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ナイチンゲールの恋(3/3)






 白いバラ園から小鳥がいなくなってから春が終わり、夏が過ぎ、秋が訪れ、冬が顔
を出し、だんだん寒くなってきました。バラの花は寒くなってきてから元気がなくな
ってきました。パッセルはなぜか、心の中に何かぽっかり穴があいたような感じで、
仕事をしていても間違って手にトゲで傷を付けてしまったり、間違って花を折ってし
まったり、仕事が手につきません。
「・・・痛い!」
 また、とげを刺したようです。するとナイチンゲールの声が聞こえてきます。
「あの歌声は!」
 パッセルは歌声のする方向を見ました。小鳥の姿が見えました。小鳥とパッセルの
距離はどんどん短くなっていきます。
「ああ!小鳥さん!帰ってきてくれたのかい?君がいなくてさみしかったよ!」
『私もよ』
 パッセルは小鳥の言ったことが聞こえたように感じました。
「なんていったんだい?小鳥さん!僕は小鳥さんが言葉が聞こえたよ!」
『私の言葉が分かるの?』
「ああ、不思議な気分だ!小鳥と話せるなんて!」
 そうパッセルが叫ぶと、目の前が一瞬暗くなりました。黒い禿ワシが小鳥のナイチ
ンゲールを目にも止まらない速さで捕まえたのです。
『ああ!ワシさん!ワシさん!おねがいです!助けて下さい!やっとパッセルさんと
話せるようになったんです!やっと私の願いが叶ったのです!そしてパッセルさんの
役に立てるのです!もう少しで、そう、もう少しで!おねがいです!もう少しで願い
が叶う目の前で、それを諦めるなんて、ワシさん!ワシさん!離して下さい。おねが
いです!一生のおねがいです!
 ・・・た、す、け、て・・・』
 小鳥の言葉など聞こえないように、禿ワシは、何回かバラ園の周りを回っていまし
た。そのとき、ナイチンゲールの体から一滴の赤い血がバラ園に落ちました。それは、
パッセルの目の前のバラに落ち、白いバラは真赤に染まりました。すると、紙に火の
粉が落ち、火が広がるように、赤い色がバラ園の白バラという白バラを赤く染めたの
です。
「ああ!小鳥さん!」
 パッセルは小鳥の血が落ちた一輪のバラの花が小鳥であるように、バラを優しく抱
くしぐさをしました。バラはバラでしかない。そんなことは知っているのですが、そ
のバラだけがパッセルと小鳥をつなぐ大切なものだったのです。
 パッセルは、そこですすり泣き、一滴の涙がバラに落ちました。バラは真赤にに染
まっていましたが、パッセルの涙で、そのバラはパッセルの髪と同じ黄金の色を放ち
ました。
 禿ワシは、魔女のいる暗い緑色の森の方へ飛んでいきました。
 禿ワシは、ナイチンゲールを魔女に届けました。
「ヒッッヒッヒッヒ〜、待ち遠しかったよ〜、さて、さっそく恋するナイチンゲール
の心臓を入れようか」
 魔女は、ナイチンゲールの心臓をくり貫き、煮えたぎった黒い鍋の中にいれかき混
ぜました。
「さて、味見でもしようなかね・・・。」
 魔女は鍋の中身を小皿に入れて味見をしました。すると魔女は小皿を落として禿ワ
シを叩きました。
「キーッ。この無能な禿ワシめ!恋するナイチンゲールの綺麗な魂をどこに落として
きた!畜生め!おまえなんて消えてしまえ!」
 禿ワシは魔女の影が消えるように消えてしまい、魔女はハッとしました。
「まってくれ!今のは間違いさ!『きえろ』なんて間違いだよ!ちょっとした間違い
じゃないか!だいたいわしがそんな間違いをするわけないよ!ね!そうだろ!だって
こんなに長い間魔女をしていたんだからさ!忘れていなかった証拠だよ!そうだろ!
うわぁ、く、苦しい!たのむよ!消えるなんて、消えるなんて、いやだぁ、だいたい
何で禿ワシ程度を消すのにわしが消えなきゃいけないんだい?わしの方がずっとえら
いじゃないか!魔法を使えるじゃないか!たかが使い魔をおっぱらう程度だよ!仕事
もろくにできない使い魔へのお仕置きじゃないかい?な、そうだろ!
 た・す・け・て・・・」
 魔女は、禿ワシと同じように消えてしまい、そこには魔女の姿形が無くなり、煮え
たぎった鍋だけが残りました。
「・・・おや、おや、結局何も分かっていなかったんですね。」
 黒いスーツを着た細い目のキツネが魔女のいた部屋に入ってきて、嫌味のこしょう
をきかせて呟きました。
「・・・そこにあるものの重要性を知らないで魔法を使うことは、自分そのものを危
険にする。・・・そう教えたはずです。
 特に【そこにあるもの】を消す魔法は使ってはいけないと言ったのに・・・。人間
とは後先を考えないで魔法を使う存在ですね。さて、後始末でもしましょうか。
 ナイチンゲールさん。私はあなたに同情しませんが、あなたの願いをかなえて上げ
ますよ。あなたとパッセルとか言う人間と永遠に一緒にいれる。
 人間が言う結婚。
 それがあなたの願いでしたね?」
 そうキツネが言うと、金色の光がナイチンゲールの体を包みました。そしてその光
は、矢のように、お城のバラ園めがけて飛んでいきました。
「パッセル!パッセル!どう言うこと?このバラ園のバラは?この前までは雪のよう
に白かったのに今は暖炉の火のように真赤だわ!」
 バラ園には美しいお姫さまがお供の者をつれてバラ園にやってきたのです。そして
バラの色を見て驚いていました。
「ああ、お姫さま。今日で魔女の呪いも解けたようです。」
「なんて素敵なの!」
「そうです。お姫さま。どうかお好きな人と結婚して下さいませ」
「パッセル?あなたはわたくしにバラをくれないの?」
「はい。私はこの黄色いバラと暮らします。」
「な、何ですって!わたくしのことが好きではなかったの?」
「はい。好きでした。でも、今はもっと好きな女性ができたのです。」
「それは誰?」
「このバラを赤く染めた女性で、この黄色いバラです。」
「まぁ!なんて綺麗なの!パッセル。あなたの金色の髪のような色だわ。パッセル!こ
の黄金色のバラをわたくしに取ってくれない?」
「・・・だめです」
「んまぁ、わたくしの言うことが聞けないの!なんて侮辱なの!おまえ達!この者を捕
まえて牢に閉じこめてしまいなさい!」
 お供の者は、ロサ姫の命令通りパッセルを捕まえようとしました。ちょうどそのとき、
ナイチンゲールを包んだ光が、パッセルを包みました。
「ああ、小鳥さん!生きていたんだね。」
『ええ、パッセルさん。行きましょう』
「どこへ?」
『どこでも良いじゃない』
『そうだね。小鳥さん。君と一緒ならどこでも良いよ』
 小鳥と金髪の少年は、一つの黄金の光となり、無数にある星の一つになりました。そし
てその星は、お城のバラ園をずっと見守っているそうです。
 さて、話はここまでです。
 帰りにでも、夜空を見上げてごらんなさい。無数の星の中の一つがナイチンゲールと
パッセルの星です。言い伝えでは、力のない恋人達が逃げ込む場所は決まっているそう
ですよ。篭の中に集まる蛍のように輝く星の集まりがあります。その星達の中にナイチ
ゲールとパッセルが住む星があると言われています。ですが私は思いますよ。あなたが
一番綺麗に見える星がパッセル達の住む星だろうなって・・・。
                                                            1997/7/28
  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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