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小説を書こう!
第25回
 投稿小説 僕が僕であるために 第1回

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォン ジョルノ、こんにちわ。クニークルスです。
「こんにちわ。みなさん。ムーシコスです」
「今回は、さて、今回は、投稿小説を掲載します。全6回で、予定では週間
で発行予定です。」
 リアリティーのある文章の書き方のまとめ については、ちょっとお休み
です。
「投稿していただいた方は、いるまがわさん。
 ジャンルはSF。これまでいろいろ投稿してくれたいるまがわさんだけど、
ちょっとかわったジャンルだね」
 それじゃ、僕が僕であるためにの全6回の第1回。はじまりはじまりぃ〜。


 作者名:いるまがわ
 ジャンル:SF
 メールアドレス:irumagawa@hotmail.com
 URL:http://www1.s-cat.ne.jp/irumagawa/
 小説の題名:僕が僕であるために(第1回)

 キッチンから娘の声が聞こえる。
「ねえ、ママ。あたしにやらせて」
「エイミーにはまだ無理よ」
 朝の日課だ。豆を挽く音が聞こえ、つぎにコーヒーの香りがしてくる。マー
ガレットが、三つのカップが載ったトレーを持って、ドアを開ける。二つのカ
ップは僕とマーガレットのコーヒー。残りの一つはエイミーのココアだ。
 僕は壁のパネルをつける。三百インチの画面にインターネットのニュースが
流れ始めた。無数の事件が現れては消える。特に大きな事件は無いらしい。
 シティは平穏だ。映像をシティ市庁舎の屋上カメラに切り替えると、街が一
望できた。家全体が空に浮かんでいるように、パネルは高層ビルを映している。
僕はコーヒーを飲み干した。
 マーガレットは僕の上着にブラシをかけている。
「お帰りは?」
 妻が尋ねる。
 僕は上着を受け取りながら、
「四時きっかりに帰ってくるよ」
と答えた。
 エイミーが抱きついてきた。
「ねえ、パパ。今日はママとピアノスクールに行くんだよ」
「帰りは五時になります」
 妻がすまなそうにうなずく。
 僕の不満そうな顔に気がついたのだろうか。彼女はため息をつく。
「あなたも趣味を持てばいいのに……」
 そうつぶやいた妻に、
「君とエイミーがいれば、僕は十分幸せだ」
 そういって僕は娘を抱き上げた。
 ガレージのドアが静かに開き、僕は車を玄関に回した。階段の上では妻と娘
が並んで手を振っている。エイミーはまだ幼いが、金色の髪と整った顔だちが
妻にそっくりだった。まるで……。
「いってらっしゃい。パパ」
「いってらっしゃい。あなた」
 車を通りに乗り出すと、僕はギアをオートに入れた。これで何もしなくても
安全に職場まで行ける。
 世の中には、車は手動で運転しなくては気がすまない連中もいるようだが、
僕はついぞそんなことは考えたこともない。道順はコンピュータが知っている。
車間距離も自動でとってくれる。毎朝、車は快適に僕を会社まで運んでくれた。
 僕の仕事は建築デザイナー。
 シティ郊外の自分の設計した家に住む、三十二歳。
 妻、マーガレット二十八歳。
 娘ひとり。エイミー五歳。
 それが僕のすべてだ。
 シティの中心が近くなってくると、道幅が広くなり、車も多くなった。コー
ヒーを飲む者、新聞を広げる者、みなくつろいでいる。
 やがて道は上下に分かれた。シティ中心部ではほとんどの道は上下二段にな
っている。土地の有効活用の結果だ。僕の車を含め、多くの車は上の道を進む。
 僕は下の道を行ったことがない。下にどんな世界が広がり、どんな人間が暮
らしているかなんて全く知らなかった。べつに考えたことがないわけではない。
というより、ここへ来るといつも下の世界について思いを巡らす。
 ぼんやりしていると、一台の車が異常なモーター音とともに僕の車を追い越
して行った。手動で運転しているらしい。
(スピードの出しすぎだ!)
 そう思ったとき、前の車はフェンスに接触し、スピンし始めた。
 僕は思いっきりブレーキを踏んだ。恐らくコンピュータも同じ事をしていた
だろう。
 だが遅かった。追突した僕の車ははじかれて、フェンスを突き破り、下の道
へ落下していった。
 僕の記憶はそこで途切れた。


   Side:A

 霧のかかった画面の向こうから、声が聞こえる。
「カシウ・J・スミスさん」
 僕は横たわっているらしい。ここはどこだ?
「カシウ・J・スミスさん」
 頭がはっきりしてきた。たしか事故にあって……。
 白い部屋に白いカーテンが見える。ここは病室か。
「カシウ・J・スミスさん。わかりますか?」
 目の前に白衣の医者がいる。
「はい……」
 そうだ。それが僕の名前だ。
「僕は……助かったのか……」
 それを聞いた医者は困ったような顔をした。そして奇妙な説明を始めた。
「助かったとはいえませんね。あなたは重傷を負って、昨日脳死状態に落ち入
りました」
「それは……死んだということですか」
 僕がそういうと、医者はちょっと目線を上に向けた。どう説明したものか考
えているように。
「でも僕はこうして生きています。脳死状態から生き返ったのですか?」
「いや、そういうわけでは……。スミスさん。あなたはクローン保険に加入し
てらっしゃいますね?」
(あっ……)
 思い当たることがあった。
 医者が去ったあと、僕は窓辺のクロッカスを見ながら、数年前のことを振り
返った。
 その男が訪ねて来たのは、じめじめと雨の降る日曜日だった。
 貧相な顔をした小男だったのを覚えている。彼は保険会社の人間だった。新
型の保険のセールスに来たのだ。
 僕は妻を愛していたし、幼い娘のことも心配だった。それでどんな保険なの
か興味を持ち、男を招き入れたのだ。
 陰気な男だった。3D映像を見せながら、ぽつりぽつりと説明を始めた。映
像では、派手であざやかな色の文字がおどっていた。いわく、
『あなたも天寿をまっとうできる』
『脳の寿命は百五十歳』
『相続税ゼロ』
 映像とは対照的に、男は陰気な声で説明した。
「まず、生前に細胞を登録していただき、特殊な薬品を使って通常の数百倍の
スピードであなたのクローンを成長させます。あなたと同年齢になったならば、
やはり特殊な薬品を使って成長を止めます」

★★★
「おりょ? いきなり、side:Aってどういうこと?
 よくわかんないなぁ〜」
 いや、最初のそのわかんなさは、続きを読みたい。ってきもちになるでしょ?
「あ、なるほど。
 たしかに、Said:Aがあるってことは、他のsideがあるかもしれない
し、クローン保険ってなんだろう? とか思うものね」
 そうそう。
 淡々とさりげなく、主人公の身の回りや立場を説明しているし、描写も具体的。
事故が起きるまで、主人公の名前は明かさないことで、事故後に主人公が自分の
名前を思い出すとき、読者もそのインパクトを感じられるというさりげない演出
で、一人称としてのメリットを活かしている。
「SFっていうと、サイエンス フィクションの略だから、やっぱり、クローン
技術も発達しているみたいだね。
 なんだか、続きがきになるねぇ〜」
 それは次回のお楽しみ。それじゃ、アルデベルチ。
 






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