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SUN OF NIGHT
汝ら人を裁くな、裁かれざらん為なり

●轟丈太郎
 教会の朝は、早い。轟丈太郎が目覚める頃には、既に、真理逢は朝の祈り
を始めている。
 ジョーは今日も寝坊したと思い、起き上がろうとすると、妙に体が重く感じた。
(やべぇ、そういや、そろそろメンテの日だ。
 今日にでもメンテに行かなきゃな)
 そうして、ジョーの朝が始まった。
 ジョーが礼拝堂に行くと、エレン、十六夜、綾小路ゆうあとジョー以外の教会
の住人が真理逢の祈りの言葉を復調していた。
「あ、おはようございます」
「あ、丈太郎さん。おはようございます。お疲れの事だとは思いますが、都合が
悪くなければ、朝のお祈りに間に合うようにしていただけませんか?」
 真理逢の言葉には、ひとかけらも皮肉が無いだけに、ジョーの胸には罪悪感
と自己嫌悪の矢が突き刺さる。
「んぐ、努力します。シスター。それより、一つ提案。っていうか、お願いがあるん
スよ」
「なんでしょう?」とまりあ。
「いえ、今度の日曜日、この教会を俺たちのバンドのライブの会場にして欲しい
んです」
「まぁ、日曜のお祈りと賛美歌を詠っていただけるんですの?」
 真理逢は祈るように両手を組み、キリストの像を見詰めて目を輝かせる。
「いや、賛美歌と言うか、ライブです」
「らいぶ?」
「えっと、こんな楽器をつかって演奏するんですよ」
 ジョーがベースを取り出して演奏するふりをした。
 真理逢は楽器が何か関係あるのかわからないといいたげに首をかしげる。
(う〜ん、ちょっと食い違いがあるけど、ま、いっか)
「じゃぁ、とりあえず、仲間を呼んで、ライブをします。収入は教会の修復にってこと
で」
「いけませんわ。日曜学校ではお金を取るわけにはいきません」
 真理逢はキッパリそういった。
(はは、まぁ、やつらには練習ってことで言っておこう)
 ジョーは、バンド仲間のイーグルに携帯端末で、電話をかけた。
 ディスプレイに容姿の整ったハンサムでワイルドな印象の男性が映る。彼がイー
グルである。
「あ、イーグルか。教会で練習をするつもりだけど、チキンと新しいボーカルを連れ
てこれる?」
「教会? どこの教会だ?」
「ほら、喫茶ルナの近くにある」
「だったら、新しいボーカルを口説き落としておいてくれ」
「なに?」
「マネージャーの話だと、そこのシスターともう1人の女性のダブルボーカルで行きた
いらしい」
「まて、真理逢さんとエレンのことか?」
「あ、知り合いか? だったら、話が早い。今日にでもチキンと一緒にそっちに向かう
から、それまでに話をしていてくれ」
 イーグルは一方的に電話を切った。
「まてよ。なんでおれが…」
 ジョーは苦笑するしかなかった。

●AT−0023
 エレンは真理逢の後をついて歩いた。施設を出てから、自分が話せる人間は牧師と
シスターの真理逢だけだった。
 最近、教会にいる、轟丈太郎、綾小路ゆうあ、十六夜らは、まだ不可解な存在であっ
たが、他の人よりも慣れてきた。
「あ、真理逢さん、エレン。ちょっといいかな?」
 さわやかな笑顔を少しだけ引きつらせているのは、ジョーである。
 エレンと真理逢は振り返る。
「いえ、たいしたことではないんです。この前、こんな顔の男と話をしませんでした?」
 ジョーは、元、マネージャーの画像ファイルを見せる。
 エレンは無言で頷くが、真理逢は必死に思い出そうとしている。
「いえ、エレンとシスターに歌を歌わないかっていったらしいんスけど」
「まぁ、あの方でしたら、憶えていますわ。でも、お急ぎのようで…それがなにか?」
「いえ、その歌を歌う時、俺たちの伴奏で歌いませんか。っていう誘いだったんですよ。お
二人とも歌は歌えます?」
「まぁ、ジョーさんと? 私は大丈夫ですわ。賛美歌で練習していますもの」
 真理逢が微笑み頷くと、エレンも静かに頷く。
「なにか曲を弾いて…」
 ジョーはおもむろにアコースティックギターを取り出し、簡単な曲を弾いた。
 すると、エレンはジョーのギターに見事に合わせた。真理逢もそれにあわせて歌いだす。
 エレンの歌声はなんともいえない甘い旋律が聞こえてくる。船乗り達を歌声で惑わしてし
まうセイレーンの歌声を連想させた。
 対して真理逢はエレンの静かな盲目の誘惑の歌声とは対照的に、聞く人間に希望を沸
き起こさせる力強さを感じさせた。これだけ対照的な声が上手くかみ合う歌声に惹かれて
やってきた、綾小路ゆうあはエレン達の歌声に聞き入っていた。

 時間は二人の歌声とともに過ぎると、教会に二人の訪問者が現われる。身長、2メート
ルほどの赤いモヒカンのサングラスをかけた男と、身長180ぐらいの弾痕をのついたリー
ドギターを背負った、左手がサイバーもろだしのハンサムな男性だった。
「よぅ、ジョー。約束どおり、チキンをつれてきたぜ」
 左手がサイバーの男がジョーに言う。
「イーグル…」
 ジョーがバンド仲間達に笑みを返そうとした瞬間。ジョーは、糸の切れたマリオネットのよ
うに倒れてしまった。
「ジョーさん! 大丈夫ですか?」
 真理逢がジョーを起こそうとするが、見かけよりも重いジョーを起こしきれない。
「悪いな、シスター。ジョーは着やせするタイプなんだ。俺たちがすぐに病院に連れて行くよ。
そうそう、ライブの準備は頼んだぜ」
 イーグルが言うと、真理逢が抱き起こそうとしてピクリとも動かなかったジョーの体が、チキ
ンが抱き上げるとジョーを軽々抱き上げられた。

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