テーマ「詠嘆法」
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邂逅
「バーカ」
オレは誰に言うでもなく、そう呟いた。
何の変哲も無い夜の繁華街。
無意味にきらめくネオンの下で、映画の背景のように人々
が歩いていた。
そんな夜の繁華街
突然の土砂降りに出くわした道行く人々は、同じプログラム
を組み込まれたロボットのように、一斉に雨宿りをする。
気がつけばここは、思い出深い特別な場所だ。
思えば、彼女と出合ったのも、この場所だったし、こんな土
砂降りの日だった。
3年前、オレは大事なクライアントに重要な書類を渡すた
めに、この場所を歩いていた。
すると、なんの前触れもなく、大粒の雨が降ってきた。
オレは、自分の手にした書類が重要なものであったことを
忘れて、反射的にその書類の入った封筒を傘のかわりにし
てしまった。
そのことに気がついたのは、オレが雨宿りする場所につい
て落ち着いたときだった。
「ああ! しまったぁぁぁぁ」
オレが思わず叫んでしまうと、隣からクスクス笑う声がする。
オレがあわてて隣をみると、ショートカットのセーラー服の
女子高生がいた。
「な、なんだよ」
「なによ、私が先に雨宿りしてたのよ。それを私を押しのけ
て割り込んでくるなんて。
大人の癖に」
彼女はそう言って私の鼻先を指差した。
「そ、それは・・・ごめん」
「いいわよ。そのかわり、お昼はおごってね」
それが、オレと彼女の出会いだった。
今にしておもえば、それは、オレの人生において運命的
な出会いだったのかもしれない。
それから、オレと彼女は、場所を決めて落ち合うように
なった。
現代において、プラトニックという言葉は死語かもしれな
いが、オレと彼女の付き合いは、まさにプラトニックだった。
それはオレも彼女も望んだ事ではあるが、オレは何か
を欲していた。
そして、その欲するものに出会ったとき、オレは誘惑に
負けた。
それが、別れのキッカケだった。
「どうして、どうして浮気なんかしたの?」
「うう、いや、その・・・なんだ」
オレは言葉が詰まった。彼女の事は好きだし、ウソを
着きたくは無い。だが、ここで認めてしまって良いものか・・・。
その時、ふと、テレビで見たことを思い出した。
行動主義心理学というものがあり、行動主義心理学は、
”人間もまた動物の一種である”という発想に基づいて研究
しているそうだ。
確かに、分類上、人間も動物の一種であることは間違い
ではない。
実際、有名なものでは、条件反射で有名なパブロフの犬
がある。パブロフの犬の実験は、有名だ。
まず、犬を狭い部屋に閉じ込める。
次に、犬にメトロノームを聞かせます。当然、犬はその
メトロノームの音に耳をそばだたせる。
次にエサを与えます。すると犬は食べながら唾液を出
す。
これを何度も繰り返せばやがて犬はメトロノームの音
を聞いただけで『エサが貰える』と判断し、唾液を出すよ
うになるというわけだ。
現代の日本人なら誰でもしっている条件反射だ。
オレは、これに納得していた。
その時、ふと、一つの言い訳を悪魔からささやかれた。
動物は一定期間を経ると、遺伝子を幅広く残すため
に数多くのメスと交尾しようとするということを、人間に
当てはめて、人間は動物である。
動物のオスは、数多くのメスと交尾をしようとする。
ゆえに、「男が浮気するのは自然なことである」
という、三段論法を繰り出してしまったのだ。
もちろん、自分でも詭弁だとしっていた。
だが、そのときは立て板に水を流すように、理路整
然と説明できてしまった。
自己の正当化を言い終えたとき、彼女から一筋の
涙が流れ落ち、無言でオレの詭弁を論破した。
「もう・・・もういい。サヨナラ」
彼女はそう言ってその場を立ち去った。
出会いは偶然、別れは必然というが、まさにその通
りだった。
それから、3年間というオレにとっては長い長い時間
がすぎた。
大切な存在は、失われてその大きさを知るというが、
まさにその通りだった。
つまらぬ見栄が、大切なものを失わせ、自尊心を
自ら捨て去ったのだ。
自業自得だ。
土砂降りは続き、大粒の雨はオレの全身に当たる。
繁華街のネオンが道に出来た水溜りと水しぶきを
きらびやかに照らす。
「バーカ」
オレはもう一度、自分自身に言った。
不意に、雨がピタリと止んだ。
いや、目の前はまだ土砂降りの風景だ。
「ば〜か!
風邪ひくぞ。君と逢いたくて、君の会社に入ったん
だから。
まったく、 君とここで遭遇するなんて思っていなかっ
たぞ」
オレは目を疑った。
彼女が、オレに傘を差してくれたのだ。
やっぱり、3年前の出会いは運命の出会いだったの
だ。オレはそう確信した。
セーラー服姿だった彼女は、OLになったのか、ショー
トカットから肩にかかるぐらいの長さになっていた。青
いスーツ姿ですっかり大人の女性になり、時間の流れ
を実感させた。
そう、巡り合い。
「ああ・・・夢のようだ。
だけど、これは夢なんかじゃない。
好きだ。もう離さない」
「まったく・・・頭は冷えたみたいね。
それにしても、成長して無いね、大人の癖に」彼女
は、3年前のあの時のようにそう言い、ことばをつな
ぐ「いいわよ。そのかわり・・・」
オレは、この再会が幻で無い事を確かめるように、
彼女が言葉を言い終える前に唇を重ねた。
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★★★
レトリックトレーニングということで、詠嘆法でトレーニングしてみまし
た。
詠嘆法をつかってみましたが、感嘆詞の使いどころが難しいですね。
もともと、日本語には感嘆詞はあまり使わないからでしょうかね。
ともあれ、不自然な台詞でなければいいのですが、なんとも自信がありませ
ん。
で、この詠嘆法については、
修辞法について:呼びかけ法、詠嘆法を参照してください。
呟き尾形 2006年9月3日 アップ