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ナイチンゲールの恋(1/3)




















 こんにちわ。
 そうそう。今日はちょうど昼と夜の時間が同じ日ですね。春になるとたくさんの
小鳥の声が聞こえて来るんですけど気が付いていますか?
 その中で、ナイチンゲールという小鳥がいます。ちょっと暗くなった帰り道で耳
を澄ましてみてください。きっと聞こえてくるはずですよ。小鳥のナイチンゲール
の綺麗なさえずりが・・・。
 むかしむかしのさらにむかし。白い時計塔のある村のはるか西にある国に、男の
人が好きな女の人に結婚を申し込むときに、赤いバラを送るならわしがありました。
 でも、この国には白いバラしかありませんでした。この国のバラはすべて、白鳥
の羽のように白いバラばかりだったのです。
 もともとお城のバラ園のバラは燃えるような赤いバラばかりでしたが、王子様の
結婚式に、暗い緑色の森に住む魔女を招待しなかったばかりに、魔女の魔法で、国
中の赤いバラをすべて白いバラにしてしまいました。
 そこで、王様は赤いバラを持ってきた者は、国で一番美しい末娘のロサと結婚で
きる。と、おふれを出しました。そのおふれは国中を駆けめぐりました。
 赤いバラを探す若者。
 白いバラを赤く染めようとする若者。
 魔女の呪いを解く為に、魔女退治に旅に出る若者。
 などと、様々な手段で赤いバラをロサ姫に送ろうとしました。
 赤いバラを探す若者は、赤いバラを見つけることができません。
 バラを赤く染めようとした若者は、バラを赤く染めても、枯れてしまいます。
 魔女退治に旅に出た若者は帰っていません。
 そして、誰も結婚することなく1年がすぎました。お城のバラ園のバラも白いま
までしたが、その美しさは赤いバラ園に劣るものではありませんでした。誰も見向
きもしない白いバラ園が荒れることなく、美しさを保っていたのは、バラ園の管理
人の金髪の少年パッセルが、毎日手入れを忘れなかったからです。
 金髪の巻き毛の少年パッセルは、バラがとても好きでした。ですからパッセルは、
バラのことなら何でも知っています。バラはちょっと気に入らないことがあると、
すぐにへそを曲げてしまいますが、それはバラが寂しがり屋だからということも知
っています。
 ある日、パッセルはバラ園の茨の中に飛び込んでしまって、体にバラのトゲが刺
さった小鳥を見つけました。その小鳥はナイチンゲールという名前の小鳥で、春に
なると綺麗な歌声で春の訪れを知らせるのでした。
「かわいそうに。だいじょうぶかい?」
「チッチチチッチ」小鳥の鳴き声は、痛々しくて聞いてられません。
「ちょっと我慢しな」
 そうパッセルが言うと、バラのトゲを抜いて上げて、優しく手当しました。
「ここでちょっと休んでいな。いま飛べても途中で落ちてしまうかも知れないから
ね」
 小鳥はじっとパッセルを見て首を傾げました。パッセルは仕事を始めました。
 パッセルの仕事はまずバラの枯れ葉を探して取って上げてから、バラの葉を食べ
てしまう悪い虫を、バラから取ってから、ちょっとだけ虫を残します。今は悪い虫
でも、もうすぐすると、蝶になってバラの花粉を運んでくれるからです。
 蜂でもいいのですが、たまに王様やお姫さまがバラ園に遊びに来るので、蜂がい
ると、王様やお姫さまがびっくりするので、パッセルはバラ園に蜂の巣を作らない
ように見張っています。
 仕事が終わると、パッセルは怪我をした小鳥のところに急ぎました。小鳥はじっ
とパッセルを見つめてから、空に飛び立ちました。小鳥は手当のお礼にかわいい歌
声パッセルに贈って、何回かパッセルの頭の上を回ってから森の方に飛んでいきま
した。
『ああ、なんて優しい人なんでしょう!明日も会えるかしら?』
 小鳥は目を輝かせて、そう言いました。
 次の日のバラ園は雨でした。雨の中、小鳥はバラ園にやって来ました。小さくて、
かよわい小鳥にとって、命がけの大冒険でしたが、何とかバラ園の近くの木に雨宿
りすることにしました。春とはいえ、雨に濡れてしまうと寒くてたまりません。小
鳥は体をふるわせています。もうそこに立っているだけでやっとでした。
 それからちょっと遅れてから、パッセルがバラ園にやってきました。パッセルは
ふるえる今にも死にそうな小鳥を見つけました。
「ああ、昨日の小鳥さん。帰れなかったのかい?ごめんよ。ああ、こんなに濡れて
・・・・僕が家まで連れ帰っていれば良かったね。本当にごめんよ。」
 パッセルは小鳥が寒さで死んでしまわないように、優しく小鳥を懐に入れてから
仕事をし始めました。
『あ、あの、昨日はどうもありがとう』
「・・・・」
 小鳥がお礼を言ってもパッセルは黙々と仕事をしています。パッセルには小鳥の
言葉が分からないのです。
『あ、あの、今日も助けてくれてありがとう。』
「・・・・」
『あ、あの、あなたの名前はなんて言うの?』
「・・・・」
『あ、あの、あなたの役に立ちたいの。』
「・・・・」
『あ、あの、あなたと一緒に歌いたいの。だめかしら?』
「・・・・」
『あ、あの、・・・だめよね。わたしあなたの仕事の邪魔しているのよね。』
「・・・よし。終わった。ちょっとひと休みするか。
 おや?小鳥さん。元気になったかい?」
『ええ!』
「うん。朝よりは元気がいいね。僕は君たちの歌声がとても好きなんだ。」
『ほんとう?』
「そう、ボクはそんな元気のいい声が好きさ。」
『じゃぁ、歌うわ。あなたのために』
「おいおい、さっきまで死にそうだったんだからね。無理しちゃいけないよ」
『だって、私はあなたが好きだもの。』
「よし、そんなに元気があるならもう飛べるね。ほら、雨もやんだし、日が雲の間か
ら顔を見せているよ。」
 そうパッセルが言うと懐から小鳥を出して手の甲に小鳥を乗せました。小鳥は飛ぼ
うとはしません。
「甘えん坊だな。そんなことじゃ、森に帰っても生きていけないぞ!」
『いいの!あなたと一緒にいられれば!ねぇ私の言っていること分かっているの?』
「・・・仕方が無いな。そろそろ仕事に戻らないといけないんだ。飛びたくなったら、
飛んでくれよ」
 パッセルは小鳥を肩に乗せて仕事に戻りました。小鳥はまたパッセルに話しかけま
したが、パッセルには何も伝わりませんでした。そうして長い一日が終わり、夕日が
空を赤く染めて一番星が輝く頃、小鳥は森に飛んでいきました。
 そんな日が何日か続いたある日、パッセルはひと休みしているときに小鳥に話しか
けました。
「小鳥さん。小鳥さん。何で僕の肩に乗って歌うんだい?」
『それはあなたが好きだからよ 』でも小鳥の言葉はパッセルには届きません
「・・・僕は、君の歌声が毎日聞けて嬉しいけど、どうして君がここにいるのか分か
らないんだ。」
『だからさっきから言ってるじゃない!』
「あのね、小鳥さん。僕はこんなこと誰にも言えないんだけど、僕には好きな人がい
るんだ。」
『え?』
「それはね・・・ロサ姫なんだ。たまにこのバラ園にやってきて、僕にいつも綺麗な
バラをありがとうと言ってくれるんだ。わかるかい?卑しい身分の僕に声をかけてく
れるんだ。ああ!ロサ姫。あのお姫さまはなんてお綺麗でおやさしいお姫様なのだろ
う!」
『・・・そうよね。あなたも好きな人が一人や二人いてもおかしくないわよね』
「それでね小鳥さん。赤いバラをロサ姫様に贈れば、僕はロサ姫様と結婚できるんだ!
 うそじゃないよ。だから僕はここのバラ園を仕事しながら赤いバラを探していたけ
ど、やっぱり無いんだ。当たり前だよね。そんなに簡単に見つかっていたら、僕より
もっと立派な人がお姫さまと結婚してるよね。」
『いいえ!あなたより立派な人なんていないわ!』
「慰めてくれるのかい?・・・まさかね。小鳥が僕の言葉を分かるわけないもんね。
でも・・・ねぇ小鳥さん。もし、もしだよ。僕の言葉が分かって、僕のお願いを聞い
てくれるなら、赤いバラを持ってきてくれないかな?何言っているんだろうね。
 さぁ!仕事仕事!」
 パッセルがそう言うと小鳥はパッセルの肩から飛び立ち、魔女のいる森に向かって
飛んでいきました。
『わ、私、森の魔女さんに聞いてみてくる!もしかしたら赤いバラ持ってきて上げら
れるから!』
「どうしたんだい?小鳥さん。どこに行くんだい?小鳥さん!」
 パッセルは小鳥に向かって言いましたが、小鳥は遠くの方まで飛んでいきました。
小鳥はどんどん小さくなって見えなくなりました。
 パッセルはしばらく小鳥の方を見ていましたが、仕事を始めました。パッセルは、
なんだか小鳥がいなくて、ちょっと寂しく感じました。まるで胸のどこかに針くらい
の穴があいたようでした。

 



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