●フォルスの塔
「き、君は誰?」
動揺していても、それなりにこのような突発的なトラブル(?)には慣れているムーンティア・エクセリオンだが、さすがに、今回のようなケースは初体験だった。
「わしか? わしの名はフォルス。この体の祖父だ」
パッセルの身体はそう名乗った。
「なんで、パッセルのお爺さんがパッセルの体の中にいるの?」
「きゃつの第2の封印が解けたことを警告するためじゃ」
「きゃつ? 封印? それって、あなたが封印した悪魔のこと?」
「パッセルから話は聞いたようじゃの。
その通りじゃ。封印のことを聞きたそうだが、あいにく封印が解けたことにより、わしも成仏せんと、きゃつの一部になってしまう。
とにかく、封印に興味を持ったならシンとか言う男を捜せばいいじゃろう。
それと、きゃつを封印する方法を書いた巻物がこの塔の書庫にあるはずじゃ。それでは、肉体の死と精神の死の両方の死を迎えたわしは大人しく成仏することにしよう」
「まって、シンって、シン・マーベリックのこと?」
ティアは必死に質問するが、既にパッセルは力無く倒れた。
ティアはあわててパッセルを抱き起こした。
「パッセル! パッセル! 大丈夫!?」
「う〜ん、あ、おはよう、ティア。なんだか体が重いな・・・・
今日は商人の広場を案内するよ。あ、そうそう、僕とティアが友達の間、友達の印にこれを貸して上げるよ」
そう言うと黒曜石のブローチをティアに渡す。
その指輪は、黒曜石に眠れる美少女のレリーフが施され、それを囲むかのように星のように輝く小さなダイヤの粒が埋め込まれていた。
間違いない、ジャール・デミナスの夜のやすらぎだ。
ティアはそんなパッセルを見てホッと胸をなで下ろしつつ、お礼を言いながら『夜のやすらぎ』を受け取った。
●娼婦宿
ここでの朝は日が高く昇ってからなのだが、今日は特別早い。
部屋にあった4枚の絵画の内、朝の目覚めと呼ばれる絵画が自然発火した為である。
すでに火は消し終わり、太陽も大分高くなっている頃、その部屋にはジョアンナとシャウティーの2人だけがいた。
「私、絵に頼まれたんです。
絵が解放して下さいと言ったのです。
パッセルさんの魂があの絵の中にあるそうです。
たぶんパッセルさんの魂がすべて解放されると、絵はすべて消失するでしょう。申し訳ありません。
今の私にはこの程度しか言えません」
シャウティーが静かにジョアンナに告白する。
「そうかい。いきさつは分からないが、この絵の中にパッセルの坊やの魂があるんだね」
ジョアンナはシャウティーの言葉を理解したようで、ゆっくり頷く。
「となれば、あんたに話しておかなきゃいけないことがある。
それは、パッセルの祖父の話だ。
パッセルの祖父は、あの尖塔に住んでいた大魔法使いなんだけど、名前をフォルスという。
フォルスは10年前、この街を脅かしていた悪魔を退治するため、1人の勇者と1人の邪神の神官をつれて悪魔を退治したことになっている。
だけど、事実は違う。
悪魔は退治されたわけではなく、封印されたんだ。その魔力と記憶をね。そして、その封印の媒体に使われたのがシグルーンという旅の女性だった。まったく、あたしから言わせれば、フォルスというのも大した悪党だよ。
1人の女性を犠牲にして、それを隠しておくなんて・・・・。奴の話じゃ自分から申し出てきたって話だけどあたしは信じないね。だって、関係ない街の危険に旅人が体を張れるかい?
まぁ、何はともあれ、封印に成功したわけさ。
だけど、あたしの勘じゃ、孫のパッセルも関わっていると思うんだ。あんたが、パッセルの魂のことを言ったときピンときたよ」
「・・・・そんなことがあったのですね」
シャウティーはジョアンナの話を聞くと頷きながら言う。
「それと、お昼になったら、またこっちに来な。いろいろ調べてくれたお礼に秘密の場所に連れていってやるよ。女の喜びを教えてやるからさ」
ジョアンナの冗談とも本気とも取れない言葉にシャウティーは苦笑いをした。
呟き尾形 2006年6月4日 アップ
呟き尾形 2014年6月1日 修正
呟き尾形 2014年8月31日 修正
|