エルストと白狐が部屋に入ってから、1時間後、長身のマクシミリアンが白いスーツ姿でやってきた。
「おお、きたか、マクシミリアン」
エルストがニヤニヤしながら迎えると、マクシミリアンは虫けらを見下すように露骨な無視をして、白狐を見る。
「これはこれは、白狐。久しぶりです。
相変わらず、心をとざしているんですね。
好きですよ。そういうのは。
そういった人間がいるのは落ち着くものです」
マクシミリアンは、テレパシーの能力をもったサイクラフトである。
「マクシミリアン、人の心を無断で読み取ろうとするのは無粋ですよ」
白狐は苦笑しながら応える。
「しかたがありません。
私の意識に関係なく、聞こえてくるのですから。
周りの人間が独り言を呟いているように・・・」
マクシミリアンのテレパシーとしての能力は、マクシミリアンの意思にかかわらず、思考が聴こえてくるほどである。
マクシミリアンの後ろから、大柄の軍服を着た男が入り口をくぐるように入ってきた。
「ひさしぶりですね。蝦夷谷」
「おお、白狐。あいかわらず、悪知恵をはたらかせているか?」
シニカルな笑みを白狐に見せると、エルストには声もかけずに、眉間にしわを寄せて横目でみやった。
そんな蝦夷谷の思考の侮蔑の声が聞こえてきたのか? マクシミリアンは、苦笑をする。
白狐は、蝦夷谷が、エルストに向けて心からの嫌悪の言葉を飲み込んだのだろうと推測した。
「社長は?」白狐が蝦夷谷に質問した。
「ああ、少し遅れて来るそうだ」
「ボディーガードのあなたがそれでいいのですか?」
マクシミリアンが指摘するが、蝦夷谷は「さあな」ですべてをすませてしまった。
エルストは、そんなこと気にもかけずに、一つセキ払いをして、演説を始めようとした。
「さてさて、幹部の皆様に集まってもらったのは他でもありません。
かねてからのプロジェクトだった・・・」
「化け物作成計画なんかの説明ならききたかねぇ」
蝦夷谷が、エルストの演説をさえぎった。エルストは蝦夷谷を意図的に無視しようと咳払いひとつして続けようとすると、新たな訪問者が部屋にはいってくる。
「そうね。手短にお願いするわ。ここにいらっしゃる方々は、いそがしいの。エルスト。
なにより、百聞は一見にしかずよ」
神経質そうなきびきびとした女性の声は、部屋に響く。
鋭い視線が伊達めがねを通して、エルストを射抜く。
「お、鬼塚社長。
かしこまりました」
エルストは、驚きの表情を隠すことなく、そのまま鬼塚の言葉に従い、ボタン操作をした。
続く
呟き尾形 2006年4月9日 アップ
|