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Sun Of Night

樹は果実にて知られるなり
 思えば、何事の評価も、価値も終わらなければ判断などできないはず
である。
まさしく、目の前の樹木が、何の木であるか知るためには、その果実
を見るまで解らないように・・・。
 しかし、人は樹木が果実を結ぶのを待たずに、樹を知ろうとする。
何も見えない闇の中。
 否、人は闇の中に光を見出す。人は真実を知っているのだ。闇の中の
太陽を。

●マツドLD
 LD内でけが人や急病人が出た時は、その通報が入り次第、医療ロボ
ットを搭載した救急車が向かう。救急車の中にある医療ロボットは全て
UNIT64により管理され、額に埋め込まれているICチップのデー
タを元に適切な治療を行うシステムになっている。
 また、医療ロボットと病院の医師とはオンラインで繋がっており、医
療の細かい動作は医療ロボットを遠隔操作で行う。ただし、現場にて医
療するか、病院まで連れてきてから治療するかは担当した医師の判断に
よる。

●九重神一郎(ここのえじんいちろう)@
 喫茶ルナで、連続猛獣殺人事件のヴィジョンメールを見た九重神一郎
は、その事件が近所でおきたことを確認する。
 自分のテリトリーでおきた事件となれば、指をくわえているわけにもいか
ない。
 ジンは、ミラーグラス越しに轟丈太郎に視線を移す。
「おい、ジョー。ちょっとこの近くの教会まで乗せていってくれ」
「OK」ジョーがウィンクしながら小脇に抱えたヘルメットをジンに渡す。
「おい、待てよ。事件の調査なら、俺達、警察の仕事だ。見物なら遠慮
して貰おう」
 タバコの火を消しながら、神崎彪雅はジンを呼び止めた。
「そこのガキ達みたいに野次馬に行くんじゃない。俺には俺の仕事があ
る。その仕事のために行くだけだ」
「あ、耀! お前らも現場に行くんじゃない」
 彪雅はルナの出口で急いでコーヒー代を清算している耀の悪友達を呼
び止め、ルナの奥へ連れていき、彼らに説教をはじめる。
 ジンはその間に、恵子に直接コーヒー代を渡し、ジョーと共にルナを
出ていった。

●真理逢(まりあ)@
「もしもし、どうなされました?」
 真理逢は教会の門から出てきた黒のラバースーツに身を包む、血だら
けのけが人を見てそう声を掛けた。
 けが人のことは心配しているのだが、重傷のけが人にかかわるにはい
ささか緊張感に欠けている。
「困りましたわ。そうだわ。一度教会で応急手当をしましょう」
 真理逢は怪我人が教会から出てきたというところには全く疑問を感じ
ていないようだった。
「ま、まて、教会は・・・・危険だ。出来るだけ遠くへ・・・・」
 怪我人は朦朧した意識の中で真理逢を認識し、気力を振り絞って真理
逢にそう言った。
 しかし、真理逢は首を傾げる。
「? 何を仰っているんですか。神の名の下に教会の扉を叩く者はみな
救いの手をさしのべられます」
 真理逢は小さな体でけが人を教会に運び込もうとしたがピクリとも動
くはずもない。
「・・・・たのむ・・・・」
 男は真理逢にそう言うと、かろうじて保っていた意識を失ってしまっ
た。
 真理逢は確かに教会に連れて行くよりも救急車を呼んだ方が得策だと
考え、路上にあるターミナルポイントを探した。
 LDでは標識の数よりもUNIT64に接続可能なターミナルポイン
トが複数存在する。
 そのターミナルポイントは郵便ポストの様な形をした端末で、蓋のよ
うについている扉を開くと、端末についている小型カメラに真理逢の姿
が写し出され、ディスプレイには鏡のように真理逢自身の姿が写し出さ
れている。
「ゴリヨウアリガトウゴザイマス。ICチェックヲイタシマス」
 電子音によって作り出された味気のない声が鳴り終わると、真理逢の
ICチップを確認した。
「チェック終了いたしました。ご用件をどうぞ」
 チェック終了後、オペレータの顔が写し出された。
「けが人がいるんです。救急車を」
「解りました。真理逢様。念のために怪我をされた方のチェックをした
いのですが・・・・」
そう、オペレーターが言いかけると、一瞬だけディスプレイにノイズ
が入る。そしてディスプレイの向こうにいたオペレータの姿はなく、初
期画面に戻っている。
「リョウカイシマシタ。ソチラニキュウキュウシャヲムカワセマス」
 端末のディスプレイはピーという電子音と同時に眠りについたように
消えてしまう。
 そして、5分も経たないうちに救急車が訪る。
「あ、来ましたわ。ここですよ〜」
 真理逢は路上で上品に手を振りつつ、自分たちの居場所を救急車に知
らせる。
 救急車が到着すると、後方のドアが開き、キャタピラをつけた6本の
腕をつけた救急ロボットが降りてくる。
 救急ロボットはすばやく正確に男の傷口に応急手当をすませる。
その光景を真理逢は感心しながら見ていた。救急ロボットの応急処置が
終わると、ロボットは救急車にナイトを乗せる。
「待って下さい。私も行きます」
「それは駄目だ」
 不意に救急ロボットのスピーカーから中年ぐらいの低い男の声が聞こ
えてくる。
「なぜですか? 理由を教えて下さい」
「・・・」一瞬の沈黙。「確かにあなたは付きそう権利を主張できる」
 男の声には焦りと動揺が見え隠れしていたが、それ以上なにも言わな
かった。
 走り去る救急車を追跡する1台のバイクがあった。

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