●白き雌鹿亭
シンは、白き雌鹿亭に着く。
白き雌鹿亭には、ちょうどシンが来る直前に先客がいた。
線客は、黒で統一された服を着ており、神官のようだった。
黒で統一された服を着る神官といえば、それは7邪神の神官である。
7邪神とは、7つの悪徳を司る邪神の総称である。
邪神の神官ともなれば、それだけで騎士であるシンとは敵対する関係になる。
とはいいつつも、状況がハッキリしないところでむやみに襲い掛かるわけにもいかない。そこで、シンはとっさに物陰に隠れた。
邪神の神官は、年齢から言えば白き雌鹿亭の親父とほぼ変わらなさそうである。
神官は『展覧会の絵』に飾られていた絵画に描かれている神官にも似ていなくも無かった。
「では、いい返事を待ってるわ。バハトゥーン」
確かに神官は、野太い声で白き雌鹿亭の主人にそう囁いた。
シンは気づかれないようにそっと神官と白き雌鹿亭の親父を観察する。黒の神官とバハトゥーンと呼ばれた白き雌鹿亭の主人の2人は鋭い眼光でに睨み合う。
二人とも今にも戦いそうになる殺気を放ちつつも、白き雌鹿亭の親父は、すぐさま何処にでもいる男の雰囲気に戻った。
そして、邪神の神官は、白き雌鹿亭を裏口から出ていった。
シンは、邪神の神官の事など気付かないふりをして、白き雌鹿亭に入る。
「おお、今日は帰ってきたか。
なんとも2人して違うところにお泊まか?」
白き雌鹿亭の主人はシンに声を掛ける。
「ちょっと・・・ね。
でも、2人して・・・・って事はティアは帰ってこなかっのかい」とシン。
「ああ、パッセルと一緒に出ていったから、奴の家にでも泊まったんじゃないのか?」
「えっ?
・・・・・・・・・・・・・・。
は、はは、ティアのことだがら新しい友達でも見つけたのかな」
そういいながら、シンの言葉は軽く震え、動揺を隠せずにいた。
シンは、平静を装いながら、動揺をごまかすように不自然なあくびをしたあと、階段を何段か踏み外しながら、2階に上がっていった。
●白き雌鹿亭の部屋にて
部屋に戻ったシンは、懐から金の髪飾りを取り出す「昼の輝き」である。
一見すると細かい装飾のされた髪飾りなのだが、シンがこの装飾品を調べていると、髪飾りの見えない部分と言えど、きちんと装飾を施しているはずの部分に、凶器がとりつけられていた。
そんな小さな凶器でも、標的の急所を狙えば標的の命は奪える。
いわゆる暗器である。暗器・・・身体に隠し持つ事が出来る小さな武器である。こうした武器は戦闘のプロでもある騎士のシンが良く知っていた。
そして、この髪飾りの不審な点は、ここまで美しい装飾をする職人が、こう言った物のたぐいのものをつくるだろうか?
という疑問が浮かんできた。
なぜ、こんな物がつくられたのだろう?
シンはこの疑問を持たずにはいられなかった。
「ん?」
シンは、凶器と髪飾りが無理矢理点けられていることに気がついた。
(なるほど、装飾品が出来た後、凶器は後からつけられた。
ってことか)
シンは心の中でそう呟いた。
呟き尾形 2006年7月2日 アップ
呟き尾形 2014年6月8日 修正
呟き尾形 2014年9月7日 修正
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