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光の鳳雛、時の伏龍 1

 

 どこまでも続きそうな白い廊下。
 不自然で無機質なこの廊下を二つの人影があった。
 一人は、漆黒の黒髪をなびかせる中国人系の細目の男である。この男の名を、張・白狐(チャン・パイホォ)といい、白狐のとなりにいるのは、髪の薄い白衣の頭でっかちであり、名をエルスト・ケミストリーという。
「いやぁ、いつも良いサンプルをありがとう。ミスターチャン」
 髪の薄い白衣の頭でっかちは、ニタニタしながら白狐を上目遣いで見る。見られたチャンはあからさまに侮蔑の表情を見せるが、白衣の頭でっかちは気がついていないようだ。
「やはり、ナチュラルのサイクラフトを生け捕りするのは難しいのだろう?」
 サイクラフト。
 オーパーツと呼ばれる遺跡が発見されてから超能力者が爆発的に増えた者の総称のことである。
 サイクラフトの存在は、一般人へ恐怖という先入観を根拠とした差別を生み、魔女狩りさながらのサイクラフトというだけで凶悪犯のごとく扱うようになった。
「なに、諜報活動のついでです」
 ことなげに、白狐は言う。
「ここだ。ここが超能力者たるサイクラフトの馬小屋だ」
 髪の薄い白衣の頭でっかちは、サイクラフトを家畜と認識しているらしい。
 白狐とエルストは、マジックミラー越しに全裸で黒髪のうずくまっている男性を目にする。
「ずいぶんと、ステキな馬小屋ですね」
 慇懃な口ぶりの張・白狐(チャン・パイホォ)の言葉に込められた皮肉のマスタードがたっぷり塗られていた。
「この男が、この研究所で最強のサイクラフトだ」
 男は白狐の言葉など聞いていない風に自慢のペットを紹介するかのように語る。
「サイクラフト? ということは、まだ、サイコファクトじゃないのですね」
 サイコファクトとは、サイクラフトに対抗するために、人工的に超能力者になった人間の存在を指す。
 とはいいつつも、一般人がサイコファクトになるほど、技術は進んでおらず、サイクラフトとして覚醒しそうな人間やすでに覚醒したサイクラフトを洗脳し、人工的に超能力を強化しているのが現状である。
「ああ、彼ほどナチュラルで強力なサイクラフトはとても希少価値があってね。
 まぁ、今は、動物で実験をしているところさ。
 その動物も、とっておきなのさ」
 エルストは得意げに鼻息を荒げる。
「とっておき、ですか?」
 白狐は首を軽くかしげると、エルストは満足げにニヤリと笑みを浮かべて口を開く。
「そう。現段階で動物実験しているサイコファクト技術。
 今日おまえを呼んだのは、その実験の立会いだ。鬼塚社長も、蝦夷谷 信虎もマクシミリアン・伊集院も呼んでいる」
 鬼塚とは、レボ社というリサーチ会社という表の顔を持ち、調査と称して、さまざまな個人情報を取り寄せ、サイクラフトを探し出し、捕獲することを裏の仕事としている。
 美人で頭は切れるが、部下を道具と考えているところがあるらしく、白狐はその言動に眉をひそめることがある。
 蝦夷谷は、鬼塚のボディーガードである。忠実で、義理堅く、少々、頭の固いところはあるが、公正明大な人間である。
 それとは正反対に、慇懃無礼な男がマクシミリアンである。
 この世のすべての人間は自分よりも劣るのだ。というエリート意識がただよう雰囲気と、冷酷なまでの計算高さは、いつでも誰でも裏切ることができる男である。とても、信頼できる相手だとはいえないだろう。
 白狐は、目の前のエルストの次に軽蔑している。
 とはいえ、有能な人間であることはたしかであるし、マクシミリアンも、白狐自身を似た様に考えているであろう事はお互いの距離をみればわかるというものである。
「実験・・・という名の実践セレモニーというわけですね」
 白狐の言葉に、エルストはニヤリとしてうなづき、口を開く。
「さすがだな。
 とにかく、研究の成果を認めてもらわないことには研究もすすめられない。
 今の段階では、サイクラフトというのは、オーパーツの影響で体内に賢者の石が生成されて、その賢者の石の大きさが、サイクラフトの超能力の大きさが決まってくるというところまでわかっているんだ。
 となれば、賢者の石を他の動物に移植すれば、その動物も、サイクラフトのようなパワーを得られるわけだ。
 実際、やってみれば、すごいものさ。
 驚異的な戦闘力だよ」
 エルストは、満足げに自分勝手に話を進めながら、白狐を実験室に案内した。


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 呟き尾形 2006年2月19日 アップ

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