チューリップの涙
07
●変身 サムライジング 「またきやがったな」竜司が吠えるように言った。 「まて、竜司! やつは」 水間は竜司を制止したが、竜司はかまわず掌から、気弾を放った。 気弾は風を斬りながら、妖魔の腹部に命中する。 しかし、妖魔はひるむことなく竜司に襲い掛かった。 「なんだと! こいつ、昼間の奴と違うのか!」 「そうだ。 奴の額をみろ」 水間がそういうと、妖魔の額には真紅のルビーのような瞳が怪しく輝いていた。 「あれは、鬼の力によって、妖魔の力が拡大されたことを意味する印だ」 「なんで、おじきがそんなことを知っているんだ?」 「それより、オーパーツに選ばれたのはどっちだ?」 「は? 質問を質問で返すなんてなんてやつだ」 竜司が毒づく。 「ああ、何とでも言え。 オーパーツを触ったのはどっちだ!」 水間がそういうと、今度は妖魔が鋭い牙が二人の間を引き裂こうと襲いかかってきた。 「ああ、それならオレだ!」 竜司はそう言い放つと同時に、水間を突き飛ばし、体内の気を練り、闘気法を使った。 闘気法とは、体表に硬気功を纏わせて鋼のように硬い体を作り出す魔術のことである。 竜司は、この魔術を使うことで日本刀を跳ね返すほどの硬さにする事ができ、これまで遭遇した妖魔であれば、その牙や爪から身を守ることができた。 しかし、ビーバーの妖魔の牙は竜司の闘気法を突き破り、竜司の肩から鮮血がほとばしる。 激痛とともに、妖魔の牙から、気が妖魔に吸われる感覚を憶えた。 竜司は、後ろにステップして距離をおいてから、再び気をねった。 「だったら、これでもくらえ! 気爆掌!!!」 竜司は、その掌に体中の気を収束させ、掌から、爆発的な破壊力を妖魔に与えた。 爆音とともに爆風が部屋にある物という物を震えさせた。 手ごたえはあった。 しかし、竜司の目の前の妖魔はダメージを受けるどころか、目の前の獲物が抵抗するのを楽しんでいるかのように、真っ赤な瞳を輝かせていた。 「きかない・・・だと」 竜司の体から力が抜けていくのがわかる。 そして、竜司の体の芯から、震え、恐怖に青ざめた。 絶望。 それが、竜司の心境だった。 自分の全力をだしてもまったくきかない妖魔の存在は、竜司が生き残るすべての可能性がたたれ、わずかの望みももてそうも無かった。 妖魔は前足で竜司を吹き飛ばし、竜司は壁に叩きつけられた。 「しっかりしろ! 竜司」 水間は倒れる竜司を抱き起こした。 竜司は一瞬失いかけた意識を取りどす。 「あの妖魔は、鬼によって強化された妖鬼兵だ! 妖鬼兵は、魔法の力を吸収する特殊な能力を持っている」 水間の言葉に竜司は目の前の妖魔がやけに強くなった理由を理解した。 「だったら、こいつにはかてないってことか!」 「いや、可能性はある。 魔法の力を超越した、侍神具をつかえばな」 「さむらいじんぐ?」 「ああ、侍神具は、鬼を退治するための道具だ。 お前は持っているはずだ。 いや、オーパーツから、それを与えられたはずだ。 亜由美が命がけでお前に託したはずだ」 竜司は、そのとき、亜由美とであったときに、亜由美が落としたアクセサリーのことを思い出した。 竜司はアクセサリーを取り出すと、アクセサリーは黄金の光を放っていた。 黄金の光は、徐々に強くなり、やがて竜司を包み光が物質化して鎧の形を形成していく。 竜司が気がつくと、真紅の鎧に身を包んでいた。 「それだ! オーパーツに選ばれし者。 妖鬼兵に勝つ存在こそが、侍神具だ」 水間が興奮ぎみに声を荒げた。 水間の興奮とは裏腹に、妖魔が竜司に攻撃を仕掛けるが、竜司はその攻撃を軽々と片手で受け止めた。 「なんだ、さっきまであの妖魔の動きも見えなかったが、今はよく見える。 それに、あんなコンクリートの壁も砕くような攻撃が、今では痛くもなんともねぇ」 「それが侍神具の力だ」 水間の言葉に竜司は納得がいった。 「なるほどな」 竜司は、侍神具が、自分の力を活性化させるオーパーツであるということが理解できた。 妖魔は再び竜司に襲い掛かるが、侍神具を待とう竜司の敵ではない。 竜司は片手で妖魔の攻撃を受け止めた。 「食らえ! 爆掌撃!!!」 竜司の気のこめた掌が妖魔の腹部にあたると、爆風と輝きが発生、妖魔を粉々にした後に、光に吸い込まれるように、妖魔は消滅した。 そして、竜司がまとう侍神具は、竜司の身体に溶け込むように消えていった。 「す、すげぇ。なんだこの力は」 竜司は自分の両手を見つめて、自分が自覚していなかった力が未だに信じられなかった。 「それが侍神具の力だ。 お前は、オーパーツに選ばれ、侍神具をまとうことが許された存在だ」 「な、なんでおれが・・・」 「わからん。 だが、お前は選ばれた。それが事実だ」 竜司は、状況が飲み込めないと言いたげに、叔父の顔を見ていた。 ちょうどその頃、廃墟と化した無人の研究室に一人の男が、女性を抱いて、棺の前に立っていた。 男の背後は、戦場のように荒れ果て、あらぬ方向に間接が曲がっている白衣の研究員や警備員達が横たわっていた。 男に抱かれている女性は亜沙美の遺体だった。 「ここに、鬼神の母、蘇る・・・」 男は、呪文のようにそうささやくと、亜沙美を棺に乗せ、一輪のチューリップをそえた。 固いはずの棺の蓋は、液状化し、亜沙美は、底なし沼にしずむように、棺の中に沈み、チューリップの花だけが、亜沙美の残した涙のように残った。 そして、棺の上のチューリップは、花の生命を吸い取るように見る見るうちに萎れていく。 棺の蓋の上には萎れたチューリップだけがのこり、男は、オーパーツの棺を軽々抱えて、研究室を去っていった。
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あ、これは読んだな、タイトルへ戻ろう(^∇^) いや、ホームかな?