雷人のイロルは、雷人のある部族の族長の息子である。 
       一般に雷人は、アリスに与えられた自然と大地に住まう遊牧民族である。 
       それだけに、族長の息子が、天雄城の城下町にいるなど、かなり珍しいことだといえた。 
       雷人は、一般に中背中肉で筋肉質で精悍な男性的な顔つきであるが、イロルはまさにそれが当てはまった。 
      「塾長!」 
       凛とした声が廊下に響いた。 
      「はい。なんですか?」 
       振り返った青年は、塾長と呼ばれるには若くひ弱な印象を与えるものの、知的な印象を与える青年だった。 
       彼こそが、林星塾の塾長、林星康である。 
      「質問があります」 
      「どうぞ」 
      「人間の可能性とは一体どこまで広がっているのですか?」 
       漠然とした質問に、さすがの林星康も、一瞬言葉を失った。 
       そして、しばし林星康は思案した後、空を指差した。 
      「あの空はどのくらい高いと思いますか?」 
      「それはもう、どこまでも」 
      「どこまでもとはどれくらいですか?」 
      「無限です」 
      「それが、人の可能性です。 
       もし、イロル、あなたが空の高さに限りがあるとおもったとき、それが空の高さになります。 
       つまり、人の可能性というものは、各自が自分自身できめることなのです」 
      「しかし、人の出来ない事があるではないですか」 
       イロルは必死に反論する。 
      「そうですか。 
       それでは、それがあなたの限界だということです。 
       自分の限界を決めるのは、まさに、自分です」 
       林星康は肩をすくめてイロルを見やる。 
      「そ、そんな! 
       実際、失敗すれば、それは出来なかったという事になるではありませんか!!!」 
       林星康は、イロルの頭を軽くこづいた。 
      「まったく。 
       そこであきらめれば確かに、可能性はなくなります。 
       でも、何度失敗使用とも、何度でも挑戦すれば言いだけの話です。 
       成功するイメージを空想しなさい」 
      「空想・・・ですか」 
      「空想を単なる絵空事と思っているようでは、まだまだ勉強不足ですね。 
       空想は、自分の可能性をイメージするために必要なものです。 
       もちろん、これに行動力が伴わないと実現しないわけですが、いわゆる可能性ということに限定すれば、まさに、空想が可能性の枠につながるものです。 
       この能力を空想力としましょう。 
       空想力というのは、いわゆる、空想、夢想、想像を、所詮、頭の中だけの出来事とするのではなく、それを実現できると確信することです。 
       この力は、なんにでも応用できるものです」 
      「しかし、勝負に負けてしまってはどうにもなりません」 
       イロルは顔を真っ赤にして大声を出す。 
       それに対して、林星康はなれたもので、肩をすくめてから口を開く。 
      「だから、なんども勝負に負けても、勝つまで挑戦すればいいのです。 
       常勝しようと考える方が甘いのです」 
      「わ、わかりました〜」 
       イロルは、目を輝かせ、どこかへ走り出した。 
      「まったく、あの負けず嫌いは・・・。 
       まぁ、それがイロルのいいところでもありますか」 
       林星康はあきれつつも、イロルの日々の成長をうれしそうに含み笑いを浮かべながら、歩き始めた。
      
 
 
 
       呟き尾形 2006年10月29日 アップ 
        呟き尾形 2014年3月22日 修正 
      
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