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●入隊式

  サロンを急遽入隊式の会場に仕立て上げた後、アイアンホースに乗るパイロ
ット内部でささやかな入隊式をすることにした。
 これは、カイン・アベル中尉の提案である。目的は、これからのチームワークを
早急に作らなければならないため、できるだけ親睦を深めることだ。
 もちろん、アベルは入隊式をやったからチームワークができる。などとは思って
はいない。
 しかし、入隊式という儀式を行うことで、各自が自分の新しい仲間と出会うという
意識を持たせて会うことで、各自が新しい人間関係を作ろうと無意識に行動させ

る効果をきたいしていたこと。そして、なによりも、自分が新しい仲間になる人間を
観察する機会を設けたかったのだ。
 出席者は、リュウ・カノウ艦長、ケイ・ウインターホース大尉、カイン・アベル中尉、
シン・イチジョウ中尉、リュージ・サワムラ中尉、ラグナ・バナード少尉、ジャネット・
ラス少尉、アグ・ダムス少尉、グレイ・ルース準尉だった。
 ホンロン少尉は都合により欠席らしい。
「これで、ネィルアーガマ級に乗船するパイロット全員だな」
 カインが確認の意味を込めて言った後、ケイスに向かって言う。
「では、ウインターホース大尉、ご挨拶を願います」
「ああ、俺は、こう言った形式的なものは好きじゃない。だが、これから生死を共に
する戦友に挨拶ぐらいは悪くないと思っている。
 まず、俺のやり方は少々荒っぽいが、それが俺のやり方だ。覚悟して置け」
 ケイスの頬にある傷に低い声で言われると迫力とすごみが違う。まわりは圧迫し
たような緊張感に包まれると、カインが何事もなかったような表情で、シンに向かっ
て言う。
「では、次にイチジョウ中尉」とカイン。
「あ、えっと、その・・・・シン・イチジョウ中尉です。まぁ、よろしく」
「ハッ、そんな挨拶があるかよ!」
 そのセリフは金髪の青年、リュージ・サワムラだった。
「だけど、挨拶っていえばこのくらいだろ」言われたシンの方は、リュージの言葉を余
り気にしていないかのような口調で応える。
「なんだと!」
 リュージはシンの態度が気に入らなかったらしく、シンの襟首を掴もうかという勢い
でシンに迫る。
「やめないか! サワムラ中尉!」
 カインの声が厳しく響くと、サワムラ中尉は渋々後に下がった。
「では、サワムラ中尉、挨拶を」カインは気を取り直してリュージを促す。
「リュージ・サワムラだ。アナハイム社のテストパイロットとして配属された。よろしく」
 リュージは、不満げな口調で挨拶した。
「では、つぎ、ラグナ・バナード少尉」と促すカイン。
「ラグナ・バナード少尉です。過去にメカニックをやっていました。現在はサワムラ中
尉と同じく、テストパイロットとして配属されました」
「つぎ、ジャネット・ラス少尉」
「はい。ジャネット・ラス少尉です。この船に乗るパイロットの中では紅一点になるけ
どよろしくね」
 ジャネットは言った後に、誰と言うわけでもなく、ウィンクをする。
「おっほん。必要以上の挨拶は遠慮するように」とカイン。
「まぁ、いいじゃないかアベル中尉」
 アベルのなだめたのはカノウ艦長だった。カインは渋々口を閉じて、何事もなかっ
たようにグレイ・ルースに自己紹介するように促す。
「ハッ、はい。グレイ・ルース準尉であります!」
 まだ十代の新人であるせいか一番元気が良い。リュージは必要以上に大きな声
を露骨に嫌な表情を出し、ケイスは鍛え甲斐のありそうな奴だといいたげに笑みを
浮かべ、カインは満足そうに頷いている。
 シンはグレイの大きな声に素直に驚き目を見開いていた。他の者もシンと同じよ
うな表情だった。
 カインはカノウ艦長に挨拶をお願いするような小さなディスチャーをすると、リュウ・
カノウ艦長が咳払いを一つしてから一歩前に出る。
「私がこのアイアンホースの艦長をすることになったリュウ・カノウ少佐だ。
 さて、ホワイトフェザー隊が編成された理由だが、一年戦争より続いているジオン
の残党のテロより守るために、策敵と同時に可能ならそれを殲滅することが大きな
目的だ。
 つまり、強襲策敵部隊というわけだ。
 それだけに、この艦に選ばれたクルーは1流の技術を持つものばかりだ。
 もっとも、エリートが1流だなんて考えは俺にはないがな」カノウは一瞬だけ少年の
ような無邪気な笑みを浮かる。その場にいたパイロット達はそれぞれ苦笑を浮かべ
る。その反応に満足そうに頷いたカノウはふたたび真玉顔に戻る「そう言った理由で
危険な任務の連続であることは十分考えられる。だが、私はホワイトフェザー隊のパ
イロットおよび、クルーそれを乗り越えられる能力は十分にあると判断する。
 それと、着任最初のこれは命令だ。どんな任務でも生きて帰ってこい」
 カノウ艦長が言葉を切ると。心地よい緊張感と沈黙が流れた。
「じゃぁ、挨拶は終わったな。最初に言ったように俺は堅苦しいことが嫌いだ、まぁ、カ
イン中尉がけじめを重んじるというので一応顔見せってわけだ。後はアベル中尉の指
示に従え」
 ケイスは面倒そうにその場を去った。カインはその場を立ち去るケイスを見送ると、
残ったパイロットに向き直る。
「では、これより休憩とする。艦より外出しても良いが、18:00には戻ってくるように」
 カインの言葉で皆が解散した。

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