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●舞台裏
 舞台は月から地球。
 ジョージ・ケネディ。平和主義者の理想家議員。武力争い事の無い社会を理
想社会と唱え、多くのスペースノイドの民衆は彼の理念に賛同している。反面、
地球連邦政府の軍事力を背景に、支配階級的意識の強いアースノイドは、宇
宙世紀始まって以来の夢想家とののしっている。
 軍人時代の同期であるケイス・ウィンターホース大尉は彼のことをションベン
もらしのケネディーとののしっている。
 とはいえ、ケネディの武力無き平和という理念を否定する人間はいない。そ
れが現実にできるか否かが彼の支持に対する評価が決まっているだけに過
ぎない。
 ケネディはそれを自覚しており、行動無き主張と主張無き行動は社会に認
められることは少ないことも知っている。それゆえに、ケネディは危険な橋をわ
たる。
 情報収集能力に優れた優秀な秘書、アリエスは、ネオ・ジオンが自滅した今、
もっとも危険な存在は、ネオ・ジオン復活をもくろむスイートウォーターを本拠と
するシャア・アズナブルと、ダグラス・ベーダーという軍人であると指摘した。
 ケネディは、難民収容センターとしか機能しないようなスイートウォーターを占
拠したジオンの亡霊に取り付かれたシャアよりも、戦役を戦い抜いた生粋の連
邦の軍人、ダグラス・ベーダーを警戒する方が合理的だと考えた。ダグラス・ベ
ーダーの自宅に訪問した。
「で、わしに何をしろと?」
 白髪で白い髭を蓄えた老人は、年齢を感じさせぬはっきりした口調でケネデ
ィに問う。
「貴方が確立しつつある、組織を解散していただきたいのです。連邦政府は、失
業者対策の為に、ありもしない、コロニーの反乱分子対策のためと、軍事費削
減を拒み、ロンド・ベルという軍事組織に力を持たせるまでに至りました。
 敵無き軍備になんの意味があるでしょう?」
「敵がいないのであれば、その通りだな。なるほど。うわさ以上の楽天家だな。
 敵はいる。赤い彗星がスイートウォーターを占拠したではないか」
「あんな、戦略的にも政略的にも意味の無いところに本拠地をおいても、意味は
無いでしょう」
 ケネディは鼻でシャアのことを笑った。ケネディにとって、シャアとはパイロット
としては評価できても、政治家としては評価できなかった。その証拠に、1年戦
争の時は1パイロットとしてしか活躍できず、グリプス戦役では、反地球主義の
エゥーゴに加勢したのは、連邦の力をそぎたかったに違いない。だが、結局、
シャアは自ら戦場に出て、撃破されスイートウォーターに落ち延びた。少なくと
もケネディの中のシャア・アズナブル像は血の気の多い野心家にしか写ってい
ないし、連邦政府の指導者たちも似たような認識だった。
「たしかに・・・戦略的には意味が無いな」
 ダグラスは鋭い眼光で目の前の若造を威圧し、ケネディは背中に冷たい汗を
感じた。ダルラスは満足げにケネディと嘲笑した後、言葉を続ける。
「しかし、あそこで力を蓄えるための一時的な本拠だとしたらどうだ?
 ジオンの残党は山ほどいるし、スペースノイドは、ジオンよりの人間が多いぞ。
家柄、知名度。申し分ない」
 ケネディは、ダグラスの指摘に反論できなかった。ダグラスはさらに続ける。
「赤い彗星が指導者として、存在している。それだけで政略的には十分意味が
ある。そして、機が来れば、赤い彗星はあっさり本拠を別の地に移すだろう。お
まえさんの言う戦略的に意味のある場所に本拠を移してな」
「なるほど。それで、貴方の私兵を地球に移すわけですね。
 貴方の言いようはスペースノイドがすべて敵のようですね。貴方のやっている
ことはグリプス戦役の再現でしかない!」
 ケネディは語るに落ちたといわんばかりにダグラスを一括した。だが、ダグラ
スは動じる様子も無く、静かにケネディを哀れむように見上げる。
「・・・東洋のエージェントの他に、腕の良い手駒を持っているようだな。過ぎたる
手駒は自滅の元だぞ」
「やはり、ホンロンは・・・」
「警告しよう。命が惜しければ、これ以上詮索しないことだ。腕の良いエージェン
トが減るどころか、未来ある政治家まで命を落としかねない」
 ダグラスは銃を取り出し、ケネディに向けそういった。ケネディはその一瞬で顔
が真っ青になり両手を上げた。
「いい子だ。もうすぐ、幕は上がる。家に帰ってテレビにかじりついていてくれ」

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