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英雄の為の序曲

 作品紹介

 悲しい現実だが、人はいつか死ぬ。
 同様に、国の栄枯盛衰もまた歴史の必然である。
 世界歴650年10月10日、私が今、プエルギガス年代記を編集する2千年前、人は地を這い、馬に跨り、船の動力は風であった。
 情報も行商人や旅人の噂や吟遊詩人の詩に限られていた。
 人々は今のように悲観主義者も虚無主義者も少なく、未来に対する絶望や、自分に対する混迷すら感じる余裕すらなかった。
 彼らは12の『神』と自称する管理者に与えられた環境にあわせ、与えられた運命がままに生きていくこと以外許されていなかったかも知れない。
 彼らはそれを自覚していたかどうかは今となっては確認できないが、彼らが『神』と呼ぶ管理者を崇拝していたことは確かである。
 そして、『神』は自らのテクノロジーをブラックボックス化し、テクノロジーの一部を、有能な人間に学ばせた。
彼らはそれを『魔法』と呼んだ。
 この『神』による管理は永遠かに思われたが、栄枯盛衰の法則は『神』をも支配していた。
 神のつくりし運命に支配されない者が現れ始めたのである。
 世に言う剣と魔法時代の晩年期。
 運命に支配されない者が築いた千年王国セレジアが歴史の中にまだ産声すら上げていない頃。
 私が国民に大政奉還し、歴史上では、セレジア帝国が滅び、セレジア合衆国が誕生し、帝国の歴史に終止符が打たれた。
 州と呼ばれる都市国家による自治による政治である。
 私は、もう、権力ゲームの駒になるのに嫌気がさしていた。だから、私は帝国の最大の隠し財産である、この地下図書館に引きこもることにしたのだ。
 セレジア帝国の開祖、カーズ・セレジア・エリアスは、大規模な書物の焚書を行ったと歴史に記されている。
 まさに帝国の汚点。として歴史には刻まれているが、開祖はひそかに、その書物を異なる媒体、光の石版に写し、この地下図書館に収め、帝国の財産とした。
 これは、皇帝の継承者のみに受け継がれた財産である。
 ここには、世界の人類の知識と帝国の公式の歴史と、歴代皇帝の生の声である日記がある。
 私はこの膨大な情報を基に、伝記を書くことに一生を費やすことに決めた。
 今よりもずっと非科学的で、技術も未熟で迷信に満ちた時代。そんな時代の事を編集しても無意味に感じている。
 しかし、今はほとんどの人が気づかないでいるが、プエルギガスが滅びかけている。
 そんな時だからこそ、私はこれを書かねばならぬと、私はそう感じている。
 皮肉なものだ。運命から解放された人間が滅びの再び運命を選択するのだから。
 いきなりこのようなことを書いても無意味であろうが、私は無意味であることの中にこそ意味を見いだすことしかできないのだ。いや、意味があるこそ無意味であることを認知できるのだろう。
 もしかすると、私の目の前に再び運命に支配されない者が現れ、プエルギガスが滅びる運命から救ってくれると期待しているのかも知れない。
 それでは始めよう。
 まずは、セレジア帝国の開祖。
 カーズ・セレジア・エリアスの一生から記したいと思う。
 運命により支配されない者達へ捧げる年代記を・・・・。

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