ホーム > 目次へ > 小説    >     鬼たちの挽歌


七色の紫陽花

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  雨の中に紫陽花がある。派手で大きな花の房がある。
 灰色の時間の中で、水の斜線はとどまることを知らず、風景画のようにさえ感じる。
 そんな風景画を破るように、傘もささずに何かから逃げるように走る少年と犬がい
た。
 それを木の上から見つめる視線があった。悩ましい肢体に犬のような耳を持つ女性型
妖魔、更紗である。
 更紗は木の枝の上で足組みをして、丸い牛鬼玉をもてあそんでいる。
「ねぇ、羅更、あなたは左の方。私は右の方を食べるわね」
 更紗は右の少年と左の犬を指した。
 そして、更紗は直径10p程度の大きさの魔獣封印球より羅更を解放した。羅更は
疾風の如く犬に襲いかかる。更紗は牛鬼玉を少年にかざした。
 少年は眠るようにその場に倒れ、犬は首輪と鎖を残し、赤い血を地面にしみこませ
た。
「おお、すばらしい。どうだ娘。ワシの部下にならんか?」
 そう更紗に声をかけたのは、まん丸眼鏡に偉そうな口髭を生やした、武道家のよう
な男だった。
「は? あんただれ?」
「ワシか? よくぞ聞いた。ワシこそは、北の地全土にその名を轟かせる北方不敗な
のだ」
「しらなーい」
 更紗は興味なしと言う態度をあからさまにして、羅更を魔獣封印球に封印する。
「ま、まて! ワシの部下になり、独立国家を樹立させた暁には人間食べ放題だぞ!」
 北方不敗の言葉にいぬ耳をピクリと動かす更紗。脈あり! と北方不敗は踏んだの
か、言葉を続ける。
「人間などより取り見取りの人間つかみ取り!!!」
「たくましい男を囲むハーレムも作れるのね!」
「そうだ。だから、ワシと共に妖魔の王国を作るのだ!」
「分かったわ。で、何をすればたくましい男に囲まれたハーレムを作れるの?」
「それはだなぁ・・・・まず特魔課を潰す事である」
 北方不敗は珍しくもっともな発言をした。

 北方不敗らがいるところから少し離れた場所に、牛切若神社へ上がる石段がある。
 石段を上りきったところには神社の庭があり、青い紫陽花の花が雨に打ちつけら
れながら咲いていた。
 そこでは、先日、静能寺舞らが巻き込まれた妖魔事件の捜査が行われていた。ま
だ、捜査中ではあるが、牛切若神社を家宅捜査しているところで、儀式用と思われ
る日本刀が見つけられた。
「しかし、儀式用とは言っても物騒やわ〜」
 前髪の一房が銀色の姫ノ樹桜がミント味の禁煙パイポを加えながら、口をへの時
に曲げ、独り言を呟く。
「ああ、確かにな。それに、入り口の戸は鋭利な刃物で切った後があるらしい。御
神楽の証言も考慮すれば、あれで切ったんだろうぜ」
 鷹栖和彦は伊達眼鏡を外して、眼鏡を拭きながらさくらに言う。
「あれを使う儀式ってどんなんだと思う?」
 さくらの問いに、首を傾げる和彦だった。
 話題になっている鬼切丸を運び出しているのは、鏡輝と北条勇だった。
「一見、なんでもない日本刀なんだがな」と輝。
「いや、これは、かなり良い刀だ。鞘から抜いて、じっくり拝みたいね」
 実は日本刀マニアの北条は、鞘に手をかけるが、輝がそれを止める。
「おいおい、それは鑑識にまわす物だ。勝手に鞘から抜いてしまったりしたら大目
玉だぜ」
 北条は輝の警告に不服そうに頷きながら、それを車に積み込む。
 ちょうどその頃、北方不敗とその一味の更紗はその様子を茂みに隠れて見ていた。
「あのね、北方不敗。あの刀ってとっても良く斬れるのよ」
 更紗は前にこの神社の神主が鬼切丸を振り回していたのを目撃していたことを思
い出し、北方不敗に伝えた。
「なんと! 確かに、あの刀。何となく欲しいぞ。うむ〜、何か良い手はないもの
か・・・・」
「おい、そこの妖魔、お前強いのか?」
 北方不敗が思考をめぐらさていると、背後の上方から女性の声がする。北方不敗
が振り向くと、たくましい馬の足が見える。その馬の足を伝って上を見ると、上半
身は武者鎧を着た長刀を持つ妖魔がいた。皇牙である。
 と、その時、北方不敗の中で何かがひらめいた。
「いかにも。何せワシの名前は北方不敗、不敗の字を我が物としているくらいだか
らな。強すぎる故、ワシと闘うためには、試練を乗り越えねばならぬ。あの刀を取
ってくれば合格である」
「それより、羅更に取らせて来ようか? 昔ね、封印した魔獣がうまく操れないけ
ど、あの中で暴れさせた隙に羅更に取らせてくるの」と更紗が割り込む。
「おお、それはよい手だ」
 北方不敗は、さっきの自分の思いつきなどすっかり忘れて、満足そうに口髭を撫
でて頷いた。
「おい、あたいの立場は?」
 1人立ち尽くす皇牙は無視され、さっそく作戦は実行された。封印はその場で解
かれ、巨大な猿のような魔獣がその姿を現した。
 巨大な猿は姿形は猿のそれに酷似していたが、3mはあろうかと思われるスケー
ルと、異様に発達した牙を持つ魔獣である。
 そして、大猿の魔獣のターゲットは北方不敗と更紗、そしてなぜか皇牙になって
しまう。
「な、なんでわしらが狙われるのだ?」
「言ったでしょ! うまく操れないって!」
「なんであたいが?」
「何をしている。ほれ、神社まで走って行けば、混乱は起こるぞ。ほれ、走れ走
れ」
 なにげに、ミミズくびりが地中から妖魔に入れ知恵した。北方不敗と更紗はミミ
ズくびりの言葉に頷き一斉に神社に向けて走り出した。
 そうとは知らない特魔課一味、もとい、調査中の特魔課は突然、妖気が感知さ
れ、全員臨戦態勢を取る。
「はん、妖魔事件の調査中に妖魔が出現するなんて、根の深い事件やわ」
 さくらの口調にはどこか皮肉めいたものを感じる。
「ああ、だが、楽しくなりそうだ」
 和彦は簡易詠唱でBLADEを唱え、雷の剣を作り出すと、茂みの中から中国
の格闘家のような中年の男性(北方不敗)とレースクイーンのような色っぽさをも
つ犬の耳を持った若い女性(更紗)、そして、ケンタウロスのような武者(皇牙)
が和彦の横を走り抜ける。
「な、なんだぁ?」
 呆気にとられる和彦に追い打ちをかけるように、茂みというより、山の気が大
きく揺れる。
「和彦さん。気をつけて! 何か来る!」
 さくらが警告に和彦ははたと自分のいる状況を思い出す。すると、ゴリラより
巨大な猿が現れる。
「はん、そうこなっくちゃ」
 和彦はそう呟くと、REVAIEを唱え、さっき走り抜けた中年の男性と若い
女性の幻影を作り出す。巨大な猿は、それを見ると、女性の方に拳をたたきつけ
る。
 和彦はその隙に大猿の懐に飛び込み脇腹に雷の剣を突き刺した。
 ウギャーーーーーーーーーーーー!!!!
 神社の境内は大猿の悲鳴が響きわたる。大猿は苦し紛れに丸太のような腕を振
り回すと和彦は嵐のような攻撃をよけきれず、不覚にも大猿の平手打ちを喰らっ
て後ろに吹き飛ばされ、赤い紫陽花の植えられている花壇に倒れる。
 大猿は怯む特魔官達の隙をついて、傷を受けた脇腹を抱えながら、山の中に逃
げていった。
 一方、北方不敗と更紗、そしてなぜか皇牙は大猿を偶然まいたことを良いこと
に、そのまま鬼切丸強奪に向かった。
 車に積み込まれようとしている鬼切丸を持っているのは特魔官の北条である。
その隣には右頬に傷を持つ輝が待ちかまえていた。
 北条は3人の妖魔を確認すると、自分の持っている木刀を投げ捨て鬼切丸の
鞘に手をかける。
「やめろ! 北条!」
 輝が咄嗟に北条を押さえつけようとするが、鬼切丸の刀身が見えたときには、
銀色の光が水の斜線を断ち切り、輝に襲いかかる。
 輝は紙一重で北条の一撃をかわすが、輝の前髪がはらはらと落ち葉のように
落ちて行く。
「北条! どうしたんだ!?」
 輝の問いかけに答える変わりに、鬼切丸の斬撃が輝を襲う。輝は混乱しつつ
も、北条の攻撃をかわしている。
「あいつ、強い」
 皇牙が北条と輝の攻防を見て、北条を強者と認めたのだ。そうと決めたら皇
牙を止められる者などいない。皇牙は長刀を旋風を起こすような勢いで振り回
し、突風のように北条に突撃する。
 北条はそれを予知していたように刀の切っ先を皇牙が向ける。
 皇牙の背筋に心地よい緊張感が走る。
 北条の鬼切丸と皇牙の長刀が金属音を響かせ交差する。緊張感が沈黙を呼び、
周囲の時を止める。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 グサッ。
 皇牙の長刀が宙を舞った後に、地面に刺さる音が沈黙を破る。そして、長刀
には力強くにぎられた皇牙の右腕があった。鬼切丸の刃は皇牙の腕を切断した
のだ。
「き、貴様ぁぁぁ!」
 皇牙は右腕の傷みより、胸の奥底からわき出る悔しさに北条を睨み付ける。
対する北条はまるで精気のない視線で、もう一度皇牙に鬼切丸の切っ先を突き
つける。
「終わりだ」
 抑揚のない北条の声には殺意すら感じられない。
「北条! 俺を無視するな!」
 輝は北条の足下に氣爆掌をたたきつける。罪のない地面は石つぶての悲鳴を
上げて、北条の視界を極度にせばめる。輝はその隙に北条の背後に回り込み、
北条の足を払ったが、北条にはそれが分かっていたかのように輝の攻撃をひら
りとかわし、鬼切丸を振り落とす。
 鬼切丸の一閃は輝をまっぷたつにしたかのように見えた。
 しかし、鬼切丸は輝の両手に挟まれ、輝を切ることは出来なかった。
「ヒュー、やっぱりお前は北条だ。太刀筋がバレバレだぜ」
 輝はその体勢から蹴りを出し、北条は後ろに吹き飛ぶ。輝は額の汗を拭う。
 その様子をうかがっていた北方不敗は、更紗と皇牙に指示を出す。
「ぐむぅ、鬼切丸を奪うことはなかなか難しそうだな。更紗、皇牙、ここは
一時撤退だ」
「なんであたいも」
「いいじゃない。その腕じゃ闘えないでしょ?」
 更紗の指摘は事実なのだが、認めたくない皇牙が唸っていると、北条は立
ち上がり、そのまま山の中へ逃げていく。
「待て北条!」
 鏡の声は山の中へ虚しく消えていった。
「っく、北条、その名を忘れないぞ」
 皇牙はすでに姿を消した北条に対して言うと、そのままどこかへ転移した。
「あ、行っちゃったわよ、北方不敗。私達も逃げないと」
「お、おう」
 そうして、人騒がせな妖魔達は事件現場を立ち去った。
「まったく、あの妖魔達は一体何だったんやろなぁ?嵐みたいやわ」
 さくらは、妖魔達の訪問に溜息をつきつつ、怪我をした和彦の手当をし
ていた。
「いてて、畜生、あの猿、ぜってぇ殺す」
 やられたらやり返す和彦らしい言葉だった。

 当然、この事件の報告は特魔課に届くわけだが、特魔課で一番お冠だった
のは御神楽真珠だったかもしれない。
「まったく、なんてことするんだよ!」
 と、1人で怒りながらあるく真珠を恐れたのか、誰も真珠に声をかけられ
ない。真珠は逃走した特魔官を追跡する、追跡班に立候補し、退魔刀の使用
許可を申請した。
 真珠が威圧的な申請をしたのかどうかは謎だが、事態が事態だけに、あっ
さり申請は飲み込まれた。
 そして、追跡班には姫ノ樹桜、鷹栖和彦、鏡輝が立候補してきた。そして、
妖魔の追跡ということもあって、妖気感知と魔力感知の使える特魔官、西宮
信士が選出された。
 信士は別に何処にでも良さそうな一般人が特魔官のコスプレをしたような
風貌の男だが、地味な魔法である妖気感知や魔力感知を会得している数少な
い特魔官である。
「さて、リベンジだ」と和彦。
「何言ってはるん。目的はあくまで、逃走した北条巡士や。なぁ、輝さん」
 桜の言葉に無言で頷く輝の顔はいつもより引き締まっている。
「早く行こう。北条さんに何があったかは知らないけれど、特魔官が一般
人に手を出す前にさ」
 真珠の一言に輝は眉間に深い皺を寄せる。真珠は一瞬だけひるみはした
が、自分が間違った考えではないことを心の中で確認する。
 たとえどんな理由があろうと犯罪行為は悪いことである。その認識はみ
んな一致している。そして、北条巡士がおそらく、鬼切丸に封印されてい
た妖魔に憑衣されてしまった可能性も十分考えられている。
 事実、周りの特魔官は、鬼切丸を抜いた後の北条巡士は、いつもの北条
と違ったとの証言も得ている。
 だからといって、北条を野放しにするわけには行かないのだ。真珠、和
彦、さくら、西宮はそう割り切ってはいるが逮捕するのが辛いという気持
ちは一緒だった。ただ1人、輝だけは、その割り切りすら出来ないようで
はいたのだが・・・。
「まー、まー、最初からチームワークをみださんと、出来るだけ早く北条
巡士を保護しましょ」
 さくらのなだめるような口調と、保護という単語で輝は納得したようで、
輝の表情にほんの少しだけ険しさが無くなった。

 天気は気まぐれで、やんだと思えばポツリポツリと降ってきて、降った
と思えばまたやんでの繰り返しだった。
 そんな天気に白い霧など目立つはずもない。白い靄のような塊と静能寺
舞は紫陽花の群生する山道を歩いていた。
「舞殿、すまぬ。鬼がいないにも関わらず、鬼切丸が目覚めた。鬼切丸の
力は必ずや暴走するに違いない」
 舞は霧の発する音のない言葉に頷く。
「先日、あなたに憑衣されてそのことは存じ上げています。ですから、私
はあなたの言葉を信じているのです」
「すまぬ。あの特魔官と言う輩は信用できぬでな」
「仕方ありません。特魔官は妖魔を封じることが役目ですから」
 舞がそう言葉を切ると、湯煙の塊が前方に見えてくる。紫陽花の花はそ
の湯煙のある方に向かえば向かうほど鮮やかな赤い色を示し、山道沿いの
紫陽花は虹色にさえ見えてくる。
「あれは、温泉じゃ。あの中に鬼切丸を入れれば、鬼切丸の力は封じられ
る」
「問題は、どうやってここにおびき寄せるか。ですね」
「なに、強い妖気を放てば、鬼切丸は来るだろう・・・・ん、どうやら小細工
をする前に、先客がおるわ」
 霧は舞にそう告げると、その気配は風に吹かれた霧のように。舞散った。

 先客とは、皇牙と更紗である。北方不敗はしばらくどこかに行くように
皇牙と更紗に命令され、しばし散歩に出てしまったのだ。なんとも、誰が
親玉なのか良く解らない状況になってきたようだ。
「ふう、この温泉、少しピリピリするけど良い湯ね」
「そうだ。傷がちょっとしみるが悪くない。この前牛頭鬼を探していたら
見つけたんだ」
「へぇ」
 妖魔とはいえ、人間女性型の妖魔が2人である。しとしと降り続ける雨
の中に露天風呂につかる美女2人、これがなかなか色っぽい。
 更紗は元から色っぽい恰好をしており、変わらないのだが、ふさふさし
ている毛が濡れて何か怪しい妖艶さを醸し出している。
 その隣にいる皇牙は、当然ながらいつも着ている武者鎧は着ておらず、
更に下半身の部分は湯に浸かって隠れているので、見ればプロポーション
の良い長身の女性が雨の中の露天風呂に入ってると言うなんともすばらし
い光景なのだが、残念なことに、皇牙の右腕がないので、色気のいの字ど
ころではない。
 しかし、それを岩場の陰から見るでばがめ2人。
 そこにいるのは北方不敗と、偶然出合ったミミズくびりである。
「おお、このような光景を見られるとは長生きするもんじゃ」
「全く持ってその通り」
 2人とも鼻の下をでれりとのばし、頬を赤らめているのは湯煙のせいば
かりではないだろう。
 しかし、2人が見つかるのは時間の問題だった。目と鼻の利く皇牙、と
ても耳の良い更紗。この2人のコンビで覗きをして見つからぬ訳がない。
「だれよ!?」
 更紗が岩場の陰から不自然な者を音を聞きつけ、不審者を弾劾するよう
な口調で叫ぶ。
「北方不敗!! 貴様か!」
 皇牙は更紗の反応を見てそこに間抜けに隠れている北方不敗を発見する。
皇牙は顔から火が吹き出るほど熱くなり、その手からは火弩弾が一緒に放
たれた。
 そんなわけで、2人の妖魔が、火弩弾のお土産を喰らった後に、更紗の
呪縛の追い打ちで、たっぷりお仕置きを喰らったのは言うまでもない。

 4人の妖魔も集まれば、かなりの妖気が感知されるのは道理である。
 輝、和彦、さくら、真珠、西宮の5人は、北方不敗達のいる温泉に向か
っていた。
 そして、偶然にも北条らしい人影が見えてくる。いや、偶然ではない。
鬼切丸が強い妖気を感じて、北条を導いたのだ。
「あ、あれを見てや、舞じゃない?」
 さくらは、誰に言うでもなく、山道の先に舞がいることを指摘する。
「うん。確かに。舞さんだよ。でもなんであんな所にいるのかなぁ?」
と真珠。
「そんなことは知しらん。とにかくここは危ないさかい、保護しない
と・・・・」
 さくらの指摘に皆が同意する。
「まいさーん!」真珠は手を振りながら駆け寄る。
「あ、真珠さん。皆さん。どうなされたのです?」
「どうなされたも何もあらへん。この一体は危険だから、すぐに・・・・」
「知ってます。鬼切丸の封印が解けたのですね」
 さくらの忠告に従う意思のない事が舞の表情から読みとれ、さくら
はため息をつく。
「まったく・・・・舞、あんたがそんな目をしとる時はてこでも動かんもん
ねぇ・・・・」
 さくらがこめかみに指を当て、もう一度大きなため息をついた。
「強い魔力を感じます」
 西宮は北条のいる方向を指さした。
「西宮! あぶない!」
 輝が西宮を突き飛ばし、背後から襲いかかる大猿の魔獣の攻撃を両
腕を十字に組んで受けとめる。
「ぐおおおぉぉぉ」
 大猿は牙をむき出しにもう片方の腕を振り上げ平手打ちを輝にたた
きつけるよう素振り上げると、鉄板のような掌に雷の剣が突き刺さる。
「お前は俺が倒す」
 雷の剣を投げつけた和彦が、伊達眼鏡を投げ捨て、大猿を睨み付け
る。
 大猿は一声吠えると脇腹の痛みの原因を作った人間であることを思
いだしたかのように、和彦を睨み付け、牙をむき出しにして、両腕を
広げ和彦を威嚇する。
 ただでさえ大きな猿が威嚇のために両腕を広げると、その大きさだ
けで和彦達は本能的に背筋が凍るような恐怖が体中を駆け抜ける。
 真珠は恐怖で麻痺した体に鞭を打って、地面を蹴りつけ飛び上がる
と、退魔刀で大猿の眉間を狙って打ちつける。しかし、大猿は近くに
あった木を根こそぎ引き抜き、木の幹を盾にする。真珠はかろうじて
着地に成功するが、バランスを崩して片膝をつく。
「なんてやつなの?」
「どけ、あの猿は俺が殺る」
 和彦の声は落ち着いているようだが、その言葉の奥底には、今にも
爆発しそうな怒りが感じられる。
 大猿は和彦を両手で挟むようにたたきつけようとすると和彦は身を
低くして大猿の両腕からのがれ、そのまま大猿の股下をくぐり抜け、
下から雷の剣を突き刺す。大猿は苦し紛れに右足で和彦を踏みつける
が、間一髪、和彦を身をひねらせてそれをかわす。
 和彦はそのまま体を転がせ、距離を取ると、SPREADを唱え、
大猿の頭めがけて炎の玉を打ちつける。
 大猿は激痛で後ろによろけるとそのまま倒れる。
「輝! 危ない!」
 さくらが輝に警告するが、輝はそれを待っていたとばかりに、倒れ
てくる大猿を見上げ、掌打を打ち上げる。大猿の背中と輝の掌打が接
触すると爆風がまき上がり、大猿の体が一瞬宙に舞う。そして、大猿
はそのまま霊体化する。
「今だ!」
 真珠は魔獣の霊体を銀板に封じると、舞がそれに封をする。
「さぁ、次は鬼切丸です」
 舞の凛とした言葉には強い意志が込められていた。



あ、これは読んだな、タイトルへ戻ろう(^∇^)