで延びていました。道端にはたくさん
の出店が並び、たくさんの動物達が、宴を楽しんでいるようで
す。城門から入城するムーシコスたちに注目して驚いています。
 やがて動物達はみんな歓声を上げました。
 たくさんの犬の兵士は、城門を勝手に開けたコヨーテを戒める
ためにムーシコスの横をすれ違っていきました。
「安心して下さい。私たちは戒められません。ここでは法を守ら
ない者が戒められるのではなく、守らせることのできなかった者
が戒められるのです。ですから守らせる側の者は強い権限を持ち
ますが、それを行使しても守らせることができなければ重い罰が
与えられます」
「ウルペースさん。それは何かおかしいよ」
 大きな声でムーシコスが言いました。
「どうしてです? それはあなたのいるところではおかしいかも
知れませんが、ここでは正しいことなのです」
「だって、ルールが破られたとき、ルールを守らない人は悪くな
くて、ルールを守るように見張っている人が悪くなってしまうん
でしょう」
「そうです。そうしなければルールがあること自体がおかしくな
ってしまいます」
「僕にはルールを守るように見張っている人がいることが不思議
なんだけど、ルールって言うのはルールを守る事が当たり前なん
だからさ」
「そうかも知れませんね。でも、ルールそのものも、世界ができ
た時にあったものではないのです。一緒に暮らす上で不都合があ
り、ルールがあったほうが快適に生活できるからルールができる
のですよ。でもどうしても守れない場合があります。私たちみた
いにね。そのとき私たちが悪いのですか? それとも、宴が始ま
ってからだれも入れては成らないと言う仕事を怠ったコヨーテが
悪いのですか?」
 ムーシコスは言葉に詰まりました。自分がたった今ルールを破
った本人であることが、自分の考えと行動が違うことに気が付い
たからです。
 戸惑うムーシコスをよそに、アロペクスは澄まし顔で周りの動
物などいないように、まっすぐ城を見ていました。ウルペースは
落ち着き払っています。クニークルスは落ちつきが無くキョロキ
ョロして動物達に愛想を振りまいています。ムーシコスが乗るエ
クウスは堂々とムーシコスを乗せて行進しています。エクウスに
乗っているムーシコスは突然の環境の変化に戸惑いと驚きで、び
くびくしていました。
「う〜ん、マニーフィコ! ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツ
ジ、ブタ、ヤギ、ネズミ、リス、サル、キツネ、タヌキ、シカ、
クマ、トラ、ヒョウ、オオカミ、イタチ、カワウソ、ゾウ、キリ
ン、ラクダ、カバ、イノシシ、サイ、ゴリラ。沢山いるよ。こん
なにいっぺんに見るのは初めてだぁ」
 クニークルスは赤い目を太陽のように輝かせています。ムーシ
コス達は中央の道を歩き大きなお城に着きました。
 城に着くと、犬の兵士がゼンマイ仕掛けの人形のようにぎこち
ない動きで、きびきびした動作でムーシコスをエクウスから下ろ
しました。犬の兵士はエクウスはお城の馬小屋につれて行こうと
しましたが、エクウスはムーシコスから離れようとしません。
「ありがとうエクウス。僕がここまでこれたのも君のおかげだ。
君と別れるのは辛いけどすぐに会えるよ。みんなを困らせないで
くれ。ここからは僕自身の足で歩くことにするよ。大丈夫。僕と
君は別々になってもいつでも心は一つだよ」
 エクウスはムーシコスの言葉が判ったのか、静かに別れを告げ
るようにいななきました。そしてエクウスは一度ムーシコスの方
を振り向いて馬小屋に行きました。
「う〜ん。ムーシコス君。仕事は終わりだ。レオー様からご褒美
をもらって帰るよ。いろいろと楽しかったよ。
 う〜ん・・・・。さよならだ。ムーシコス君。またね」
 クニークルスは照れくさそうに右手をさしのべて、ムーシコス
と握手をした後にさっさと帰っていきました。
「私の仕事もここまでです。失礼します」
 ウルペースは軽くおじぎをして、どこかへ消えてしまいました。
ムーシコスとアロペクスは犬の兵士に、沢山ある同じ様な部屋の
中の一つに案内されました。
 部屋は広々しており、入り口の反対側には壁の変わりに大きな
窓があり、その窓から城の外が見渡すことができました。そして
大きな窓のそばには柔らかそうな長椅子がありました。そわそわ
して落ちつかないムーシコスとは反対に、アロペクスは窓際の椅
子に座ってじっと外を見つめています。
「なあ、ムーシコス。君はどうやってここまで来たんだい? 君
はなぜここにいる?」
「アロペクス。君こそどうしてこんなところにいるんだい?」
「気に障ったかい? でもね、君以上に楽器が、バイオリンがう
まい人は音楽隊にいたんだ。君がいくら努力してもかなわないく
らいね」
  ムーシコスはたじろぎました。ムーシコス自身はバイオリンに
は自信はありましたが、確かに自分よりうまく演奏できる人が音
楽隊の中には沢山いたからです。
「フン。言葉もなくなったか。まぁここにいるという事は認めた
くないが僕と君がここにいるという事は本当のことだ。もっと
も、白い時計の塔音楽隊の隊員は僕と一緒にいるようなものだけ
どね。そう言った意味では、音楽隊全員ここにいることになる。
それで君がすでに音楽隊を抜けたからと言う理由は考えられる
な。そう考えれば、君は音楽隊の部外者だだから君は別の道を
通ってきたとの頷ける。問題は音楽隊の部外者なのに、ムーシコ
ス。君が宴に招待されたことだ」
 ムーシコスは返す言葉もありません。アロペクスは言い終える
と、また外を眺めて目を閉じて音のない音楽に耳を傾けました。
重い空気が流れています。ムーシコスはやることがないのでバイ
オリンを弾くことにしました。
 ムーシコスはここに来るまでのことを思い浮かべながらバイオ
リンを弾きました。いつも通り勢いよく弾いていましたが、初め
てクニークルスに聞かせたときとは比べものにならないくらい上
達していました。スムーズにバイオリンと話ができるのです。
 バイオリンはときどき『それでどうしたの?』といってムーシ
コスの話に夢中になって聞いていました。それがムーシコスを話
し上手にして、どんどん話が進むのでした。そしてムーシコスと
バイオリンの話が終わる頃、曲も終わりを告げました。
 パチパチパチ
「ブラボゥ! ムーシコス! 君はいつの間にこんなに上達した
んだい? いままでの君のバイオリンは男性的な力強さしか感じ
られなかったが、なんという のだろう。優雅さ! そう優雅さ
が加わって、とても高貴な音楽になっている。いままでの粗野で
でたらめなバイオリンが嘘のようだ」
 突然アロペクスが長椅子から飛び起きてムーシコスの弾くバイ
オリンに驚いている様子です。ムーシコスはただ頭をかいていま
した。
「ムーシコス君。君はいつの間にそんなにバイオリンが上達した
んだい? この前までの君なら、ただバイオリンをがむしゃらに
弾いていただけなのに、いまのバイオリンは心に訴えるものがあ
る。いったい君になにがあったんだい?」
 ムーシコスはアロペクスにいままでのことを話しました。
 始めにクニークルスと出会ったときの驚きを。
 次に隣のおばさんに怒られて悔しかったことを。
 次に扉と話して、扉に同情したことを。
 次にウルペースと出会ったときの不快感とドクロの馬車を見た
ときの恐怖を。
 次にヒュースにつれられて城とは反対側の森に着いてしまった
ときの不安を。
 次に湖の水辺でたった一人で楽器のない演奏をしたとき充実感
を。
 次に森の湖でヒュースに助けられ、喧嘩し、そして仲直りした
ことを。
 次にエクウスに乗って草原を駆け抜けて風になった心地よさ
を。
 次に門の前でのヒュースが呑み込まれた悲しみを。
 そして、城門をくぐったときに浴びた歓声の快感を話しまし
た。
 そうしているとドアからノックされました。
「白い時計塔のある村の音楽隊指揮者アロペクス様。バイオリン
弾きのムーシコス様。偉大なる王レオー様がお呼びです」
 張りのある凛とした声がドア越しから聞こえてきました。ドア
はゆっくり、開きました。犬の兵士が2人と犬の大臣が迎えに来
ていました。
 犬の大臣は格式張った正装をし、その立派な服装ときらびやか
な勲章で身分の高いことを主張しています。
「お初にお目にかかります。わたくし。カニス大学名誉教授。レ
オー王国立音楽団指揮者にしてレオー王国右大臣、ゲンマ公カニ
スと申します」
 うやうやしく礼をしているものの、全くそういった雰囲気は感
じられず、むしろ礼儀正しさが見下しているような印象を受けま
した。とくに自分の肩書きを大きな声でいうところなどは自慢以
外の何者でもありませんでした。
「本日はレオー様の気まぐれにより、はるばる白い時計の塔から
お越しいただき誠にありがとうございます。つきましては、誠に
失礼ながら我が主。レオー・アル・レクス三世がさっそく演奏を
拝聴願いたいと申す折り、演奏を願いたく存じます」
 ムーシコスはただキョトンとしてるばかりで、カニスの言って
いることがよく分かりませんでした。
「早い話が私たちの演奏を聴きたいという事を言っているんだ
よ。ムーシコス」
 アロペクスがムーシコスに耳うちを。とくに自分の肩書きを大
きな声でいうところなどは自慢以外の何者でもありませんでし
た。
 ムーシコスはただ首を傾げました。
 アロペクスがカニスのようにおじぎをすると、カニスは満足そ
うにうなずき、えらそうについてくるように指図します。
 アロペクスはそれに従い、ムーシコスは一歩遅れてついていき
ました。
 誰もいなくなった部屋の長いすの上には、バイオリンがぽつり
とありました。
「よっこらせっと。う〜ん。窓から入るのはしんどいなぁ」
 窓からウサギのクニークルスが入ってきました。
「すっかり忘れていたもんなぁ、ペンダントのこと…。
 あれ? ムーシコス君がいない。う〜ん。確かにムーシコス君
の引いたバイオリンが聞こえたのに。あれ? たいへんだぁ」
 クニークルスは長いすの上にあるバイオリンを見つけて叫びま
した。
 さて、ムーシコスはまたバイオリンを忘れてしまいました。そ
れを見つけた兎のクニークルスはバイオリンとペンダントを無事
に届けることができるのでしょうか?
 
★★★ムーシコスとクニークルスの座談会

「考えてみると長い道のりだったよね」
 バイオリンを演奏するとき思い出していたみたいだね。
「でも、お城の中の人たちすごかったね。
 ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ネズミ、リス、
サル、キツネ、タヌキ、シカ、クマ、トラ、ヒョウ、オオカミ、イ
タチ、カワウソ、ゾウ、キリン、ラクダ、カバ、イノシシ、サイ、
ゴリラ」
 うん。まったくだ。
 それはそうと、なんで演奏に行くのにバイオリンを忘れたんだよ!
「だって、とっても緊張したんだもの・・・ああ、どうなっちゃう
んだろう。ボク」
 ハハハ、それは次回のお楽しみ。
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