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トレーニング 皮肉法 懲役 人界30年

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 懲役 人界30年

 ボクは死んだ。
 まぁ、短いようで長い30年だった。
 辛い事もたくさんあったけれども、それなりに楽しい事もあった。
 満足な人生だった。といえばウソになる。
 思い起こせば、自由なようで、何者かに見張られているかのように、不自由な
人生だったようにも思える。
 矛盾だ。
 だけど、この手の矛盾はなにも自分だけじゃない。
 矛盾だらけの社会。
 つじつまのあわない正義がはびこり、不正が蔓延する世の中。
 偽善だらけの法律に縛られた世界だった。
 世間は神や仏をあがめるけど、その教えとは裏腹に、心の中では舌をだして、
都合のいいように解釈しているなんてことは、誰もが知っていた。
 矛盾、不正、偽善がありながらも、なぜか秩序をもって社会は確実に運営され
ていた。
 そんな矛盾、不正、偽善をかかえていながら、崩壊しなかったのは、まさに奇
跡だといえるだろう。
 神の見えざる手でバランスをとられているといったのはルソーだったか、ル
ターだった、ルパンだったか今ではどうでもいい事だ。
 本当に素敵な社会。
 すばらしい世の中。
 みごとな世界だった。
 死んだらすべてが消えてなくなると信じ込んでいたのだが、どうもそうでもな
いらしい。
 なんといっても、ボクの体が火葬され、ボクの遺骨が墓場に埋められるのが見
れるというのだからなんともすごい。
 だって、現代人の多くの人は脳で思考していることを確信している。
 その脳が灰になれば脳としての機能はされないのに意識があるのだから。

 とりあえず、ボクはボクの墓の前で、お供え物の酒をちびちびのんでると、ひ
とりの子供がボクの墓石の中から飛び出てきた。
 タイヤのゴムのような、真っ黒な体。
 先が矢印のようにとがった触角。
 背中から蝙蝠のような翼。
 片手には三叉の矛というから、悪魔の子供がそこにいた。
 いわゆる、小悪魔だ。
「二代目、おちゅとめ、ごくろうちゃまでちゅ」
 小悪魔は、子供のクセにうやうやしく、ボクに礼をする。
 まるで、ボクがやんごとなき身分みたいじゃないか。
 でも、それよりも・・・。
「二代目?
 それに、お勤めってなに?」
 ボクは、疑問を思い浮かべると同時に口に出した。
「ああ、おちゅとめのときの記憶がのこってるでちゅね」
 生意気にも小悪魔は、なんでもしっているように何度かうなずく。
「ボクは夢を見ているのかな?」
 ボクは、今は無い顔を引きつらせるような口調で小悪魔に言った。
「いえいえ、二代目。
 二代目は、お神につかまって、懲役人界30年だったんでちゅよ」
「えっと、ボクが二代目って何の二代目なの?」
「そりゃ、魔王組みの二代目でちゅ。
 二代目がお勤めしている間に地獄組みに魔界のなわばりもずいぶんやられまち
たが、二代目がいればなんとか巻き返しができるでちゅよ」
 ゆ、夢だ。夢にきまっている。
 冷静に考えれば、ボクが死んだなら、いまのボクの意識なんてあるわけがない
のだ。だったら、話はわかる。
 ボクは死んだのではなく、眠っているだけなのだ。
 そうすれば、心の座である脳は夢の世界になくてもいい。つじつまはあう。
 まぁ、夢の中で夢判断するのもなんだけど、墓はたしか、家系とか一族とか関
係するから、結婚を象徴するんだったよな。
 とりあえず、30だから結婚を意識してもおかしくない。
 小悪魔は多分、ボクの欲求不満の象徴なんだろう。
 小悪魔だってところが、救いがあるような、ないような。
 じゃぁ、ボクの欲求の小悪魔の言う事に乗るのも悪くない。
 どうせ夢だ。せいぜい楽しもう。
「っは、じゃぁ、ボクは人界でみごと公正したってことなか?」
「ありゃりゃ、お神の思惑通りになりまちたね。
 でも、人界の洗脳は強烈でちゅものね。
 記憶無くされまちゅち、人間なんてつまらない体に収められちゃって、お神を
あがめるように仕込まれるんでから。
 たくちゃんの悪魔が人界に」
「まったくだ。
 だけど、おかげで人界は素敵な社会になってたよ」
 ボクは意地悪な笑いを浮かべると、小悪魔は、さすが二代目とばかりに、悪魔
らしい邪悪な笑みを浮かべた。
「さすが二代目。新しい縄張りは、腐敗しきった人界ってことでちゅね」
「ああ、素晴らしい正義と法律のはびこる人界に乾杯だ」
 そして、ボクは、小悪魔と人界をあっという間に支配した。
 さすがに、夢の中だから、ボクもすごい力をもっていた。
 矛盾だらけの社会。
 つじつまのあわない正義がは、びこる不正が蔓延する世の中。
 偽善だらけの法律に縛られた世界なんて、本当にもろいものだった。
 小悪魔がボクのことを魔王の二代目というのはあながちウソじゃないようだ。

 それにしても、まだ目が覚めない。

 なんとも長い夢だ。
 そういえば、小悪魔が懲役人界30年とかいってたけど、あれ、もしかしたら
ホントだったかなぁ。
 まぁ、どっちでもいいや、人生夢幻がごとくなり。
 だもんな。 



 
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★★★

 レトリックトレーニングということで、皮肉法でトレーニングしてみまし
た。
  どのあたりが皮肉なのかといえば、私の造語で説明すれば、皮肉のスパイラル
構造です。
 現実に対する嫌味、なんでもつじつまを合わせようとする主人公(実は私自身
なんですけど(笑))に対する嫌味、現代科学の理屈に対する嫌味。
 こうした嫌味を、主人公の思考とストーリーに混ぜ込んで見ました。

 それでは失礼いたします


 で、この皮肉法については、

修辞法について:皮肉法、風刺法を参照してください。
 

 


 

 

 

 呟き尾形 2006年10月1日 アップ

 呟き尾形 2014年3月30日 修正

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