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SUN OF NIGHT
新しい葡萄酒は新しい皮袋へ入れよ

●ナオ・ベルディス
 ナオ・ベルディスは、花岬明子と名乗る女性を追い、教会へ忍び込む。
「どこに行きやがった……」
 この胸の苛立ちの意味を知りたくて、ようやく見つけた現況。
(何が目的だ? 何をしているんだ?)
 ナオはこの教会で何か起きようとしているのか考えた。
 そういえば、確か、チラシを配ってたのはシスターだった。
 すると、明子の人影を見かける。
「まて!」
 ナオが声をかけると、明子は振り向きもせずに走り出す。ナオは駆け
込み、明子に追いつく。
 ナオは彼女の腕を手加減しながら左手で掴んだ。
「何をしているんだ? 何かの実験か? 俺の左腕の感触、あれはなん
だったんだ? あんたは何者だ?
俺から逃げるのは簡単だろう。でもな、巻き込まれた俺は納得できない
んだ。教えて貰おうか
 ナオは矢継ぎ早に質問をとばす。
「それは俺が応えるよ」
 ナオの背後から聞こえてくる若い男性の声。
「だれだお前」
「神崎耀。LDD計画のために作り出された実験体だよ。そこにいる、
花岬明子もにたようなものだ。俺の父、神崎博史の手のひらでの出来事
さ。
 これから、おきることは、LDD計画。このLDを破壊する計画だよ。
 実験とは、LDD計画に必要な究極兵器、ハヌマーンの実験。
 お前の左腕の感触は、花岬明子がお前にかけた催眠術のようなもので、
現実に体験していない記憶を植え込む実験だったんだよ。
 植え込まれた記憶はその人間にとって現実になる。
 まさか、その実験台がハーフサイバーだったというのは、誤算だった
けれどね」
「貴様! 俺の体をなんだと思っていやがる!」
 ナオは怒りに任せて、左腕で耀に殴りかかるが、教会の壁に一つ穴を
増やすだけだった。
「すまない。と思っている。LDD計画は、どんどん、関係の無い人間
を巻き込んでいるからね。花岬明子をはじめとする、実験体は、あるD
NAのパターンが欲しかったんだ。
 それが殺された被害者達・・・」
 耀は全ての責任は自分にあると言いたげだった。
「で、そのLDD計画ってのをどうするつもりなんだ?」とナオ。
「この手でぶち壊す。どんな理由があっても、親父、いや、神崎博史の
やっていることは人間として間違っている」
「・・・協力してやるよ」
「え?」
「協力してやるって言っているんだ。LDD計画だか何だか知らない
が、結局、俺たちの住処をぶっ壊そうとしているんだろ? だったら、
それは俺の敵だ」
「・・・本気?」
 耀の質問にナオは無言で頷く。
「恵子姉さんを頼みたい」

●AT−0023
 花岬明子と名乗る女性は、エレンに対して、神崎博士の作り出した操
り人形だと言った。そして、エレンの『声』を利用して、LDの人間を
洗脳しようとしているとも。先日、教会で開催されたライブで歌った曲
は、LDの人間を洗脳しようという、神埼博士の計画だったとも。
 花岬明子は、エレンに操り人形である事をやめて、自分と協力しあう
ことを提案してきた。
 エレンは花岬明子の提案を断った。
 利用されると言うことは、利用する人間の役に立っていると言うこと
だからだ。
 そして、なにより、エレンには新しい仲間がいる。
 エレンは新たな仲間と共にレコーディングを行っていた。もう一人の
ボーカルの真理逢も、ベースギターの轟丈太郎も姿を見せていない。
 イーグルの話だと、レコーディングは別に、全員が集まらなくても、
後の編集で合成すればよいと言う事だった。
 すでに、ライブで演奏者達のデータは取れているため、そのデータに
基づき、演奏をシュミレーションし、レコーディングが可能となってい
るのだ。
 防音ガラス越しにハーフサイバーのイーグルと赤いモヒカンの大男の
チキンが笑顔でエレンを見守る。
 エレンはこの二人がいるとなんとなく安心できた。
「不思議ね。あのリズム以外でも、こんな気持ちになれるなんて」
「どうしたエレンなにか言ったか?」とイーグル。
 エレンは「なんでもない」とポツリという。
「その・・・エレン・・・今度、デートしないか?」
「え?」
 エレンはイーグルから発せられた言葉に耳を疑った。そして、イーグ
ルに言われた瞬間、自分の胸が高鳴ることに気が付いた。
 その瞬間、悪夢の幕が上げられた。
 首の無いチキンの巨体がイーグルの背後を舞い、壁にたたきつけられ
る。イーグルがそれに反応し、チキンが飛んできた方を振り返ると、巨
大な腕がイーグルの首をつかみ、そのまま、防音ガラスにたたきつけら
れ、イーグルの首は不自然な方向へ曲がる。
 防音ガラスは蜘蛛の巣のような亀裂が入ると、光を乱反射しながら、
雨のようにエレンに降り注ぐ。
 エレンは目の前の現実が受け入れられず、呆然としていた。
 イーグルを防音ガラスにたたきつけた男は、チキンよりも大男で、背
中から4本のギミックの腕が飛び出ており、そのうちの1本の腕の手の
中に、チキンの首が握られていた。
 大男は防音ガラスの破れた窓をまたぎ、凶暴な笑みを浮かべて、エレ
ンの首に手をかけた。
「AT−0023。貴様の役目は終わったそうだよ」
 エレンの脳裏にイーグルの顔が浮かぶ。そして、エレンが自分の意識
が薄れていくことに恐怖を感じた。
「イヤ・・・忘れたくない・・・」
 エレンの瞳から一筋の涙が流れ落ちた。それは命が失われることより
も、大切な思い出が失われ方が哀しいから・・・・。
 エレンの死を告げるように、涙の雫がゆっくりと床に落ちた。

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