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小説を書こう!
第23回
 投稿小説 はりせんちょっぷ

 

 

 

 

 

 

 

 

  ブォン ヌォーヴォ ミッレンニォ!!、あけましておめでとう。クニークルスです。
「あけましておめでとうございます。みなさん。ムーシコスです」
『明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。呟き尾形です』
「今回は、さて、今回は、投稿小説を掲載します。今回読みきりです」
 投稿していただいた方は、いるまがわさん。
 ジャンルはナンセンス。
 ナンセンスというのはどういう意味かなぁ?」
 読んでみてからのお楽しみ、それじゃ、はりせんちょっぷ、はじまりまじまりぃ

 作者名:いるまがわ
 ジャンル:ナンセンス
 メールアドレス:irumagawa@hotmail.com
 URL:http://www1.s-cat.ne.jp/irumagawa/
 小説の題名:はりせんちょっぷ!


 はりせんちょっぷ!

 完全犯罪というのは、大がかりな仕掛けで行うものよりも、日常のちょっと
した状況の方が成立しやすい。たとえばバイクの二人乗りをしていて、後ろに
乗っている奴を振り落としたりした場合、目撃者がいない限り、それは事故で
あり、事件にはならないのだ。
 郊外の高級住宅地に住む主婦、A子も、そんなことを考えていた。では、A
子の心情を聞いてみよう。
(あたしの殺したいのはB男。つまり夫。親が金持ちだし、一流企業のエリー
ト社員だから結婚したけど、もう、うんざりだわ。毎日残業残業で、たまに早
く帰ってきても、会話もせずにビデオばっかり見てる)
 じゃあ、休みの日はどうしてる?
(バイクよ。ツーリングにでかけるの。あたしをほっぽってね。レトロなヘル
メットをかぶって、ゴーグルとマフラーをするの。アメリカンライダーを気取
ってるみたい)
 それで殺すんですか。
(だって、別れたって大した慰謝料はとれないわ。あたし、子どもいないの。
財産はみんな夫名義だしね)
 その日もA子の夫、B男は、バイクに乗っていた。ツーリングの行き先は毎
回違うが、帰ってくるときは途中から決まった道順を走る。森の中から町へ抜
ける下り坂は、まっすぐで見通しがよく、しかしちょっと狭かった。めったに
車の通らない道だ。B男のバイクはいつもここで最高のスピードを出す。
 と、向こうから一台の灰色の乗用車が来た。B男は気づいていただろうか?
 それが、自分の妻の車だということを。灰色の車は、突如センターラインを
超え、道路のこっち側へ寄せてきた。窓から腕が伸び、その手には巨大なハリ
センが握られていた。
 妻は、A子は叫んだ。
「はりせーーーーん……」
 両者はすれちがった。
「ちょーーーーっぷ!」
 B男は高速で走るバイクから叩き落され。主を失ったバイクは道路脇の林の
木に激突、大破した。
 A子はほくそえんだ。
(これで完全犯罪が成立)
 翌朝、A子は警察からの電話に呼び出され、灰色の車で現場に向かった。あ
たりには警官がうろうろしており、道路にはチョークで書いた人の形。遺体は
担架の上だった。
「あなた!」
 妻はわざとらしく驚いた。
「では、御主人に間違いありませんね。奥さん。」
「はい……」
 いざとなるとちゃんと涙が出るものだ。げに恐ろしきは女だった。カンボジ
ア人みたいな顔をした刑事が何事か考え込んでいる。
 A子は思った。
(なんたって完全犯罪よ。どんな名探偵でも、これが事故じゃなくって、すれ
違いざま、はりせんちょっぷをくらって地面に叩きつけられた殺人だなんて、
わかるわけないもの)
 刑事が断定した。
「これは事故じゃない。すれ違いざま、はりせんちょっぷをくらって地面に叩
きつけられた殺人だ!」
 A子はひっくり返った。
 一人の警官が聞いた。
「警部! どういう事ですか?」
「これを見ろ!」
 B男の遺体の顔には、くっきりとハリセンの跡が残っていた。
「おおっ!」
「警部! ハリセンが出ました!」
 振り返ると、部下の一人がA子の灰色の車から、ハリセンを引っぱり出して
いた。
 刑事はA子の方を向いた。
「あなたの車から凶器が見つかりました。言いたいことがあれば、署で聞きま
しょう」
 A子の両手にがちゃりと手錠がかけられた。
 油断大敵ということか。ただ、事故じゃないと見破られた時点でおのずと犯
人は絞られていくわけで、遅かれ早かれこうなっていただろう。
 ところでA子さん。今の御気分は?
「うるせーーーーっ!」
 やはり悪いことはできないようで……。

 おわり

 あとがき
 ええと、あれだ、このお話も昔のメモ書きを小説化したものです。もともと
は漫画にするためのものでした。ナンセンス小説ってそんなに読んでるわけじ
ゃないんですよね。昔、筒井康隆をちょこっとね。
「けけけけけけけけけ」

★★★
「あ〜、なんだかバカバカしくっておもしろかった。
 主人公が悪役とか犯罪者って後味が悪そうだけど、自業自得って感じで笑えた
ね。ところで、ナンセンスってこういうことを言うの?」
 う〜ん、あたらずとも遠からず。
 ナンセンスというのは、意味を成さない事柄のこと。
 だから、普通の理屈を踏み外した事柄なんだ。
「だから、”完全犯罪”っていかにも緻密そうなテーマがあるのに、たくらむ
ことが、ばかばかしいというか、実際になさそうなことなんだ」
 そう。もう完全犯罪のもっともらしいことが書いてあって、なんだか
 計画そのものがナンセンスだから、その後の行動や結果もなんだか不思議と説
得力が出てしまう。
 特に、タイトルにもなるくらいの”はりせんちょっぷ”のシーンはそんなバカな
と想いながら、読んでいてついつい乗せられてしまうんだよ。
「ふ〜ん、まじめに硬くするだけがリアリティーって訳じゃなさそうだね」
 その通り。
 それじゃ、次回をお楽しみに。
 アルデベルチ!




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