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●九重神一郎(ここのえ じんいちろう)
 九重神一郎は大きなミラーシェイドをかけた身長190pの大柄な体格をコ
ートで覆い、その顔には大きな傷跡が彼の過去の影を無言で語りかけていた。
 物陰に隠して、鋭い目つきで月のシンボルが描かれた喫茶ルナの看板を観察
する。
 神一郎は地図を見ながら喫茶ルナを確認して、様子をうかがっている。
 神一郎が喫茶ルナからクリスチャンのシスターの恰好をした女性が出るのを
確認すると、喫茶ルナに入る。
 カランコロン
「いらっしゃーい」
 神崎恵子の声が喫茶店に響く。
 ジンはカウンターにふてぶてしく座ると、重々しい口調でブレンドコーヒー
を注文し、喫茶ルナの周りを見渡した。まるでジンの視線で喫茶ルナの中を撮
影するように・・・・。
「はい。かしこまりました。ブレンド一つですね」
 にこやかな接客は恵子の十八番であるし、実際、恵子は人を外見で判断した
りはしないようだ。
 だが、神一郎が頼むときに見せた義手はさすがの恵子も驚いたようだ。
「2、3聞きたいことがある。
 この男を捜しているのだが、見たことはないか?」
 神一郎が一枚の写真を恵子に見せる。
「まてよ。ずいぶん無礼じゃないか?」
 恵子より先に口を出したのは彪雅だった。彪雅は今にも神一郎に殴りかかりそ
うな勢いで睨み付ける。
「客が道を尋ねるように、俺は子の写真の男を見たことがあるかどうか聞いて
いるだけ・・・・」
 彪雅が喧嘩を売るような態度でジンに言うが、恵子が間に割って入ってきた。
「彪雅、やめて。この写真の人を見たことがあるわ。たしか・・・・そう、教会の
牧師さんが記憶喪失の人の身柄をしばらく引き取っていたはずよ」
「ありがとう・・・・」
神一郎は一言礼を言うと、喫茶ルナからでていった。

●轟丈太郎(とどろき じょうたろう)
 轟丈太郎は、元、バイクレーサーにして、ロックバンドのベーシストだった。
しかし、理由は不明だが、今では、喫茶ルナの配達のバイトをしている。LD
は通信網が発達しているため、ヴァーチャルタウンによって買い物をすること
が常識となっている。つまり、自宅にいながら買い物をし、商品が手元に届く
とのだ。
 その為、どのような飲食店でもよりスピーディーな宅配便は欠かせないもの
になっている。
 丈太郎は店の前にバイクを止め、ヘルメットを脱ぎ、長めの流れるような上
を首を振って右手で軽く整えると、バイクのキーの形をしたイヤリングをした、
10代後半から20代前半のいかにも、生意気そうな顔が現れる。
 年上の女性から言わせれば可愛い、年下の女性からいわせればかっこいいと
言うぐらいの差はあれど、生意気だがどこかにくめない雰囲気があった。
 ジョーはヘルメットを抱え、喫茶ルナへ入る。
「ただいま!」
「あ、おかえりなさい! ジョー。早かったわね」
 丈太郎ことジョーは恵子の笑顔を独占したことに一瞬の満足感を感じる。彪
雅は少々恨めしげにジョーを見る。
「あれ? ジンさんなんでここにいるの?」
 ジョーは神一郎に向かって質問する。
「え? 知り合いなの?」恵子がすかさず質問する。
「ああ、俺のバイト先の探偵事務所の探偵・・・・」なぜジンがここにいるのかと
いいたげにジョーは言った。
「人捜しの仕事だよ」ジンがぶっきらぼうに言う。
「ああ、そうなの? 彪雅さん。大丈夫だよこの人。見たくれと口は悪いけど、
悪い人じゃない」
「ジョー、一言多いぞ」とジン。
「一応、フォローしているつもりなんだけどなぁ」
 ジョーは皮肉な笑みを浮かべてそう言った。

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