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チューリップの涙 01

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗雲立ち込める早春の夜。
 激しい雨粒は地面をたたきつけ、雷光が唯一の光源となる。
 その豪雨の中を走り抜ける獣影一つ。それを狩る影一つが、影のスポッ
トライトになる。
 雷鳴が轟く直前に、二つの影は映し出され、雷の数だけその差が縮まる。
 追いつくのは時間の問題だった。
 獣影を追う影の手の甲には、タトゥが施されている。このタトゥは一般
には特魔官であることを証明するための警察手帳のようなものとして認知
されているが、実は、特魔官が特殊な超能力ともいえる魔法を使うために
必要なものであった。
 特魔官、特殊魔法課、通称特魔課を設置し、特魔課に所属する人員であ
る。特魔官は、妖魔と呼ばれる、人間の精気を食料として捕食する存在、
つまり、人間の天敵から、人々を守る職務である。
 獣影は、ビーバーにむき出しの鋭い犬歯を持たせたような妖魔だった。
 特魔官は、目の前の妖魔を瀕死の重傷まで負わせたのだが、雷の閃光に
視界を奪われた隙をつかれて、逃げられてしまった。

 もちろん、特魔官は妖魔を追い、妖魔はチューリップが一面咲いた
チューリップ畑の中で妖魔に一撃を加え、妖魔は吹き飛び、チューリップ
が無残に踏み潰された。
「逃げ足だけは、速かったがここまでだ」
 特魔官は、倒れた妖魔に止めをさそうとしたが、突然、特魔官の前に
人影が現れた。
 妖魔は、おびえる子供のように影の背中に身を隠した。
 さらに雨は激しく降り注ぎ、チューリップの花と特魔官の頬に大きな
雨粒がたたきつけられる。
 特魔官、立ち止まり、獣影を守る影の姿を観察する。
 相手が何者なのか、妖魔を守るという不可解な行動から、相手の目的を
推測し、その力量を測る。
 もしかすると、人の姿かたちを似せた妖魔かもしれないし、その可能性
は高い。
 特魔官は、その影の姿を驚きに一瞬言葉を失った。
「馬鹿な! これは幻覚か・・・お前は・・・時田・・・!」
 特魔官は目を見開き、息を漏らすような声で呟く。
「そうさ、火野。俺がこの妖魔を操り、人間を襲わせていた。
 鬼の封印を解いた愚か人間は、自滅する宿命にある」
 火野と呼ばれた特魔官は、怒りに肩をふるわせる。
「だまれ! 人間はそこまで愚かではない!」
「無知とはなんと罪深いことだ・・・黙っていても自滅する。
 だが、その宿命はあまりにも多くの犠牲を払う。
 ならば、自滅の宿命に加速する」
 時田は火野をあざ笑うように言ってのけた。
「知ったようなことを!」
「知っているさ。いや、知ってしまった。
 無知とは罪だ。それを知ることが罰・・・」
 時田は右手に握られた手を開くと、その手に一本の剣が現れた。
「侍神具か・・・」
 侍神具。
 鬼を倒すための神具のことを指す。その神具を誰が作ったかは分かって
はない。
 分かっていることは、その神具には、強力な魔力を持つ妖魔が封印され
ており、その妖魔とある契約を結ぶことで、自在に妖魔の魔力を使うこと
が出来る。ということである。
 契約の内容は、妖魔によって様々であり、「決して神具に日光を当てな
い」であったり、「一日に一人の人間を捕食する」であったり、「満月の
夜に舞を奉納する」であったり、まったく統一性がない。
 火野は、時田と同じように右手の拳を突き出し、その手には剣が握られていた。
「火野隼雄。あなたの力を貰い受ける」
 時田の言葉は、稲妻にかき消され、二人の剣が火花を散らした。

 

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