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●無敵のリュージ
 リュージとバナードは、非番ということもあり、夜の町を歩いていた。
一人で歩いて、一夜の恋を楽しむのも悪くないが、そればかりではあ
きてしまう。というのが、リュージの考えである。それに、個性派のホ
ワイトフェザー隊のMSパイロット達の中で、バナードとはどことなく相
性が良かった。
シンはライバルであるし、なんとなく近くにいるだけでイライラしてくる。
模擬戦のときにビームサーベルをあわせたときの感覚が未だに忘れ
られない。
ケイス、カインは堅物で気軽に呑みに行くのには不適切。
ルースもリュージからみればドンくさい新米パイロットである。酒の飲み
方すら知らなさそうだ。ジャネットを誘うのも悪くは無かったが、好みの
女性がいるとき言い訳に面倒である。ジュゼッペは年齢が行き過ぎて
いる。
ダムスはどうも気が愛想も無い。となると、バナードしかいないと言う状
況だったのだ
実際、リュージは自分の選択が正しかったことを確信した。バナードは
話が聞き上手で、好感が持てる。趣味が合わないというのに、これだけ
話ができる人間は少ないだろう。
そんな訳で、リュージとバナードは酒場を見つけ、酒場のカウンターで
酒を飲んでいた。
「まぁ、そんな訳で、アリシアに惚れられてしまったわけだ」
「へぇ、リュージはやるなぁ」
「おいおい、バナード。おまえにだって、好きな女ぐらいいるんだろ?」
 バナードは顔を赤らめる。
「ははぁん、案外、ホワイトフェザー隊にいるかもな。誰だ? ジャネッ
トか? いや、確かメカニックにも女はいたな。あとはオペレータか。ま
さか、あのツンケンしたエリザじゃないだろうな?」
 リュージは急に自分が名探偵になったかのように推理をはじめた。
「だれでもいいだろ。なぁ、リュージ」
「はは、悪かった。誰だったいいよな。だがな、積極的にアプローチしな
いと、ダメだぞ。自分がダメだなんて思っちゃダメだ。
女は男に求めているのは、強引さやさしさだ。反対の要素だが、その使
い分けは冷静な判断力だ。女を口説くのはMSを操縦するのと同じで、
冷静な判断力がないとダメだ」
「なるほど」
「そう、言ってしまえば女はMSだ。女は自分を操縦するパイロットになる
男を捜しているって言っても言いすぎじゃないだろうな」
「面白い主張だな。後学のためにも是非聞かせてもらいたいな」
「ア、アベル中尉。なんでこんなところに」
「いや、大尉にさそわれてな」カインは視線でバナードとリュージのいない
ホワイトフェザー隊のMSパイロット達がいる席を示した。
 リュージとバナードがその席を見ると、ジャネットが大きくてを振る。シン、
ジュゼッペ、ルースは既に酔っているようで、顔を赤らめてフラフラの様子
だ。ダムスは関心がないようにグラスを傾けウィスキーを飲んでいた。
最後にケイスと目が合う。
「おい、リュージ、ラグナ。俺のおごりだ。飲めよ」
 バナードはうれしそうに頭を下げるが、リュージは肩をすくめながら軽く
会釈した。二人はカウンターからケイス達のいる席へ行く。
「で、女は男に何を求めるって?」
 そういったのは、女性のジャネット。ジャネットはリュージを見ながら意地
悪そうに笑っている。
「そりゃぁ、やさしさだよ。うん」
 頬を赤らめたがシンが口を出す。
「へぇ、これは貴重な意見だね」
 ジャネットが意外な意見にジャネットは目を丸くする。
「どうかな。やさしいだけでは、女性は満足しないらしいぞ」とカイン。
 みながみな、いっせいに耳を疑った。カインがこの手の会話に入ってこ
ないだろうと決め付けていたためだ。
「じゃぁ、女性は男性に何を求めているんでしょう?」とルース。
「何にも求めちゃいねぇよ」
 ケイスが空のグラスをテーブルに置いていった。
「ケイスらしい意見じゃの。それとも深酒で古傷が痛み出したか」
ジュゼッペはケイスをからかうように笑う。
「ふん、俺は帰る。支払は済ませておく。飲みすぎるなよ」
 ケイスが席を立つと、ジュゼッペも立ち上がった。
「おっと、わしもそろそろ出よう」
 そうして、ケイスとジュゼッペが席をはずし、宴は続く。
 リュージは彼らを誤解していたことに気が付く。
ケイスは見かけ以上に、部下のことを気遣い早めに席を立っている。上司の
いるときの酒ほどまずいものは無いことを知っているだろう。ジュゼッペもま
た、同じような理由だろう。
カインは堅物ではあるが、理屈っぽいだけで案外話せることが分かった。
ルースもリュージからみればドンくさい新米パイロットだが、足手まといとい
う感覚から、酒を飲んでも熱心な態度は、うっとうしくはあるものの、かわい
い後輩に見えてくる。
ジャネットを誘わなかったのはもともと、好みの女性と出会えたときに困る
からであって、こうなってしまえば一夜のロマンスなど論外である。
ダムスは酒を飲んでも愛想が悪いのだが、会話の邪魔をしないし、いつも
は話すら聞かないくせに、耳を傾けていることはその反応で分かる。
リュージはホワイトフェザー隊も悪くない。と思い始めていた。

そんな、気持ちの良い会話に水が指された。
「リュージ、リュージじゃないか!」
「?」
「俺だよ、ティターンズの時いっしょだった、ダービーだよ」
「ああ、ダービー狂か」
 リュージは気の無い返事で応えた。ダービー狂とは、もともと名前がそうであっ
たことと、大のギャンブル好きで手癖が悪かったことから由来している。パイロッ
トの腕は悪くは無いが、狡猾で執念深い性格だったせいで、ダービー狂とののし
られていたのである。
「オレはいま、ある組織に入っている。ティターンズの時のように、暴れまわろう
ぜ」
 ダービーはリュージの肩に手を置く。リュージはすばやくダービーの手を払う。
「気安く触るな」
「な、何様のつもり・・・」
 ダービーは顔を真っ赤にして、怒鳴りながらリュージに殴りかかるが、言い
終える前に、リュージのカウンターが入る。そして、リュージは親指で自分を
指し。白い歯を見せながら笑う。
「俺は無敵のリュージ様だ」
「野郎!」
 酒場にいた男が一人立ち上がると、他の男達がいっせいに立ち上がる。
「おもしれぇ。やったろうじゃん」
「おい、リュージ」
 バナードはリュージを止める。

 バーン。
リュージがバナードの静止を振り切り、しっかり、ダービー狂を数発殴った後
に酒場に銃声が獣の咆哮のように鳴り響き、銃声のエコーが終わる頃には
沈黙を呼び寄せた。
 銃を撃ったのは、カイン・アベル。銃口は天井を向いているが、天井には
穴があいていない。
「ドラゴン、ブラック、ブレードは全員退避!」
 カインの凛とした声が、静まっていた酒場を激走した。
 酒場の男たちは意味不明の言葉に唖然としており、意味を理解した、ホワ
イトフェザー隊、MSパイロット達はいっせいに酒場から走り去った。
「中尉、案外やるじゃないか。酒場で銃を撃つなんてもっと堅物だと思ってい
たよ」
 リュージはいっしょに走って逃げるカインに向かってウィンクする。
「銃は空砲だ。あそこで、暴力事件を起こすよりましだと判断しただけだ。気
になるのはあの酒場の料金だが、大尉が前払いしている分でつりが来るだ
ろう。後はあの店が大尉の行きつけの店ではないことを祈るだけだな。
とりあえず、二手に分かれるぞ」
「了解」
 リュージはニコニコしながらカインに敬礼した。

 リュージとバナードは、人通りの少ない路地裏に紛れ込んだ。そして、路地を
でたらめに走り回り、追っ手を煙に巻いたのを確認してから近くの公園まで逃
げてきた。
「はぁはぁ、ここまでくれば大丈夫だろう。」
 リュージは荒い呼吸を整えながら、乱れた髪を整える。
「ああ」
 バナードの呼吸も荒いがリュージほどではない。
「バナード、あそこに座って休もうぜ」
 リュージは噴水の近くにあるベンチを指す。バナードは頷く動作で同意した。
「ああ、しかし、面白かったな。やつらの顔を5,6発は殴ってやったぜ。おかげ
で拳が痛くてたまんねぇや」
「リュージ、チョット手を貸せ」
 バナードはリュージの手を取り、異常が無いかチェックするようにリュージの
手を診る。
「いてて、な、なんだよ」
「リュージ、おまえはパイロットなんだ。手の感覚が鈍くなったら、命を落としか
ねないぞ。
まぁ、とりあえず、特に骨が折れているとかは無いようだな。
だが、なんだ。女性をMSといっしょにするのはどうかと思うんだが・・・」
「なぁ、バナード。俺はうまくいえないけど、MSは飛びっきりイイ女だと思わな
いか? 思い通りに動いてくれそうで、案外気まぐれだ。言うことを聞いてくれた
ときは抱きついてキスしたくなるくらいかわいらしい・・・」
 バナードは、さわやかな笑顔でそういってのけるリュージを誤解していたことに
気がつく。
「すまん」
「なに謝っているんだ」
 リュージがきょとんとしていると、バナードはリュージの手を握った。
「いてて・・・おい、そっちの手は殴ったほうの拳だ」
「だ、大丈夫か?」
「へん。俺は無敵のリュージ様だぜ」
 リュージはやせ我慢しつつ、不敵な笑みをバナードに見せた。


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