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ムーシコスのバイオリン第9回
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 さて、ムーシコスはまたバイオリンを忘れてしまいました。それを見つけた
兎のクニークルスはバイオリンとペンダントを無事に届けることができるので
しょうか?
 カニスと犬の兵士がムーシコス達を立派なお城の中を案内し、レオーのいる
謁見の間に案内しました。カニスが立派な扉の前で止まるとムーシコスとアロ
ペクスに言いました。
「我が主。レオー・アル・レクス様はとても礼儀に厳しい方。くれぐれも無礼
なきようお願いしますぞ。では」
「白い時計塔の村のアロペクス様、及びムーシコス様到着なされました」
犬の兵士が響く声で言います。謁見の間にある大きな扉がゆっくり開き赤い絨
毯が入り口から延びています。その赤い絨毯の先には黄金でできた玉座に座る
レオーがいました。
 魔獣レオーは雄々しいたてがみを日光に見立てており、黄金の王冠は炎のよ
うに赤いルビーや虹色の輝きを放つダイヤで装飾されていました。
 謁見の間にはたくさんの大臣や役人が控えており、犬の大臣はいつもの席に
着きます。その隣にはあろう事か犬の大臣と同じ服装をした狐のウルペースが
座っていました。
 アロペクスはそんなレオーに怯えることなく堂々と謁見の間の中央まで歩
き、ムーシコスもびくびくして続きます。アロペクスが謁見の間の真ん中より
レオーに近づくと立ち止まり片膝を着きました。ムーシコスもあわてて真似を
します。
「今宵の宴。御招待いただき誠にありがとうございます。僭越ながら私どもの
白 い時計台音楽隊の演奏をお聞き下さい」
「うむ。よきにはからえ」
 レオーは威厳のある声でいいました。アロペクスは立ち上がり指揮棒を懐か
ら取り出して指揮棒を一振りしました。
 するとどうでしょう。指揮棒から星のように輝く砂が出てきてムーシコスの
周りには見慣れた音楽隊の人たちがいたのです。
「オルガヌム。フィーデス。ヴィオリナ。ウィオラ。トゥバ。ドクテュルス。
コルヌー。テュンパヌム・・・・ああ。みんな!」
 みんな音楽隊の仲間達ばかりです。ムーシコスの瞳には懐かしさで涙が溢れ
てきました。そんなムーシコスをよそに音楽隊の仲間達は人形のように動きま
せん。
「さぁ、今日が本番です。練習の成果を見せましょう」
 アロペクスが言うと音楽隊の仲間達はそれぞれの楽器を弾く準備を始めまし
た。ムーシコスも準備をしようとしたところ、バイオリンがありません。ムー
シコスの顔は真っ青になりました。
「どうしたのですか? ムーシコス」
「実はバイオリンがないんだ」
「しかたありません。でも、あなた一人のために演奏を待ってもらうわけには
行きません。バイオリンを取りに行ってらっしゃい。先に私たちが演奏してい
ます。戻ってきたらムーシコス君の独奏としゃれこもうではありませんか」
「一人で演奏するの!」
「大丈夫。昼間のムーシコス君だったらこんな事は言いませんが、今のあなた
なら大丈夫です」
 ムーシコスは誉められてとても嬉しいのですが、嬉しい分、不安で胸がいっ
ぱいになりました。おろおろしているムーシコスをよそに音楽隊の仲間は準備
ができたようです。
「お待たせいたしました。私ども白い時計塔音楽隊は時計仕掛けのように精密
な音楽を演奏します。そしてご存じのように時計には2本の針があります。大
きな時間を示す短針と、小さく短い時間を示す長針です。私どももそれに従
い、演奏の方も短針の合奏、長針の独奏と分けさせていただきます。誠に失礼
ながら、先に短針の合奏を演奏している間、バイオリン独奏をするムーシコス
は控え室にて待たせていただきます」
「人間とは面白い発想をするものだな。好きにするが良い」
「ありがとうございます。
 さぁ、ムーシコス君。行ってらっしゃい」
「は、はい」
 ムーシコスは全力でさっきまでいた部屋に戻りました。謁見の間ではトラン
ペットが曲の始まりを告げ、だんだんトランペットの音がだんだん小さくなっ
ていきました。
 さて、何も知らないムーシコスはさっきまでいた部屋に向かいました。バイ
オリンを持ったクニークルスとすれ違わず出会うことができるのでしょうか?

 もうすぐ部屋に着くと思っていたのですが、同じ様な部屋ばかりで自分がど
こにいるのかすら判らなくなりました。部屋には目印があるわけでもなく、ど
の部屋にもいたように思えました。手当たり次第に扉を開くのですがどの部屋
の違いました。ムーシコスは自分が迷ったことに気がつき不安で押しつぶされ
そうになりました。
 よくよく考えてみると、兎のクニークルスと出会い、狐のウルペースに案内
されてからひとりぼっちになることはありませんでした。いつもとなりに誰か
がいたことに気がついたのです。それに気が付いたムーシコスは何か大切なも
のをどこかになくしてきたように思えました。
 ムーシコスはもう立っていることすらできず、座り込んでただ泣いていまし
た。そして涙の他にも胸の奥からこみ上げてきました。
「クニークルス君。ウルペース君。ヒュース君。ラクスさん。エクウス。アロ
ペクス。君たちはどこにいるんだ! 何をしているんだ!」
 ムーシコスの涙が枯れ始めた頃、白い時計台音楽隊の演奏も終わっていまし
た。とてもすばらしい演奏だったのでレオーは演奏が終わってしまったことが
名残惜しそうでした。
「すばらしい。誉めてつかわす」
「ハハッ。ありがたき幸せ」
「次の独奏もさぞかしすばらしいものなのだろうな。期待しておるぞ」
 レオーは自慢の鬣をなでながら満足そうに頷きました。
「しかし、ここを片付けてから独奏に入りましょう。今しばらくお待ち下さ
い。楽しみは待てば待つほど楽しみが増すもの。しばらくお待ち下さい」
 レオーはまた自慢の鬣をなでながらうなずきました。
「貴様! 偉大なる王を待たせる気か!」
 そう叫んだのは犬の大臣でした。犬の大臣はすさまじい顔でアロペクスを怒
鳴りつけて今にもかみつきそうです。
「よいよい。良いではないかカニスよ。余は待つぞ」
 レオーはカニスをなだめました。
 アロペクスは音楽隊のみんなにできるだけゆっくり片付けるよう目配せをし
ました。
 兎のクニークルスはバイオリンを持ってムーシコスを探し回りました。
「う〜ん。弱ったな。ムーシコス君の声が聞こえなくなっちゃた。ムーシコス
君がどこにいるか判らないし、僕がどこにいるかすら分からないや。あれ?あ
のいななきはムーシコス君の乗っていた馬だな馬君に聞いてみれば分かるかも
知れないな。善は急げだ」
 クニークルスは馬小屋に向かって一目散に走り出しました。
 馬小屋の前には犬の兵士が見張っていました。
「何者だ」
 犬の兵士が槍の矛先をクニークルスに向けてきます。
「うひゃ!僕の名前はクニークルスです。知り合いの馬に馬の主人がどこにい
るか聞きに来ました。それだけです。後生です。助けて下さい」
 犬の兵士は槍を足下において、パニックしたクニークルスをなだめようとし
ました。その隙を見たクニークルスは犬の兵士の横を走り抜けて馬小屋に入り
ました。
「こら!止まれ!」
「う〜ん。止まったら殴られるかもしれないからやだよ!」
 そう言ってクニークルスはムーシコスの馬を探しました。エクウスは馬小屋
の一番奥にいました。
「おい君!そう、君だよ君!ムーシコス君はどこにいるか知っているかい?」
  エクウスは分からないようでしたが、そのとき銀のペンダントが光り始めた
のです。そして流れ星のような光りのしっぽが、まっすぐムーシコスのいる方
向を指したのです。
「わお、この光はムーシコス君が湖にいたことを教えてくれた光と同じだ。よ
し!ムーシコス君のところに連れて行け!」
 クニークルスはエクウスに飛び乗ります。エクウスはムーシコスのところへ
わき目もふらず走り出しました。
 ムーシコスが泣きつかれて、途方に暮れている頃、白い時計塔音楽隊は片付
け終わってしまいました。それでもいつもの2倍はかけて片付けていたので謁
見の間にいる大臣達はイライラしていました。レオーも少々飽きてきたようで
す。そんな王を見たウルペースは前に出て言いました。
「偉大なる王よ。このウルペースが舞いを披露をお許し下さい」
「うむ、久々にウルペースの幻舞もいいかも知れぬな。満月の舞いか?それと
も 復活祭の舞いか?」
「いいえ、披露いたします舞いは今日が初めて披露する舞いでございます」
「おおそうか!それは楽しみじゃ。さっそく準備をするのじゃ」
「ハハッ。では」
 ウルペースは幻舞を舞い始めました。
 クニークルスとエクウスがムーシコスのところへ急いでいる頃、門番をして
いたコヨーテもムーシコスを探していたのです。コヨーテは門を閉じてから何
人も等しては成らないと言う規則を破った罪で死刑になることを言い渡された
のです。でもコヨーテは死ぬのはいやだったので、死刑を伝えに来た犬の兵士
の首をもぎ取り、バイオリン弾きのムーシコスと招待された指揮者のアロペク
スと兎のクニークルスと馬のエクウス、そして自分をだました狐のウルペース
達に何とか恨みを晴らそうと城までやってきたのです。
 お城にいる犬の兵士は、今は宴なので少なく、コヨーテは簡単にお城にはい
ることができました。そしてムーシコスの臭いをたどりついに座り込んでいる
ムーシコスのいる廊下までたどり着きました。
「クンクン。ごごのあだりだ。おれをだまじだやづらは。この臭いはバイオリ
ンひぎだな。おいバイオリンひぎ」
「は、はい!」
 ムーシコスは声に思わず反応しました。コヨーテは返事をしたムーシコスを
食べようと身構えました。すると後ろの方からクニークルスを乗せたエクウス
がやってきました。エクウスはコヨーテの様子を見て、コヨーテに飛びかかり
ました。クニークルスはついに振り落とされ、コヨーテの頭を越えてムーシコ
スにぶつかりました。
ゴン
「う〜ん。いてて」
「だ、大丈夫かい?クニークルス君」
「う〜ん。大丈夫だよ。そうだ!これを渡しに来たんだ!」
 ムーシコスはバイオリンとペンダントを受け取りました。そしてコヨーテと
エクウスが争っている方を見ました。すでにエクウスはコヨーテに呑み込まれ
ていました。
「ゲフ。さすがにごの馬は腹にごたえるぞ。次はおまえだバイオリンひぎ」
 そういって腹をさすっていました。
「エ、エクウス」
「う〜ん。ムーシコス君。ムーシコス君。かなわないよ。逃げようよ」
 ムーシコスはクニークルスの声など耳に入りませんでした。枯れた涙をさら
に流しました。そしてヒュースとエクウスを食べたコヨーテを睨みました。コ
ヨーテはたじろぎましたが、ムーシコスを飲み込んでしまいました。
  さて、コヨーテに飲み込まれたムーシコス。いったいどうなるのでしょう
か?

 

★★★ムーシコスとクニークルスの座談会
 たべられちゃったね。ムーシコス君。
「うん。じゃぁ、ここでこうして物語を読んでいる僕はいったい・・・」
 それは、白い時計塔のある村の七不思議。細かいことは気にしない。
「でも、語り部さんの言葉じゃないけど、いったいどうなっちゃうんだろう?
 ぼく」
 なんとかなるさ。しんじゃったなら、君とたまたま名前が同じ登場人物だっ
てことになるし、君自身だったら、きみはこうして生きているわけだから無事
ってことだよ。
「そ、そりゃそうだけど・・・なんか納得いかないな」
 細かいことはきにしない。続きは次回のお楽しみということで。
 そうそう、長かった物語も次回で終わり。
「え? 最終回ってこと?」
 そう、次回第10回、ムーシコスのバイオリンをお見逃し無く。

 

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