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Sun Of Night
はじめに神、天地を創りたまえり 

 そこは闇。
 闇の中に一条の光が駆け抜ける。
 闇が強ければ強いほど、僅かな光はまぶしくもなる。闇に照らされた光が徐
除に大きくなろうとしている。闇すなわち夜。光すなわち太陽。
 夜に輝く太陽こそが真実を知る・・・・。

はじめに神、天地を創りたまえり。
 神が自らの姿に似せてアダムを創造し、アダムの肋骨からイヴを作り出した。
アダムとイヴは祝福され、楽園を任せた。禁断の木の実を口にしないことを約
束して。
 そして、アダムとイヴは神との約束を破り、禁断の果実を口にして楽園を追
放された。
 それからアダムの子孫は科学を手にし、自ら楽園を作り出した。アダムの子
孫は欲望の果実を口にしてその楽園すらも破壊した。
 ・・・・人類は・・・・核のスイッチを押したのだ!
 一瞬の熱と光の波で破壊された楽園の荒野に、時折見かける様々な形をして
いる巨大な建造物がある。
 この物語の舞台となるLDは、お椀を逆さにしたような、丸いドーム型で、
核の熱で所々溶けてはいるが、それは作業用パペットとAuto Dollと
呼ばれるアンドロイドが日々修理している。
 核戦争による核の冬が終わり、人が出ても問題のない状態ではあったが、こ
の荒廃した生命力を総て焼き尽くされた死の土地に誰が好んで外に出るだろう?
 LDの住人はLDの中で豊かな暮らしを捨ててまで外に出ようとはしなかっ
た。
 アダムとイヴが禁断の果実を口にするまでその楽園にとどまったように・・・・。

●マツドLD
 関東は比較的LDが多い。ここ、マツドLDもそのひとつである。
 もとより、環境破壊が進んでいたことが、住民の危機感を煽りよりその要望
が高かったことが上げられる。
 LDの中はLDの荒野になる前の青い空の映像を写し出されており、その天
井を支えるようにそびえ立つ丸い樹氷のように白い柱が所せましと規則的に並
んでいる。
 白い建造物には規則的に丸い窓があり、その窓から洩れる光と視線から、そ
の建造物がたんなる柱でないことが分かる。
 その柱達をつなぐように半透明のパイプには丸みを帯びた車が風のように走
っていた・・・・。

●真理逢(まりあ)
 真理逢は時代錯誤な修道院から出てきたような恰好で、南のLDから高速レ
ールバスを乗り継ぎ、ここ、マツドLDまで訪れた。
「ここがマツドLDね」
 可愛らしい顔立ちに白い肌、臼茶色の瞳は印象的で、目が合うだけで見えな
い不思議な力で吸い寄せられそうな錯覚を抱く。
 そんな彼女の目的は荒廃した地の住人に主の御言葉を伝えることだった。
「叩けよ、さらばひらかれん・・・・よ」
 そう呟き拳をギュッと握る真理逢はマツドLDにある教会の場所を聞くため、
近くにあった喫茶店に立ち寄ることにした。
 カランコロン
「あ、いらっしゃーい」
 明るく通る声は元気な若い女性の声だった。
 喫茶店の中には元気そうなショートカットの女性がカウンターの中でくたび
れたスーツを着た大柄な男がくわえタバコをして、カウンターにいるショート
カットの女性と親しそうに話していたようだ。
「お! あまり見かけない顔だね。今日は新顔さんが2人目。それにむさい男
じゃなくて」
 大柄な男は真理逢をまじまじと見てそう呟く。
「やめなさいよヒョウガ。お客様に失礼よ」
「いて! だって恵子(けいこ)ちゃん。この喫茶店、客なんて俺とアキラの
友達ぐらいしかこないだろ?」
「あ、あのー・・・・」
「あ、はい。失礼しました。お好きな席について下さい」
 恵子は太陽のようなスマイルで接客する。
「いえ、その、教会はどちらにあるのでしょう?」
「え? ああ、教会ならそこの信号を左に曲がったところにあるぜ。
 そうそう、俺は神崎彪雅(かんざきひょうが)だ。
で、この娘が、この店のマスターの神埼恵子(かんざきけいこ)。俺の従妹さ」
 彪雅が説明すると、真理逢は慇懃な態度でしとやかに一礼をする。
「それはどうもご丁寧にありがとうございます。私は真理逢と申します」

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