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ムーシコスのバイオリン 最終回
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  さて、コヨーテに飲み込まれたムーシコス。いったいどうなるのでしょう
か?
 飲み込まれたムーシコスは、コヨーテの胃の中に落ちました。そしてそこに
は何人かの傷ついた犬の兵士とエクウスとヒュースがいました。ヒュースは今
にも消えてしまいそうなろうそくの火のように弱っています。
「大丈夫かい?ヒュース君」
「ムーシコス。ムーシコスなのかブー」
「そうだよ。僕もコヨーテに飲み込まれちゃったんだ。でもヒュース君はまだ
死んでいなかったんだね」
「でも、もうすぐ俺はコヨーテの一部になってコヨーテになってしまうブー」
「どう言うことだい?」
「消化されるのさブー。もう消化されかかってるブー。だから俺はコヨーテの
見ること感じることが少しづつわかってくるブー。そして、いつか同じように
考えるブー」
「じゃぁ、ヒュース君がヒュース君じゃなくなっちゃうのかい?ヒュース君が
コヨーテになっちゃうの?エクウスも僕もここにいるみんなも」
「そうだブー」
「そんなのやだよ」
「・・・しかたないブー」
「何とかできないのかな」
 そんなやりとりをしていると聞き覚えのある笑い声が聞こえてきました。凍
らない湖で出会ったラクスの笑い声です。
「アハハ。やっぱりあなたたちを見ていると飽きないわ」
 ラクスの声だけで姿はどこにもありません。
「ラクスさん?どこにいるんだい?」
「言ったでしょ。私には元々決まった形がないって。それにあなたが城に行く
ことが、私を城に連れていくことだってことを。
 ところでヒュースさん。あなたは知っているはずよ。ここから出る方法を」
「そうなのかい?ヒュース君」
「・・・知ってるブー。でも、このままの方がいいような気がするブー。だっ
てここから出ても俺はどうせ小間使ブー。だったらこのコヨーテと一緒に暴れ
回りたいブー」
「そ、そんなヒュース君。それは違うよ。うまく言えないけどそれは違うよ」
「ふん、俺の気持ちは分からないブー」
「そうね。あなたのような意気地なしの気持ちは分からないわ」
 ラクスが冷たく突き放しました。
「そんな、ひどいよラクスさん。僕には少しだけど分かるような気がする。
ヒュース君は、ヒュース君は周りの人に認めて欲しいんだ。どんなことでもい
い。ただ同じ立場の人として認めて欲しいんだ。でも周りのみんなが認めてく
れない。たったそれだけなんだ」
「・・・音ブー。大きな音を出せばいいブー」
 蚊の鳴くような声でヒュースは言いました。
「音・・・そうか!ありがとうヒュース君!」
 ムーシコスはさっそくバイオリンを弾き始めました。クニークルスから受け
取った銀色のペンダントも光りだして、銀のペンダントとバイオリンが一つに
なり、バイオリンは銀色のバイオリンになりました。銀色のバイオリンはいつ
もより大きな音を出してコヨーテの胃の中に響きました。それは白い時計塔の
鐘の音のように大きくて綺麗な音でした。
 バイオリンの音はコヨーテの胃の中を響きわたり、胃の中の壁が音でふるえ
始めました。バイオリンの音は雑音から音楽に変わっていきました。
「うが!いでぇ!いでぇ!腹がいでえぇ」
 コヨーテは満腹の腹を抱えて苦しみ始めました。おなかからバイオリンの音
が聞こえてきます。コヨーテのおなかは風船が膨らむように膨らんでいきま
す。
「だじげでえぇぇぇ」
 どんどん大きくなるコヨーテの腹はついに空気の入れすぎた風船のように破
裂してしまいました。一部始終見ていたクニークルスはただ唖然としていまし
た。ヒュースと数人の犬の兵士が、倒れ込んでいました。そしてムーシコスが
水に包まれバイオリンを弾いていました。水はムーシコスつれてを謁見の間の
方へ飛んでいきます。に雄々しいたてがみをなでながらいいました。

「う〜ん。なんだぁ」
 クニークルスは口をポカンとあけて立ち尽くしていました。

 謁見の間ではウルペースの幻舞が終わろうとしていました。するとバイオ
リンの音が語りかけてきます。ウルペースはバイオリンの音に合わせて違
う舞いを始めました。すでにそこは銀色の音が舞踏会の主役になっていま
す。バイオリンの銀色の音が舞い、狐の幻舞が伴奏です。やがて舞踏会
で踊る七色の音がぽつりぽつりと増えてきます。
 白い時計塔音楽隊の演奏です。
「す、すばらしい」
 レオーは思わず言いました。
「音が、音楽が見えるぞ。音楽が舞っているぞ」
 やがて舞踏会は終わりました。そこにいるみんなは全く同じ想いに浸っていました。
目覚めるときに見る夢のように、それぞれの想いはそれぞれの体に戻りました。そし
てみんなの耳の奥底にムーシコスのバイオリンが残りました。
「すばらしい」
 レオーは他の言葉が考えつきませんでした。ムーシコスはただ深々と礼をしました。
レオーは満足そうにうなずきました。そのときそこは、拍手でいっぱいになりました。拍
手はしばらく続きました。拍手がやんだ頃、皆それぞれ満足しました。
「すばらしいぞ。白い時計塔のある村の音楽隊。特にバイオリン弾き。汝らに礼を言う
ぞ。褒美に取らすぞ」
 レオーは満足そうに雄々しいたてがみをなでながらいいました。
「それでは、我々白い時計塔音楽隊はこのレオーの城の専属の音楽隊になりたいの
です」
 アロペクスが音楽隊を代表して言いました。
「おお!それは願ってもないことだ。これよりおまえ達は白い時計塔音楽隊改め、黄金
のレオー音楽隊と名乗るが良い」
 レオーがそう言うと、白い時計塔音楽隊の楽器はすべて黄金に染まりました。
「このアロペクス、音楽隊を代表してお礼を申し上げたいと思います」
「なに。礼にはおよばん。余の専属の音楽隊だ。一流の楽器を持って一流の演奏をして
もらわねばな」
 レオーはまた満足そうに雄々しいたてがみをなでながら言いました。
「あ、あの」
「なんだ?バイオリン弾き」
「わ、私は家に帰りたいのです」
「何を申す?ここは嫌いか?」
「いいえ。ここはすばらしいところです。できれば一生ここにいたいと思いま
す。でも、でもここは私のいるところではないのです。私はここに来るまで音
楽隊に居場所がなかったように思いました。でも私にとって音楽隊にいるべき
場所なのです」
「指揮者がここに残るというのだぞ。ここに仲間が残るのだぞ」
「違うのです。私は白い時計塔のある村でバイオリンを弾きたいのです。それ
にある人との約束を守らなければなりません」
「・・・そうか。そこまで言うのなら仕方がない。ときどきここにバイオリン
 を聞かせに来てくれぬか」
「それは喜んで!」
「そうか。礼を言うぞ。帰る前にもう一曲演奏を聴こうか」
 レオーが言うと、アロペクスが指揮棒を大きく構えました。黄金のレオー音
楽隊は新しい楽器でムーシコスの新しい門出を祝い演奏しました。それぞれの
楽器は透き通るような音を出しました。
 ムーシコスも音楽隊の演奏に答えるかのように黄金のバイオリンを弾き始め
ました。でも、綺麗な音が出せても、満足のいく演奏ができません。黄金のバ
イオリンは語りかけても答えてくれません。
『バイオリン君。バイオリン君。どうしたんだい?』
『・・・・』
『違う。このバイオリンは僕のバイオリンではない』
 ムーシコスは曲の途中で演奏をやめてしまいました。
「どうした?バイオリン弾き」
 音楽隊の演奏はレオーの言葉でピタリと止まり、針を落とした音でも騒音に
なりそうです。
「黄金のバイオリンをお返しします。僕のバイオリンを返して下さい」
「なぜだ?余は今のおまえの演奏に満足していたぞ」
「ぼくは魔法が欲しいのではありません!僕は僕だけのバイオリンで演奏した
いのです」
「・・・人間とは理解しがたい存在だ。それだけに興味深い。
  よかろう。客人のお帰りだ」
 レオーの言葉を最後に黄金のバイオリンは輝かしい光を失い、クニークルス
が持ってきてくれた元のバイオリンに戻りました。
 ムーシコスの目の前が暗くなり気が付くと自分の家の前に立っていました。
ムーシコスは自分の手に自分のバイオリンがあることを確かめてほっとしまし
た。
 目の前にはヒュースの鼻息で壊れる前の家があります。空を見上げると、白
い時計塔の上に月がありました。
 夢だったのでしょうか?いいえ違います。ムーシコスはクニークルスに会う
前の時間でも、クニークルスのことを知っているのですから。
 ほら、ムーシコスがポストの中身を覗いていますよ。

 さて、このお話はここでおしまいです。白い時計塔の銀色の鐘の音は聞こえ
ましたか?
 え?それよりもこの後ムーシコスはどうなったかですって?それはあなたが
よく知っているはずですよ。あなたはお話が始まってからずっとムーシコスと
一緒にいたんですからね。
1996/7/8 呟き尾形 作
「★★★ムーシコスとクニークルスの座談会」 「お、おわったー(☆o☆)キラキラ」  (ToT)かんどーだ。 「そんなに感動したのクニークルス君」  だって、物語が終わったんだよ。 「ってことは、僕の物語はどうでも良かったって事?」  そんな事は言ってないよ。僕も登場したシーンは特に良かったよ。 「・・・/(-_-)\ 」  まぁ、なんにしても、楽しめたよ。シニョールムーシコスの成長 ぶりは、第一話から考えれば飛躍的だったしね。  ムーシコスのバイオリンに銀のバイオリン、そして金のバイオリン どのバイオリンもシニョールムーシコスの良さは出てたけれども、 やっぱり、神聖なる銀や豪華な金による魔法のようなバイオリンより もよりシニョールムーシコスの良さを引き出したのは、ムーシコスの バイオリンだったよね。  それは当然、僕がわざわざ届けてあげたからだけどね。 「・・・最後の一言はともかく、確かに銀のバイオリンも金のバイオ リンも僕の声には応えてくれなかったよ。  自分に一番あったものって、見た目じゃ分からないんだね」  まぁ、呟き尾形曰く、何でもできると言う若者の可能性という魔法 は、いづれ消えうせるし、お金による虚栄虚飾もいづれなくなる。  結局最後に残るのは、外や自分以外人から与えられた「自分らしさ」 じゃなくて、最初から持っている「自分らしさ」であり、それが最も 価値があるものだそうだ。 「ふ〜ん、だから、僕はレオーの前で”ぼくは魔法が欲しいのではあり ません!僕は僕だけのバイオリンで演奏したいのです”なんていえたん だね」  その通り、君は過去に同じような言葉を言ったけれど、それは全く意 味合いが違うものなんだ。同じ言葉でも言う人の意思によって意味は変 わるものなんだ。 「さて、お楽しみいただけたでしょうか?  現在、白い時計搭のある村では、小説の投稿をお待ちしております。  とりあえず、テーマは近代SF。  また、投稿しやすいようにテーマを決めているので、テーマがやりに くいときはテーマにこだわらなくても大丈夫だよ」  投稿の詳細は http://homepage2.nifty.com/SON/hp1_8.htm  をクリックしてね。それでも分からないときは ZAN01231@nifty.ne.jp  まで、メールで問い合わせしてください」  バックナンバーは http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000057735  を見てくれたまえ。  それじゃ、アリベデルチ
 
  おつかれさまでした。ついにムーシコスのバイオリン最終回を迎えてしまいました。
  で、最終的な感想を聞きたいのでよろしくお願いします。
  毎回あった、ムーシコスとクニークルスの座談会コーナーも設ける予定ですので、こちらもご利用くださ
い。って、勝手に設けましたが(⌒o⌒)
  10回という長い童話を読んでいただきまことにありがとうございました!
  むちゃくちゃ感謝です!
  願わくば、登場人物(?)達になにか言葉をかけていただけると幸いです
  でわ!

 

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