●白銀を染める紅
その頃、ブラック小隊はNZのスツーカの部隊と奮戦していた。
ジュゼッペは熟練した腕で確実に小型MSであるスツーカを落として行く。
「ふん、さすがにこの数、骨が折れるわい。大尉はまだゲイツと遊んでいる
のか?」
ジュゼッペは苛立たしげにはき捨てる。
ケイスとゲイツは氷原の上で格闘戦を繰り広げていた。
お互いの持つビームサーベルは徐々に弱まり、燃料のきれたランプのよ
うに消えてゆく。
「ふん、ここまで互角の腕だと洒落にもならんな」
ゲイツがつぶやく。
「そうでもないさ。MSの性能を考えれば俺の方が腕が上だ」
「その減らず口たたけなくしてやろうか・・・」
「・・・いつに無く饒舌だな。時間稼ぎと言うところだな」
「さすがだな。そのとおりだ。
どうやら、今回は俺の負けだ」
「まて! 決着はついていないぞ!」
「決着はこの次だよ。俺はもう、おまえのように個人の勝負だけにこだわれる
身分じゃないんだよ。
あばよ、ケイス。また戦場で会おう!」
ゲイツの乗るMSはそのまま飛び去った。
バナードとガザWは空中戦を演じていた。
ガザWは高速で、なかなか照準が合わない。バナードは回避に専念してい
た。
攻撃無き戦闘は勝利など得られない。そんなことはバナードは知ってる。
バナードのねらいは一つだけだった。
そのチャンスが今、到来してきた。
障害物が少ない氷原で、かつ凍っていない大地が見える。そして、ガザW
が攻撃を仕掛けてきた。
バナードはぎりぎりまでビームを回避せず、あたかも命中したかのように急
降下した。
ガザWのパイロットも手応えを感じたらしく、これまでの鋭い動きに緩やか
さが感じられる。
バナードは大地に激突するスレスレのところでMS形態に変形し、バックウ
エポンシステムのバーニアを最大出力で逆噴射させブレーキをかける。
急降下した加速、落ちようとする力に対して、逆噴射によりブレーキをかけ
れば、何かに衝突したような強い衝撃が襲い掛かってくる。その衝撃により、
ZAIRはコンマ数秒だけ制止する。
バナードのねらいは、これだった。
ZAIRは振り返りざまにビームキャノンを3発連射ガザWに対して発射する。
ガザWのパイロットはZAIRの撃墜を確信していただけにバナードの攻撃に
対して回避行動に遅れが出た。
1撃目は大きくそれたが、2撃目がブースターをかすめ、よろめいたところ
に、3撃目が直撃貫通した。
バナードは地面を滑りながらガザWの撃破を確認した。
ブリザードも収まり、日光が空気中の水分を凍らせ、ダイヤモンドダストを照
らしはじめる。
対峙する紅いZAIRとジャジャX。
「俺様をここまでてこずらせるなんてやるじゃないか。名前だけでも聞いてやるぜ」
「アルベルト・・・おまえの名は?」
「リュージ・サワムラ」
両MSは格闘戦を重視されて設計されている。
だが、連邦軍、アナハイム社とネオジオンはそもそも設計時のコンセプトが同
じでも、その偏りかたがことなる。
アナハイム社はなにを重視するにしても、性能のバランスを崩さない程度に
設計する。
アナハイム社にとってMSは商品であり、誰もが操縦できる、くせのないことが
必須条件であるからだ。
それに対して、ジオンはMSの特化した能力を引き伸ばす為ならば、他の性能
の劣化はやむなしとばかりに、コンセプトとなる能力を引き出そうとする。これは
MSを兵器であり、パイロットの能力に合わせたオーダーメイド的な考え方があ
るからである。
MSを発明したジオン公国の流れを組むからこそ、持つ拘りなのだろう。
それゆえに、ZAIRとジャジャXの格闘戦は、アルベルトに有利なはずであった。
だが、今のところ、勝負は互角で一進一退の攻防戦だ。
ZAIRがビームサーベルを振り下ろせば、ジャジャXが受け流しつつ、攻撃に転
じる。
それをZAIRが回避して、再びビームサーベルで攻撃する。
お互い致命的なダメージは無いものの、若干ZAIRが押されぎみである。
再び、攻防に入ろうとしたとき、ZAIRは両手でビームサーベルを持ち、頭の上
に構える。
ケンドーという、旧世紀の極東の国で発展した武道で言うところの上段の構え
である。
アルベルトはリュージの大胆な体制に一瞬だけ驚いたが、冷静に見れば攻撃
できるスキが多い。これまでのような攻防はZAIRにはできないということは容易
に見て取れた。
「なにを不合理な体制だ。勝負をあきらめたな」
アルベルトはZAIRの腹部をねらいヒート剣で攻撃する。
ZAIRはその攻撃を待っていたとばかりに、半身になりバックウエポンのバー
ニアをフル出力する。
ZAIRはそのまま飛び上がりジャジャXの頭上で1回転して、ジャジャXの右肩を
切り落とす。
「ば、ばかな」
アルベルトは屈辱に満ちた表情で、勝負の負けを認めざる得なかった。致命的
なダメージではなかったが、これまでの攻防を考えれば、右肩のダメージは大きい。
と、その時、赤い光を放つ発行弾が空を染めた。
「ズサンスキーのやつ、失敗したな。
リュージ・サワムラ。その名前を覚えておこう。
この借りはきっと返す!」
アルベルトはそのまま戦場を去った。
一方、シンのZRFは、凍り付いた山に叩き付けられていた。
(な、なんて強さだ)
山に叩き付けられた衝撃で口を切ったのだろう、シンの口元に赤い血が流れる。
シンはそれをぬぐいながら、白銀の大地に聳え立つ赤い巨人、ブレッダを見上げ
る。
「どうした、シン・イチジョウ。さっきまでの勢いはどこに行った?」
そういいながらブレッダは倒れるZRFの腹部を蹴る。
そして、ブレッダはZRFの首をつかみそのまま片手で持ち上げた。
「強いものが弱いものを支配する。当然のことではないか?
シン・イチジョウ!!!」
ブレッダは、実力の差を見せつけるように、ZRFをそのまま地面に叩きつけた。
「所詮、弱者は強者に支配されることこそが存在価値なのだ。
終わりだ。シン・イチジョウ」
ブレッダのビームライフルがZRFにロックオンされ、トリガーが引かれるその瞬間。
ZRFの目が青く光り、蒼い光がオーラのようにZRFを包み込む。
「違う!
力は大切なものを守るためにあるんだ!!!」
「な、なにが・・・っく」
カイは目の前で起こっている現象に躊躇したが、そのままビームライフルを放つ。
破壊のエネルギーの塊は蒼く光るZRFのオーラにはじかれる。
「な、なに」
戸惑うカイにZRFは蒼い彗星となりブレッダに体当たりする。ブレッダはそのまま吹
き飛ばされ、大地を覆う氷が削られ、氷を待ち散らし山に衝突する。ブレッダが立ち
上がろうとするが、ZRFの飛びげりが浴びせられ、再びブレッダはダウンした。
「馬、馬鹿な。これがさっきと同じパイロット、同じMSだと?
パワー、スピード、動きすべて・・・すべて違う」
今度はカイが口元から赤い血を流す。
なす術も無いブレッダはそのままZRFに片手で持ち上げられ地面に叩きつけられる。
「ぐわ・・・っく、このままやられるわけにはいかん!」
カイは目の前のMSにかなわないと判断し、捨て身の戦法に出た。
「この、カイ・イチジョウ。ただではやられぬよ」
「え? イチジョウ?」コクピットのスピーカーから聞こえる声にシンの手が止まった。
ブレッダはそのままZRFにタックルし、抱きついたまま一瞬だけ短く光る。
ブレッダはZRFを爆音と爆風を撒き散らし、白銀の氷原を紅く染めて自爆した。
爆焔のなかから脱出ポットが飛び出し、ジャジャXがそれを受け止める。
中心にいたZRFはMSの形こそ残していたが、全ての装甲は爆発によって破壊され、
その姿を残していたこと自体が奇跡だった。
大破したZRFはそのまま膝を着き各坐するところに、紅いZAIRが受け止めた。
「大丈夫か! シン」
それはシンが薄れる意識の中、最後に聞こえた言葉だった。