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 ●若者の決断

 その頃、グレイ・ルースは・・・・
「え? これは?」
 ルースはテーブルの上に置いてあるセキュリティーカードを見ながら問う。
 しばしの沈黙は、無意味につけられたテレビから流れる、誰にも語りかけな
い声と音だけだった。
「この部屋の鍵よ。初日から行方不明になるのはいやでしょう? 私とホン・ロ
ンのことは話さないって約束すればいいの」
「でも・・・・」
「フフ、可愛いのね」
 アリエスはルースにフレンチキスをすると、そのまま部屋を出ていった。ルース
はただ、その場に座り込みぼんやり何処でもない場所を見つめていた。
 部屋に流れる報道番組にケネディが映る。
「私はジョージ・ケネディ、地球連邦の議員を務めています。
 私の過去の経歴をたどると、私は連邦軍の軍人をしておりました。そして、闘い
のむごさ、愚かさを体験しています。
 こんな私が、今更、武力無き平和について語っても、説得力がないかも知れま
せん。しかし、武力を行使したものだからこそ、武力を持つことの恐ろしさを自覚
しています。
 人間は弱い生き物です。ですから、強い力を持ちたいと願うのはごくごく自然な
ことですが、必要以上の力、つまり、武力を持つことで人はその弱さが故に、愚か
しい使い方しか思いつきません。
 人類は宇宙から見ればまだまだ子供です。
 我々はナイフの使い方を知らない子供にナイフを持たせるでしょうか?
 いいえ、もたせはしません。
 ナイフの恐さを自覚できない故に、自分を傷つけ、さらに他人も傷つけるからで
す。
 人類はまだ、軍事力というナイフを持つには幼すぎたのではないでしょうか?
 いえ、ナイフの使い方より学ぶべき事があります。
 話し合うことです。
 人類は話し合うことを学べばどんな困難な問題でも解決できると信じます」
 ケネディは短めの挨拶をすると軽く会釈する。
 すると、テレビに映っていなかった議員達が写し出され、盛大な拍手をしている。
「・・・・俺は、俺は・・・・」
 ルースはテレビをぼんやり見つめ、敬意、劣等感、嫉妬、羨望を同時に感じ取
り、自分のするべき事について考えていた。
「ルース。考えるだけでは駄目。行動に迷ったとき、自分を信じなさい」
 アリエスは優しく悩むルースを優しく抱きしめた。
 テレビの時計は18:00を指していた。

 

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