相対ゴブリン １１
| 【ああ、もう、仮面をとるとこれだから嫌よ。 仮面も、ソクラテスの産婆術のおかげで力を失ったみたいだし】 「あなたが哲学ゴブリン？」 カオリさんの口調で、僕と同じ気持なのが良くわかったが、意外だっ たのが、カオリさんにもめぐたんにも相対ゴブリンが見えることだ。 でも、散々相対ゴブリンと呼んでおいてなんだが、小さな彼女に対し て、相対ゴブリンというのは、失礼なように感じてしまうのは差別だろ うか・・・。 【私？ 私はカオリ、あなたの分身】 「でも、ゴブリンって・・・」 【あのね、道端の石ころに名前なんていちいちついていないし、石が自 分でなのるわけないでしょ。 間抜けな顔をしている、哲学的な彼女が、勝手に名前をつけたの】 相対ゴブリンは、僕を指さす。 【で、名前を付けられちゃったからには、その名前になるの。 人間は万物の尺度とはよく言ったものね。 まぁ、それにしても、本当は、カオリ、あなたが、相対主義の暴走 を止めた時に私も消えるはずだったんだけど、なぜかわからないけれ ど私は消えないわね。 なんでかしら？】 相対ゴブ・・・いや小さな彼女が腕組みして頭を悩ませるのはなんと もキュートだった。 それにしても、一件落着・・・・なんだろうか？ 《まー、細かいことは気にしないのだ》 ・・・さっきまで細かいことを質問していたくせに・・・ ともあれ、花屋さんみたいにうまくはいかなかったけれど、カオリさ んから相対ゴブリンを追い払うことはできたわけだ。 問題は・・・小さな彼女の名前だ。 【ニンフがいいわ】 え？ 【何を驚いているのよ。 私を誰だと思っているの？ 哲学よ！ あなたの考えなんてお見通し】 むちゃくちゃだけど、なんかすごい説得力がある。 《ニンフちゃんは、えすぱーなのだ》 【哲学よ、テ・ツ・ガ・ク！ そうそう、カオリ。 私の本体だからいっておくけどね、相対主義はけっして、正しいこと がきめられないということじゃないのよ。 人間は万物の尺度なんだから、人間は、自分の判断に最終的な権威が あるってことなの。 つまり、自分の確信した判断に信念をもって生きるべきだ！ っていうのが私なのよ。 だから、だれがなんといおうと、あなた自身が信念をもって決めたこ とはまちがっちゃいない。 周りに左右される必要はないわ。 クラスメイトが意見を出さないんじゃなくて、出せないの。 ただ、信念がないからだせないだけ。 両親のことは、分身の私も困りものだけど、大人の事情だし、カオリ、 あなたがどうこうできることじゃないのはたしか。 なんにしろ、責任をとるのは、あなたの両親であってカオリあなたじゃ ないわ。 悩む必要も苦しむ必要もないわ】 「でも・・・」 【でももだってもないわ。 あなたは明日雨になったら、あなたの責任なの？】 「そんなことはわないわ」 【それとおんなじ。 雨が降ったら雨具を用意するように、現実を受け入れ、出来ることをし て、準備すること。 もし、周りに左右されたら、私、また相対ゴブリンになっちゃうんだか ら。 わかった？！】 「ええ、わかったわ。 あなたは、私の哲学だものね」 カオリさんの太陽のような笑顔は、カオリさんが悩んで迷って、自問 自答して、考え抜いた哲学の結果なんだろうな。 僕は、カオリさんが、哲学的な彼女になったと確信した。 僕は唐突に何のために生まれてきたのか？ そんな問いかけをしてきたけど、もともと決まっているものなんかじゃ なくて、自分で決めていくことなんだ。 今はそう確信できる。 そして、僕は哲学をしながらカオリさんみたいな哲学的な彼女と出会 うために生まれたにちがいないことを。 僕は発見した。 |
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